※下に現代語訳と解説があります。
武家義理物語 6巻. [1] - 国立国会図書館デジタルコレクション
※この記事では国立国会図書館デジタルコレクションの画像を適宜加工して使用しております。
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【原文】
十兵衛も縁《ゑん》の始めを祝《いわ》ひ、松竹《まつたけ》の臺《だい》の物を調《とゝの》へ、数々《かず/\》の盃事《さかづきごと》迄も、振《ふ》り分《わ》け髪《がミ》に見し姉娘《あねむすめ》と思ひしが、其《そ》の後《ゝち》寝間《ねま》の灯火《ともしび》近く、互《たが》ひに面《おもて》を見合ハせし時、十兵衛、昔の脇皃《わきがほ》に氣《き》を付けて、
「其《そ》の時《とき》ハ此の女に咎《とが》むる程《ほど》には有らぬ瘊子《ほくろ》一つ有りしが、大人しく成りて、其れも恥じて取り失せけるか」
と言はずして、耳《ミゝ》の辺《ほとり》を見しに、娘《むすめ》も早《はや》[最早?]心を付けて、
「是《これ》に瘊子の在《ましま》すハ、私《わたくし》の姉君《あねぎミ》也。
麗《うるハ》しき御姿《おすがた》、疱瘡《はうそう》にて変ハらせ給ひ、然《さ》りとハ女の身にしてハ、御愛《おいと》ほしき事也。
『差し置《を》きて自《みづか》らの縁組《ゑんぐミ》は逆《ぎやく》なる』
と断《ことハり》り申せど、二親《ふたをや》の命《めい》を背くなれば、是《これ》に送られけるも、心懸《こころが》ゝりの止む事無し。
今、思ひ合わせば、此方様《こなたさま》の御約束《おやくそく》は姉君《あねぎミ》に疑ひ無し。
如何《いか》にしても道《ミち》の立ゝざる事なれば、何事《なにごと》も許し給ハれ。
私《わたくし》は今日《けふ》より出家《しゆつけ》」
と守《まも》り刀《がたな》にて黒髪《くろかミ》切《き》るを留《とゞ》めて、
「其《そ》の方《はう》、形《かたち》を変へても、世間《せけん》濟《す》むまじ。
人知れず内證《ないしやう》にて某《それがし》が分別《ふんべつ》有り。
五日に帰《かへ》るまで待《ま》ち給へ。
武士《ぶし》の息女《そくぢよ》の心底《しんてい》」
と深く感じて、
【現代語訳】
十兵衛もこの縁組の始まりを祝い、松竹の台の物[祝儀に使用する、松竹をかたどった料理を乗せた台]を用意し、色々と婚礼儀式を行いました。
三三九度の盃を交わしても、妹娘だとは思わず、振り分け髪[幼児の髪型]の時に見たきりの姉娘だと思っていました。
それから、寝室で二人きりになり、灯火の近くでお互いに顔を見合わせた時、十兵衛は妹娘の横顔が気になり、
「たしか、昔に見た時、この女には気になる程ではないホクロが一つあったのだが、成人になって、これさえも恥ずかしくなって、取り払ってしまったのだろうか?」
と、言葉には出さずに、耳の辺りを見ました。
妹娘も、十兵衛がホクロのことを気にしているのを、すぐに気付いて、
「ここにホクロがあるのは、私の姉君です。
美しいお姿は、疱瘡で醜くお変わりになり、それはそれは女の身としては、お気の毒なことになりました。
『姉君を差し置いて、私の方が先に縁組をするのは、順番が逆です』
とこの縁組を最初はお断りしたのですが、最終的には両親の言いつけに背くことは出来ず、こちらに送られたのです。
しかしながら、姉君を差し置いた事が、ずっと気にかかっておりました。
今になって、考え合わせると、あなた様と縁組のお約束をしたのは、まぎれもなく姉君だったのでございますね。
知らなかったこととはいえ、どう考えても世間の道理に外れたことです。
私は今日から出家いたしますので、どうか許して下さいませ。」
と言って、守り刀で黒髪を切ろうとしました。
十兵衛はそれを止めて、
「そなたが髪を切って出家しても、世間は納得しないでしょう。
私が人知れずこっそりと何とかいたしましょう。
五日後の里帰り[婚礼の五日後に里帰りする風習があった]までお待ちなさい。
それにしても、武士の娘の心意気は素晴らしい。」
と深く感動したのでした。
【解説】
十兵衛は婚礼の儀式が済んでも妹娘だとは気づかなかったのですが、近くで見た時にとうとうおかしなことに気づいてしまいます。
姉娘にあったはずのホクロがなかったのです。
はい、ここでやっと、この作品のタイトル「瘊子は昔の面影」(「確か前はホクロがあったはず」)が回収されましたヾ(๑╹◡╹)ノ"
聡明な妹娘は、実は十兵衛の相手は姉娘だったことに、すぐに気づいてしまいます。
私が妹娘だったら「えへへ、ホクロは取っちゃいました~」っていってそのままごまかすのですが、武士の娘としてそれは許されない事だったのでしょうね。
十兵衛は内々に何とかすると、出家しようとする妹娘を止めるのですが、はてさて、十兵衛にはどのような考えがあるのでしょうか?
次回で最終回ですヾ(๑╹◡╹)ノ"
【振り分け髪】(イメージ画像)
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