今回からもう少し本所七不思議について掘り下げてみたいと思います。
せっかく調べたので(笑)
甲子夜話続編
「本所七不思議」の名称が初めて登場するのは、松浦静山作『甲子夜話続編』巻46-16[文政~天保[1820-1840]作]です。
予が荘の辺り、夜に入れば時として遠方に鼓声(こせい)を聞こゆる事あり。
世にこれを本荘七不思議の一と称して、人も往々知る所なり。
因って其の鼓声を標(しるべ)に其処(そこ)に到れば、又移りて他所に聞こゆ。
(中略)近所なる割下水迄は其の声を尋ねて行きたれど、鼓打つ景色もなく、
(中略)狐狸のわざにもあるか。
私の屋敷の辺りでは、夜になると時々、遠くの方から鼓の音が聞こえてくることがあります。
これを世間では本所七不思議の一つと言って、誰もがよく知っています。
その鼓の音が聞こえてくる場所に行って見ると、鼓の音は移動して、他の場所から聞こえます。
(中略)近所の割下水まではその鼓の音がどこだか探しに行ったのですが、鼓を打っている気配もなく、
(中略)狐や狸の仕業でしょうか。
もののけ解題 妖怪ばなし七変化―――常識では判別できない怪しい存在 - 高山宗東 - Google ブックス
いわゆる「狸囃子」「馬鹿囃子」と呼ばれる怪異ですね。
他の六つが何か書かれていないのが残念です。
はい、お待ちかねの地図ドン!
〔江戸切絵図〕. 本所絵図 - 国立国会図書館デジタルコレクション
※ この記事では国会図書館デジタルコレクションの画像を適時改変して使用しています。
作者の松浦静山の屋敷はここです。
尋ねて行った割下水は、北割下水のことでしょうね。
七不思儀葛飾物語
七種類が全て書かれた最初の資料は、前にも少し触れた、二世柳亭種彦作『七不思儀葛飾物語』四編上序[元治二[1865]年刊]でしょう。
七不思儀葛飾物語. 初,2-10篇 / 柳亭種彦 作 ; 梅蝶楼国貞 画
置いてけ堀に釣りに行こう! ~『亀山人家妖』その7~ - うきよのおはなし~江戸文学紹介ブログ~
所謂(いわゆる)本所(ほんじょ)の七不思議は、
○片葉の葦(あし)
○置いていけ掘
○埋蔵(うめぐら)の溝(とぶ)
○足洗い屋舗(やしき)
○送り挑燈(ぢょうちん)
○赤豆婆(あずきばば)
○灯り無しの蕎麦屋(そばや)
なり。
しかるに、一説には、片葉の葦と置いていけ掘の外(ほか)は、皆、異(こと)にて、
○馬鹿囃子(ばやし)
○三ッ目橋の火
○姥(うば)の足跡
○姥(うば)が蔵
○鳴かぬ茅蜩(ひぐらし)
を筭(かぞ)え入れたれば、必ず七事(ななつ)と決(さだま)りたるにもあらず。
七不思議と言いながら、全部で十二も書かれています。
この中で、「片葉の葦」「置いていけ掘」「足洗い屋舗」「送り挑燈」「灯り無しの蕎麦屋」「馬鹿囃子」は、前回までに紹介した明治時代の浮世絵にも描かれていましたね。
ただ、名称しか書かれていないので、残りの「埋蔵の溝」「赤豆婆」「三ッ目橋の火」「姥の足跡」「姥が蔵」「鳴かぬ茅蜩」は、他の資料にも見られないので、どういう怪異か不明です。
推測するに、「埋蔵の溝」は「埋堀」のことだと思いますが、ここにも片葉の葦的なものが生えていたのですかね?
「赤豆婆」は、妖怪小豆洗い(あずきあらい)と同じように、
By Takehara Shunsen (竹原春泉) - ISBN 4-0438-3001-7., パブリック・ドメイン, Link
小豆を研ぐ音がどこからか聞こえる怪異でしょうね。
「三ッ目橋の火」は「狐火」とかと同じように、三つ目橋の上に火の気もないのに火が見えるというような、よくある怪異でしょうね。
「姥の足跡」「姥が蔵」、姥関係が二つもあります。
「姥の足跡」は誰も通らないような場所に足跡がついているような怪異なのでしょうが、「姥が蔵」は謎の姥が出てくる蔵があったのですかね???
「鳴かぬ茅蜩」は、「茅蜩(ひぐらし)」は「カナカナ」と鳴くセミのことでしょうが、そもそも、セミのメスは鳴きません(笑)
地図ドン!
「埋堀」はここです。
あれ?この辺りの「石原」って町名、どっかで聞いたような?
ピンと来た方はこのブログのマニアです(笑)
この件に関してはまた改めて♪
「三つ目橋」はここです。
呼んだ?
