さて、前回まで読んでいた『浦島太郎』の挿絵に描かれていた亀、何で耳があるのかしらん?という疑問。
国立国会図書館デジタルコレクション - 御伽草子. 第21冊 (浦嶌太郎)
本来、亀には耳がないですよね[本当はあるけど、穴が開いているだけ]。
とりあえず、江戸時代の百科事典『和漢三才図会』をパラパラとめくってみると、耳のある亀、いますねー(笑)
国立国会図書館デジタルコレクション - 倭漢三才図会 : 105巻首1巻尾1巻. [32]
『浦島太郎』の挿絵に出てきた亀に一番近いのはこれかな?
同じように毛が生えてるし。
もちろん、普通に耳のない亀が描かれることもありましたが、こういう耳がある亀が描かれることは珍しくはなく、絵画的手法として、亀を描く時の定型スタイルの一つだったみたいです。
たとえば、獅子の絵だって本物のライオンとは違うでしょ?
実在の動物でもデフォルメが加えられるのはよくあることなのです。
では、この耳のある亀は何からイメージされたのか?
よく見てください、この亀の姿、甲羅を隠したら、ほら、竜なんですよ!
足に爪もあるし!
この『浦島太郎』の挿絵の場合は長い耳と言うより、角に近いかもしれませんね。
蛇でも耳のある、竜スタイルで描かれていることが少なくなく、
どうも爬虫類が竜スタイルで描かれる傾向があったみたいです。
そりゃそうですよね、まあ、竜もいわばでっかい蛇・爬虫類ですから(笑)
で、特に『浦島太郎』に、この竜スタイルの亀はふさわしいと思うんですよ。
なぜかって?
だって竜宮城の主は竜ですよ。
竜宮城の亀も、おそらく竜の一族ですから、竜の特徴を持った姿なのが、逆に自然と言うわけです。
やぱっぱりタダの亀じゃなかったんですよ、なにしろ、人に化けたり、時間を操れたり出来るんですから。
ちなみに、この吉弔という生物は、竜が生んだ二つの卵の一つから生まれるんだそうですよ。
さて、ここで、id:flemy さんからのご質問にお答えせねばなりますまい。
【flemy さん からの ご質問】
横槍ですが、中国の神話?で蓬莱山ってのがあり、それを亀が支えている、というお話があります。
麒麟とかと同じような、亀に似た架空の動物で、贔屓というもの。
これは耳があるんです。
私も詳しくはないんですが、どうも中国からの絵に影響受けて、日本でも浸透してた時代があるみたいですよー!
陶芸の絵付けをやってた時に、同じように疑問に思いましてさわりだけ調べたんです。
もし詳しくわかったら教えてくださーい!
【北見花芽の回答】
確かに耳がある亀は、元々は中国で生まれた可能性が高いでしょう。
贔屓《ひき》と言うのは、主に柱や石碑の土台に彫られていて、おっしゃる通り、日本の江戸時代でも普及しています。
ただ、先述のように、竜スタイルの亀はさまざまな種類が描かれているわけで、『浦島太郎』の挿絵に描かれているのも贔屓とは限らないというわけです。
以上
、、、回答は以上ですが、おそらくこれだけでは、物足りないとおっしゃるでしょうから(笑)、贔屓についてもうちょい調べてみました。
贔屓は、竜生九子《りゅうせいきゅうし》という、竜が生んだものの、竜になれなかった九匹の子供のうちの一匹とされています。
ただ、竜生九子という言葉自体は古くからあったものの、そのうちの一匹として贔屓が文献に現れるのは比較的新しい明の時代で、贔屓が亀に似ていると書かれている文献の初出は、おそらく楊慎[ようしん]作の『升庵外集』です。
江戸時代の写本からその部分を抜粋します。
国立国会図書館デジタルコレクション - 升菴外集卷95-97
【原文】
贔贔形似亀好負重
今石碑下亀趺是也
【書き下し文】
贔贔[ひひ?]、形は亀に似て、重きを負ふことを好む。
今、石碑の下の亀趺《きふ》は是也《これなり》。
【ざっくり現代語訳】
贔屓は、姿形は亀に似ていて、重いものを背負うのを好む。
今、石碑の下に彫られている亀のような土台は、この贔屓の姿である。
蓬莱山を亀が支えているという事は古代中国から言われていたそうです。
その、支えるというイメージから、石碑の土台に亀が彫られるようになったようです。
つまり、元々存在した亀の土台が、贔屓という生物にでっちあげられたのだと思われます。
「この昔からよくある土台の亀、竜っぽいから、竜生九子の一匹ということにしてしまえ♪」というわけです。
力を入れるときに出す声を「贔屓」と表記するそうです。
それを土台の亀が重いものを支えるというイメージと重ねて、「贔屓」という名にしたと思われます。
ちなみに、先に引用した『和漢三才図会』の「竜」の項目に「贔屓」の名は出てくるのですが、亀に似ているとは書かれていませんし、絵も描かれていません。
どうでしょう、 id:flemy さん、これで許していただけるでしょうか?(笑)
あ、前回、書き忘れましたが、蓬莱山・鶴・亀がセットの図柄は、日本では少なくとも平安時代以前から描かれていたみたいですよ!
三つ目コーナー
耳がある亀、『和漢三才図会』にもう一つ載ってたよ♪
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