※この記事では国立国会図書館デジタルコレクションの画像を適宜改変して使用しています。
和文教科書. 7之巻 宇治拾遺物語ぬきほ - 国立国会図書館デジタルコレクション
【原文】
田舎の児《ちご》、櫻の散るを見て、泣く事、
これも、今は、昔、田舎の児《ちご》の、比叡の山へ、登りたりけるが、櫻の目出度《めでた》く咲きたりけるに、風の、烈しく、吹きけるを見て、この児《ちご》、さめ/゛\と泣きけるを見て、僧の、やはら寄りて、
「何《な》ど斯《か》うは、泣かせ給ふぞ、此《こ》の花の散るを、惜しう覚えさせ給ふか。
櫻は、儚《はかな》き物にて、斯《か》く程無く、移ろひ候ふなり。
然《さ》れども、然《さ》のみぞ候ふ」
と、慰めければ、
「桜の散らんは、強《あなが》ちに、如何《いかゞ》せん、苦しからず。
我が父《てゝ》の作りたる、麦の花、散りて、實の入らざらんを、思ふが、侘《わび》しき」
と、言ひて、噦《さく》り上げて、「よゝ」と泣きければ、転《うたて》しやな。
「さのみぞ候ふ」は、「然《さ》ばかりにては無し」の意に、云ふべき所なれば、落字もやあるべからん。
「うたてしやな」の下には、語多く落ちたるならん。
【さっくり現代語訳】
田舎出身の稚児が、桜が散るのを見て泣いた事。
これも今となっては昔のことですが、田舎から比叡山にやってきた稚児がいました。
ある時、満開の桜の花に、風が激しく吹きつけるのを見て、この稚児は、涙を流し、声を押し殺して泣いていました。
この様子を見て、ある僧が、そっと寄ってきて、
「あなた様はどうしてお泣きになっているのですか?
桜の花が散るのを残念にお思いなって、お泣きになっているのですか?
桜の花は、はかない物でして、咲いても、このように、すぐに散ってしまうのですよ。
ですが、来年になればまた咲くので、どうってことはないのですよ。」
と慰めました。
すると、稚児は、
「桜の花が散るのは、どうすることもできないので、何とも思っていません。
桜の花が散るのを見ると、私の父親が作っている麦の花が散るのを連想して、麦が実らないことを想像して辛くなるのです。」
と言って、しゃくり上げて「おいおい」と泣くので、僧は「なんのこっちゃ」と思ったのでした。
【解説】
稚児が風流にも桜が散るのを嘆いているのか思いきや、無風流にも畑の麦の事を考えていたという笑い話です。
要は田舎者をディスっているわけですね。
前回の「稚児のそら寝」もそうですが、稚児には食べ物にまつわる笑い話が多いようです。
過去記事の『醒睡笑[せいすいしょう]』のお話もそうですね。
kihiminhamame.hatenablog.com
なにしろ、育ち盛りでしょうからね。
でも、このお話、少し見方を変えてみましょう。
この稚児、父が作る麦の事を思い出すということは、ホームシックにかかってるんですよね。
おそらく口減らしのためでしょうか、まだ幼いうちに比叡山に稚児として出されてしまったのでしょう。
この稚児の境遇を考えると、何ともいたたまれない思いになります。
連続して『宇治拾遺物語』をやると、書く方も読む方も飽きてくるので、次回は相撲双六の続きでもやろうかなと。
三つ目コーナー
うわ~ん(泣)
どうした?
ぼくの髪の毛が散っちゃったらどうしよう!
お主には散る髪の毛など元々ないわ!
◆インフォメーション
井原西鶴の大著、『男色大鑑』の一般向けの現代語訳が発売されました♪
北見花芽の中の人もちょっと書いてるので、興味のある方も無い方も、下のアマゾンリンクから、お買い求めくださると狂喜乱舞します♪
※ 書店で買っても、北見花芽の中の人には直接お金が入らないので何卒。
- 作者: 染谷智幸,畑中千晶,佐藤智子,杉本紀子,濵口順一,浜田泰彦,早川由美,松村美奈,あんどうれい,大竹直子,九州男児,こふで,紗久楽さわ
- 出版社/メーカー: 文学通信
- 発売日: 2018/12/10
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
『男色を描く』も合わせてお読みいただけるとより楽しめると思いますよ♪
※ こちらも北見花芽の中の人がちょっと書いていますので。
◆北見花芽のほしい物リストです♪ ご支援よろしくお願いします♪
◆北見花芽 こと きひみハマめ のホームページ♪
◆はてなIDをお持ちでない方も、拍手で応援していただけたら嬉しいです♪
(コメントもできます)
◆ランキング参加してます♪ ポチしてね♪
◆よろしければ はてなブックマーク もお願いします♪ バズりたいです!w