呼んでない。
「三つ目」は妖怪とは関係なく、隅田川から数えて三つ目の橋という意味です。
陰陽外伝磐戸開
もう一つ、賀茂規清(かもののりきよ)『陰陽外伝磐戸開(おんようがいでんいわとひらき)』[江戸末期作]にも「本所七不思議」の名称が出ていました。
江戸本所深川に於(お)いて何者か深更(しんこう)馬鹿囃子の事
附、同じく本所七不思議の中、幽霊橋の事
という章題で、「馬鹿囃子」と「幽霊橋」のことが書かれていました。
長いので、一部を抜粋!
まず、「馬鹿囃子」の事。
去れば、馬鹿囃子は風なく静かなる夜にある事なり。
其の調子、優(まさ)しく乱拍子の曲にして、至極の妙音なり。
是(ここ)に於いて、誰人(たれびと)に倚(よ)らずとも、音の元を尋ねん心掛け有りと雖(いえど)も、何分其の所を一往(さだか)にせず。
其(そ)は近くなるかと思えば遠くなり、西にあるかと為(す)れば東にありて、幾重にも方角を弁(わきま)えず。
依って、是非なく狐狸の為(しわざ)と為(な)して、其の奥の理を窮(きわ)むる人もまた非(あら)ず。
是を本所深川の馬鹿囃と言って世に名高き奇なり。
去れば此の奇は雨気附きたる薄曇りして邌(そよ)とも風なき夜にあらざれば非ず。
馬鹿囃子は、風が無くて静かな夜に起こります。
とても乱れたリズムの曲で、とても変な音です。
誰かが音の出所を探そうとしても、どこから聞こえてくるのかわかりません。
近くで聞こえるかと思えば遠くなり、西で聞こえるかと思えば東に移動し、アチコチで聞こえるので方角すら分からなくなります。
なので、キツネやタヌキの仕業ということにして、その原因を究明する人もいません。
これを本所深川の馬鹿囃子と言い、世間でも知られたことです。
この怪異は、雨が降りそうな薄曇りの空で、少しも風が吹かない夜でなければ起こりません。
陰陽外伝磐戸開 - 国立国会図書館デジタルコレクション
この後、賀茂規清は馬鹿囃子が聞こえる要因を分析し、雨になりそうな重い空気が留めたさざ波の音が正体と結論付けますが、私にはその論理はよく分かりませんでした(笑)
興味のある方は、リンク先で全文読めますので!
でも、この時代に怪異の原因を科学的(?)に分析しようとした人がいたことにビックリです。
続いて、「幽霊橋」の事。
同じく本所七不思議の中なる幽霊橋の奇は、往古(むかし)此の橋にて座頭(ざとう)を殺害せしことあり。
故に其の幽霊深更に此の橋を彼方(かなた)に渡り、是方(こなた)に渡る由(よし)なり。
併(あわ)せて誰あって其の姿を見たる者なしと雖(いえど)も、只ガタガタと下駄の音を為(な)せり。
故に彼(か)の幽霊なりと言えり。
依って人々恐怖して此の橋を幽霊橋と称(なず)く由なり。
同じく本所七不思議の一つの幽霊橋の怪異は、昔、この橋で座頭(ざとう)[盲人]が殺されたことがあったそうです。
その殺された座頭の幽霊がこの橋を、あっちから、こっちから、渡るのだそうです。
誰もその座頭の幽霊の姿を見た者はないのですが、ただガタガタと下駄の音がするのだそうです。
その下駄の音こそ座頭の幽霊が歩く音だというわけです。
そして、人々は恐れてこの橋を幽霊橋と名付けたそうです。
この後、賀茂規清は、座頭の幽霊の下駄の音を、橋の板が緩んだり、不揃いだったりしてしてガタつく音だと分析します。
はい、これは分かりました(笑)
「幽霊橋」は初登場ですね。
幽霊橋の場所は具体的には示されていないのですが、例の浮世絵で、按摩(あんま)さんが割下水の橋の上を渡る描写があったので、幽霊橋は南割下水にかかっている橋かもしれません。
kihiminhamame.hatenablog.com
他にも書かれている資料があるのかもしれませんが、とりあえず、江戸時代の資料で「本所七不思議」の名を目にできたのは、この三つです。
意外とありません。。。
三つ目コーナー
うへへ、今日も北見花芽が横で寝てたよ♪
おい、三つ目、早く気づけ!
いつもお前と寝てるのは私じゃないぞ!
kanahiro (id:kanahiro9-22_22-8-8) さん、大正解w
「なるほどたぬき・・・・あれ?三つ目く~ん(*´▽`*)たぬきにばかされているんじゃ???(笑)危険だ!危険すぎる!!」
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