親の敵を捜しているのです　～『男色比翼鳥』巻１の１　その４～ - うきよのおはなし～江戸文学が崩し字と共に楽しく読めるブログ～

「うきよのおはなし（はてな）」一周年記念企画、『男色比翼鳥』巻１の１読み直しの続きだよ！

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※この記事では、国立国会図書館デジタルコレクションの画像を適宜改変して使用しております。
男色比翼鳥 6巻. [1] - 国立国会図書館デジタルコレクション
※画像はクリックすると拡大します。

【前回のくずし字クイズの答え】

かたきの行衛しらしめ給へと扨（さて）こそこもり候なり

【原文】

緑、打ち笑ミ、
「いやはや、御尋ねに預り、恥づかしき事のミ咄し侍らん。
某（それがし）は都の者、前髪（まへがミ）有る役とて、西木原安左ェ門（くりばらあんざゑもん）と云ふ男、兎や角（とやかふ）のと申せど、心心見届けざる者故、一圓（ゑん）従わざりしを恨み、親（おや）松枝藤兵衛、討（う）ち立ち退きたり。
親の敵（かたき）なれば、此の三ヶ年、国々所々を尋ぬれど、夫（そ）れぞと思ふ人も無し。今（いま）ハ詮方（せんぼう）［？］尽き、今宵御仏に是を嘆き、敵（かたき）の行衛（ゆくえ）知らしめ給へと、扨（さて）こそ籠り候ふなり。」
音羽（をとハ）、つく／゛＼と聞き、
「然（さ）りとハ数（す）年の御苦労、思ひやられて労（いたハ）しくこそ候へ。
某（それがし）願ひは、其の方様とハ替はりたる。
あらまし、斯（か）くの通り。」
と、心に込めし諸分けを話せば、松枝、につこと笑ひ、
「是ハ替はつた御願ひ。
前髪持ちたる身、誰しも斯（か）く有るべき物なり。
いざや、我も頼（たの）み無き独り者、心中能（よ）き

【さっくり現代語訳】

緑之助は微笑（ほほえ）み、

「なんとまあ、せっかく尋ねていただいたので、恥ずかしながらお話します。

私は京の都の者です。

「前髪のある若衆の役目として、私の弟分になれ！」と、栗原安左衛門（くりばらあんざえもん）という男が、何だかんだ言って来たのですが、心持ちが悪い男でしたので、全く従いませんでした。

それを恨んで安左衛門は、こともあろうに私の親の松枝藤兵衛を討ち、逃亡してしまいました。

親の敵ですので、この三年の間、あちらこちらを捜し回ったのですが、それらしい人も全く見つかりませんでした。

もうどうしようもないので、今晩、文殊様にこのことを嘆き、「親の敵の行方を教えてくだされ」と、祈るために籠っているのです。」

音羽之丞は、しっかりと聞き、

「これはこれは、この数年の間、ご苦労されたのですな。

そのことを思うと、胸が痛みます。

私の願いはあなた様とは違っておりまして、良い兄分を持ちたいという願いでございます。」

と、心に思っている事を話すと、緑之助はニッコリ笑い、

「これはずいぶん私とは違うお願いですな。

確かに、前髪を持つ若衆の身であるなら、誰しも良い兄分を持ちたいものです。

そういう私も兄分のいない独り者です。

心が通じ合う

【解説】

若衆と言うのは、元服前の前髪のある少年です。

元服すると、前髪を剃って大人の男性になります。

よく見るこういうチョンマゲを結った髪型ですね。

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このころの男色の関係と言うのは、必ず若衆と成人男性の組み合わせと決まっていました。

成人男性が兄分で、若衆が弟分と言うわけです。

若衆が元服すると、兄分との関係は解消して、今度は弟分を持つ身となるわけです。

なので、若衆同士が男色カップルになることはありえなかったのです。

ジェンダーフリーな自由な恋愛かと思いきや、実はそういう決め事に縛られた、いかにも封建社会下の風習だったわけです。。

もちろん、例外もあったでしょうが、それはあくまでも例外でした。

敵討ちは国主に願い出る許可制で、公（おおやけ）に認められたものでした。

しかし、敵討ちを果たすまでは元の生活には戻れない過酷なものでした。

返り討ちにあってしまうことも少なくなかったようです。

ちなみに、無許可で敵討ちを行うと、処罰の対象になったようです。

それにしても子供に振られたからって、親を討つとはどういうこっちゃ！