武家義理物語 6巻. [1] - 国立国会図書館デジタルコレクション
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それより二たび皃《かほ》をも見ずに隔
て。里帰《さとかへ》りの時。段/\《だん/゛\》状通にしるし。右《ミぎ》もらいしハ
姉《あね》なれバ。難病《なんびよう》ハ世に有るならひ。たとへむかしの形《かたち》
ハなくとも。是非《ぜひ》におくらせ給へ。一 命《めい》にかけても夫妻《ふさい》
願《ねが》ひの所存《しよぞん》。ことに此《この》たび妹《いもと》の心入。女ながら道理《たうり》に
つまりけると。心中の程《ほと》いひやりしに。親里《をやざと》に
も此事 満足《まんぞく》して。十兵衛 願《ねが》ひにまかせ。また姉《あね》
娘《むすめ》をつかハしけるに。うちとけて。ふびんをかけ
此 中《なか》長《なが》くもかなと祈《いのり》ける。女ハひとしほ男《をとこ》の情《なさけ》
をわすれもやらず。萬《よろつ》心にしたがひぬ。此 妻《つま》美女《びぢよ》
ならバ。心のひかるゝ所も有に義理《ぎり》ばかりの女房《にうハう》
なれば。只《たゞ》武《ぶ》をはげむひとつに身をかためぬ。此
女かたちに引きかへて。こゝろたけく割《わり》なき中に
も外を語《かた》らず。明暮《あけくれ》軍《いくさ》の沙汰《さた》して。廣庭《ひろにハ》に
真砂《まさご》を集《あつめ》め。城取《しろどり》せしが。自然《しぜん》と理《り》にかなひて
十兵衛が心の外なる事も有て。そも/\此女 武《ぶ》
道《だう》の油断《ゆだん》をさせずして。世に其名《よのな》をあげしと也。
其れより二度《ふたたび》顔《かお》も見ずに隔て、里帰《さとがえ》りの時、段々《だんだん》状通に記し、
「右《みぎ》貰いしは姉《あね》なれば、難病《なんびょう》は世に有る習《なら》い、たとえ昔の形《かたち》は無くとも、是非《ぜひ》に送らせ給え。
一命《いちめい》に掛けても夫妻《ふさい》願《ねが》いの所存《しょぞん》。
殊《こと》に此《こ》の度《たび》妹《いもと》の心入れ、女ながら道理《どうり》に詰まりける。」
と、心中の程《ほど》言い遣りしに、親里《おやざと》にも此の事 満足《まんぞく》して、十兵衛 願《ねが》いに任せ、また姉娘《あねむすめ》を遣わしけるに、打ち解けて、不憫《ふびん》を掛け、
「此の中《なか》、長くもがな。」
と祈《いの》りける。
女は一入《ひとしお》男《おとこ》の情《なさ》けを忘れもやらず、万《よろず》心に従いぬ。
此の妻《つま》、美女《びじょ》ならば、心の惹《ひ》かるる所も有るに、義理《ぎり》ばかりの女房《にょうぼう》なれば、只《ただ》武《ぶ》に励む一つに身を固めぬ。
此の女、形に引き換えて、心 猛《たけ》く、、割《わ》り無き中にも外を語《かた》らず、明《あ》け暮《く》れ軍《いくさ》の沙汰《さた》して、広庭《ひろにわ》に真砂《まさご》を集《あつ》め城取《しろど》りせしが、自然《しぜん》と理《り》に適《かな》いて、十兵衛が心の外なる事も有りて、そもそも此の女、武道《ぶどう》の油断《ゆだん》をさせずして、世に其《そ》の名《な》を揚《あ》げしと也。
【現代語訳】
それから、十兵衛と妹娘は、二度と顔を合わせず離れて過ごしました。
そして、妹娘の里帰りの時に、十兵衛は事の次第を書状に記しました。
「以上に記した通り、私が貰い受けたのは姉です。
難病にかかるのは、世の中ではどうしても起こりうることです。
たとえ昔の美しい姿でなくなったとしても、ぜひ私の元に送ってくださいませ。
命を懸けても夫婦になりたく存じます。
特に、この度《たび》の妹の心意気は、女ながら道理にかなった素晴らしいものでした。」
と、十兵衛が心の中を打ち明けると、親里の方でもこのことに納得して、十兵衛の願い通りに、改めて姉娘を遣わしたのでした。
十兵衛と姉娘は打ち解けて、
「この仲が長く続きますように。」
と祈ったのでした。
妻となった姉娘は、十兵衛が掛けてくれた情けを決して忘れることはなく、全て十兵衛の考えに従ったのでした。
この妻が美女であったならば、十兵衛も色に溺れてしまうこともあったでしょう。
しかし、容姿ではなく義理を第一として妻としたので、十兵衛はただひたすら武道を励む事だけに打ち込んだのでした。
この妻は美しい容姿と引き換えに、勇ましい心を持ち、十兵衛とは良い仲ではありながら、余計な事は言いませんでした。
いつも戦《いくさ》の戦法を考え、広庭で細かい砂を集めて使い、陣取りのシミレーションをしていましたが、自然と理にかなっていて、十兵衛が思いもよらない戦術を編み出したりしました。
こういうわけで、この妻は十兵衛が武道を怠ける隙《すき》を与えず、十兵衛はその名を世間に轟かすようになったのでした。
【解説】
十兵衛[明智光秀]の願いで、当初の約束通り、姉娘が嫁入りをします。
妻となった姉娘は、十兵衛が武道に専念する手助けとなり、十兵衛が出世していくという、ハッピーエンドとなりましたヾ(๑╹◡╹)ノ"
西鶴は光秀を謀反者としては、これっぽっちも書いていませんね。
意外とこの当時、世間でも、光秀は優秀な武将として評価されていたのかもしれません。
ちなみに、史実では、光秀と妻の娘が、細川ガラシャです。
そして、光秀の妻は本能寺の変の前に亡くなっています。
光秀の妻がこの話で書かれているような人物であり、妻が早くに亡くならなければ、本能寺の変やその後もまた別の展開になっていたかもしれませんね。
あれ?妹娘は里に帰った後、どうなったの?
三つ目はどうなってもいいけどねヾ(๑╹◡╹)ノ"
次回は挿絵の解説などをして、このお話の紹介は終了したいと思いますヾ(๑╹◡╹)ノ"
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