人の肉、仏の肉、の巻　～「青頭巾」（『雨月物語』より）その10～ - うきよのおはなし～江戸文学が崩し字と共に楽しく読めるブログ～

「青頭巾」［『雨月物語』より］の続きだよ！

すっかり更新の間が空いちゃったけど、ボクのこと覚えてる？？？

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※この記事では、霞亭文庫の画像を適宜改変して利用しています。
霞亭文庫書誌詳細
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【くずし字クイズの答え】

院主（ゐんじゆ）
何をか歎（なげ）き給ふ。もし飢（うへ）給ふとならば野僧が肉（にく）に腹（はら）をミたし
め給へ。

［くずし字クイズの補足説明］
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【原文】

巡りて躍（をど）り狂ひ、遂（つひ）に疲（つか）れ伏して起き来らず。
　夜明て朝日の差し出でぬれば、酒の醒（さめ）たるごとくにして、禅師が元の所に在（いま）すを見て、只呆（あき）れたる形（さま）に物さえ言はで、柱（はしら）にもたれ、長嘘［溜息］（ためいき）を吐（つ）ぎて黙（もだ）し居たりける。
　禅師、近く進み寄りて、
「院主（ゐんじゆ）、何をか歎（なげ）き給ふ。
　もし飢（うへ）給ふとならば、野僧が肉（にく）に腹（はら）を満たしめ給へ」
　主（あるじ）の僧言う。
「師は夜もすがら、そこに居させ給ふや」
　禅師言ふ。
「こゝに在りて、眠る事なし」
　主の僧言ふ。
「我、浅ましくも人の肉を好めども、いまだ佛身（ぶつしん）の肉味を知らず。
　師ハ真（まこと）に仏なり。
　鬼畜（きちく）の暗き眼（まなこ）を以て、活佛（くハつぶつ）の来迎（らいがう）を見んとするとも、見ゆべからぬ理（ことわ）りなるかな。
　あな尊（とうと）」
　ゝ頭（かうべ）を低［垂］（たれ）て黙（もだ）しける。
　禅師言ふ。
「里人の語るを聞けば、汝（なんじ）一旦［一度］（ひとたび）の愛慾（あいよく）に心神（こゝろ）乱れしより、忽（たちま）ち鬼畜に堕罪（だざい）したるハ、浅まし

【さっくり現代語訳】

（今度は庭を）グルグル回って狂ったように飛び跳ね、とうとう疲れてバタンキューと倒れたのでした。

夜が明けて、朝日が差してきたので、住職はまるで酒の酔いから醒（さ）めたような気持ちで目を覚ましました。

快庵禅師が昨夜と同じ所にいるのを見て、ただ呆然（ぼうぜん）と驚き、柱にもたれてため息をつき、一言も発することが出来ませんでした。

快庵禅師は住職に近寄り、

「住職殿、何をそんなに歎（なげ）いておられる？

もし、腹が減っているなら、私の肉を食べて、腹を満たしなされ。」

と嫌みったらしく言いました。

住職が、

「あなた様は、一晩中、そこにいらっしゃったのですか？」

と聞くと、快庵禅師は、

「ここにいて、ずっと起きていました。」

と答えました。

そして、住職は、

「私は愚かにも人の肉を好んで食べますが、いまだに仏の肉を食べたことはありません。

なるほど、あなたは真の仏でございます。

私のような鬼畜な者の濁った目で、あなた様のような生き仏の姿が見えなかったのは当然のことです。

ああ、尊いことです。」

と言い、ガクッとうなだれて、黙り込んでしまいました。

快庵禅師は、

「里人が語るのを聞いたが、お前は一時（いっとき）の愛欲におぼれて精神に異常をきたし、鬼畜に成り下がってしまったのは、愚か

【解説】

期待したようなバトルはなく、あっさりと勝負に決着はついたようです（笑）

快庵禅師の姿が住職には見えなかったということですが、寝る前と起きた後は、普通に姿が見えていますよね。

住職に快庵禅師の姿が見えなかった時間は何があったか？

はい、前回を読み直して下さい（笑）

kihiminhamame.hatenablog.com

そう、住職に快庵禅師の姿が見えなかった間は、月の光が寺の中を照らしています。

つまり、月の魔力によって快庵禅師の姿が住職には見えなくなったのではないでしょうか？

月の光が快庵禅師から発するオーラを照らして増幅し、それに包まれた快庵禅師の姿がまぶし過ぎて、濁った住職の目には入らなかったということでしょう。

さてさて、鬼畜道に堕ちてしまった住職を、快庵禅師はどう救おうというのでしょうか？

次回に続く！