さあ、今日から狂言の「鈍根草」の本文を読んで行くよ!
『狂言記』巻三の三
国立国会図書館デジタルコレクション - 狂言記 5巻. [3]
※この記事では国立国会図書館デジタルコレクションの画像を適宜改変して使用しています。
【翻刻】
三 とこんさう
▲との 罷出たるは此あたりの者て御ざる、さやう
に御ざれば。いつも鞍馬《くらま》へくわしやを。だい
まいりに。まいらするやうに御さる。今日ハ
それかしが。社参《しやさん》いたそうとぞんする。太良
くわじやを。よびいだし。申付ふとぞんする。
太良くわじやあるか ▲くわしや おまへに ▲との ねんなふ。
はやかつた。なんぢよび出す別義《へつき》でない。
鞍馬へ今日ハまいらふとおもふほとに。供《とも》の
やういをいたしませい ▲くわしや したくいたして
御ざる ▲との こい/\。なんぢハ。ミちすがらの名跡《めいせき》
古跡《こせき》があらバ。かたれ ▲くわしや 畏て御さる。とつと
御さりました ▲との この河《かハ》ハなにといふ ▲くわしや
たかの河と。申まする ▲との ふん。たかの川といふ
ハ。是か ▲くわしや 中/\ ▲との きゝおよふだより。いか
い川ぢや ▲くわしや すなはちこれが。ミぞろ池《いけ》で
御ざる ▲との はて。いかひ池ぢやな。こい/\ ▲くわしや
はあ。ほとなふ。おまへで御さりまする ▲との てう
づをくせい ▲くわしや 畏て御ざる ▲との やい。なん
【原文】※漢字や送り仮名を補足
三「鈍根草《どごんさう》」
▲殿「罷《まか》り出たるは、此の辺りの者で御座る。
左様《さやう》に御座れば、いつも鞍馬《くらま》へ冠者《くわじや》を代参《だいまい》りに参らする様《やう》に御座る。
今日ハ某《それがし》が社参(しやさん)致そうと存ずる。
太郎冠者を呼び出だし、申し付けふと存ずる。
太郎冠者あるか。」
▲冠者「御前《おまへ》に。」
▲殿「念無う《なんなふ》早かつた。
汝《なんぢ》呼び出す別儀《べつぎ》で無い。
鞍馬へ今日ハ参ろうと思ふ程に、供《とも》の用意を致しませい。」
▲冠者「仕度致して御座る。」
▲殿「来い/\。
汝ハ道すがらの名跡《めいせき》・古跡《こせき》が在らば語れ。」
▲冠者「畏《かしこ》まりて御座る。
とつと御座りました。」
▲殿「この河《かハ》は何と言ふ。」
▲冠者「高野河《たかのがは》と申しまする。」
▲殿「ふん、高野川と言ふハ是か。」
▲冠者「中/\。」
▲殿「聞ゝ及ぶより厳《いか》い川ぢや。」
▲冠者「即《すなは》ちこれが深泥池《みぞろいけ》で御座る。
▲殿「はて、厳ひ池ぢやな。
来い/\。」
▲冠者「はあ、程無《ほどな》ふ御前《おまへ》で御座りまする。」
▲殿「手水《てうづ》をくせい[「くす」は「よこす」の意]。」
▲冠者「畏まりて御座る。」
▲殿「やい、汝
【ざっくり現代語訳】
三「鈍根草《どごんそう》」
▲殿「ジャジャ~ンと皆の前に出て来たこのワシは、この辺りに住む者でござる。
そんなわけで、いつも鞍馬寺へは冠者をワシの代理としてお参りに行かせているのじゃが、今日はワシが自らお参りに伺おうと思っておりまする。
太郎冠者《たろうかじゃ》を呼び出して、その旨を申しつけようと思うのじゃが、太郎冠者はおるか~?」
▲冠者「目の前におります。」
▲殿「うは、思ったより早く来たな。
お前を呼び出したのは大した事ではない。
鞍馬寺へ今日、お参りに行こうと思うから、お供の用意をしなさい。」
▲冠者「もう用意は出来ております。」
▲殿「なんじゃ、これまた早いな、じゃあ、行くぞよ!
お前は道中に名所旧跡があったら説明しなさい。」
▲冠者「かしこまりました。
あ、早速、有名な川が見えてきました。」
▲殿「またまた早いな。
この川は何と言う川じゃ?」
▲冠者「高野川と申します。」
▲殿「ふ~ん、これが世に聞く高野川か。」
▲冠者「そうでございます。」
▲殿「思ったより大きな川じゃな。」
▲冠者「そして、こちらが深泥池《みぞろいけ》でございます。」
▲殿「はてさて、これも大きな池じゃな。
さあ、どんどん行くぞ!」
▲冠者「ははあ、もう鞍馬寺に着きまする。」
▲殿「もう着いたのか。
では、手水《ちょうず》を遣《よこ》しなさい。」
▲冠者「かしこまりました。」
▲殿「さあ、お前も
【解説】
冒頭の「罷り出たるは、この辺りの者で御座る」は狂言の決まり文句です。
なんか唐突な言葉に感じますが、とりあえずの決まった挨拶だと思えばよいでしょう。
狂言には「太郎冠者」という人物がよく出てきます。
「冠者」は「使用人」を意味するのですが、「太郎」は名前ではありません。
狂言には「太郎冠者」とともに「次郎冠者」「三郎冠者」もよく出てきます。
つまり、「太郎」「次郎」「三郎」は序列を現していると思われ、「太郎冠者」は「筆頭の使用人」のことだと思われます。
ここの「殿」は、一国一城の主というわけではなく、とある武家の主人レベルの人物だと思われます。
『狂言記』において、「大名」の場合はちゃんと「大名」と役柄が書かれているのです。
それにしても、お武家様を茶化して大丈夫だったんですかね?
人物を特定さえしなければ、我々が思ってるより、このあたりは大らかだったのかもしれません。
言われる前に行動している太郎冠者はデキる男のようですが、殿は少々頼りなく感じますね。
せっかくの名所を見た感想も「思ったより大きい」だけですし(笑)
庭の池とかしか見たことがなかったんですかね?(笑)
野村万蔵さんのブログに「鈍根草」のことが書いてあるよ!
「この狂言はとっても珍しい狂言で、国立能楽堂でも15年振りだそうです[中略]
何でやらないのかな?それは台本が悪い(つまらない)からだと思います。」
つまんないものを、これから読んでいくのか。。。
大丈夫だよ、北見花芽のブログはいつもつまんないんだから♪
次回予告 兼 くずし字クイズ
さて、今回はタイトルにある「鈍根草」は出てきませんでしたが、次回は出てくるのでしょうか???
ヒント1っ!
役柄の部分は今回も散々出てきたので、何と書いてあるかわかりますよね?
植物の名前は、上はもうお分かりですよね♪
下は「にく」ではありませんw
ヒント2っ!
◆北見花芽のほしい物リストです♪ ご支援よろしくお願いします♪
いただいたぺんてる筆のレビューはこちら♪ NEW!
◆オススメ書籍 私もちょっとだけ書いてます♪
西鶴作品が現代語でわかりやすく読めます♪
江戸の男色文学を紹介するエッセーなどが掲載されています♪
◆北見花芽 こと きひみハマめ のホームページ♪
◆はてなIDをお持ちでない方も、拍手で応援していただけたら嬉しいです♪
(コメントもできます)
◆ランキング参加してます♪ ポチしてね♪
◆よろしければ はてなブックマーク もお願いします。憧れのホットエントリー(笑)