玉水物語 2巻 | 京都大学貴重資料デジタルアーカイブ
※この記事では、京都大学貴重資料デジタルアーカイブの画像を、適宜改変して使用しています。
【原文】
がら過ぐる朝の心にハ思ハざらなん。真《まこと》の親ならねバと受け給はる[承る]こそ侘しけれ」
など言ゝて、返事をしけれバ、是を見て、
「実《げ》に/\嘸《さぞ》あらん理《ことハり》ぞかし」
とて打ち泣きぬ。
去る程に、三年《みとせ》と申す神無月に、姫君の親しき人/\数多《あまた》寄り集まり給ひて、
「紅葉合ハせ有るべし」
と定めさせ給ふ。
明日にも成りぬれば、色美しく、葉《よう》数多《あまた》あらん紅葉を尋ね侍るに、此の玉水、夜更けて打ち紛れ出で、元の姿に成る。
鳥羽殿《とバどの》の南表の塚に、兄弟《あにおとゝ》など有る所へ行きたりけれバ、見つけて斜《なの》めならず悦《よろこ》び、
「如何《いか》にや、何処《いづく》より来たれるぞ。
失せぬると覚へて、後の営みをこそ此の三年ハしつれ」
「此の程、御所の邊に侍《さぶら》ふ也。静かに語り申すべし。
扨《さて》ハ明日、一大事の用有りて、紅葉尋ね来たりたり。
各々《おの/\》如何にもして尋ねてたべ」
と言ゝければ、
「所や有り。易《やす》き事かな」
と言ふ。
「嬉敷《うれしく》も有るかな。さらバ、高柳の御所、南の対《たい》[対の屋《たいのや》]の縁《ゑん》に、差し置き給へ」
と言へバ、
「易き事也。去りながら、犬や有る」
と言ふ。
「犬ハあらず、心安く御座《おハ》せ」
などと言ゝ置きて帰りぬ。
姫君、月冴へハ、
「例ならず何方《いづかた》え出で給ひしぞ」
と言へバ、打ち笑ひ、
「怪しき者に恋ひ契りて出会ひつる」
など戯《たハむ》れけれバ、
「実にさや有りつらん。いと久しかりし」
などと言へバ、姫君、
「さもあらば、如何に憎
【予習の答え】
神無月に姫君のしたしき人/\あまた寄
あつまり給ひて紅葉あハせ有へしとさためさせ給ふ
【現代語訳みつる】
「私も母上にお会いしたいのですが、日々のお勤めで思う様にはなりません。
私は母上を実の親のように思っておりますのに、実の親ではないなどとおっしゃられては辛うございます」
などと書いて玉水が返事をすると、これを見て養母は、
「そうかそうか、そうでございますよなあ」
と言って泣くのでした。
そんなこんなで三年が経った十月の事、姫君と親しい方々がお集まりになって、
「紅葉合わせをいたしましょう」
とお決めになりました。
そして、明日にでも、色鮮やかで葉の数も多い紅葉を、探すことになりました。
玉水は、夜が更けてから、こっそりとお屋敷を抜け出し、元のキツネの姿に戻りました。
鳥羽殿[京都の伏見の鳥羽に白河上皇が造営した離宮]の南正面にある塚に、玉水の兄弟が住んでいるので行くと、兄弟は玉水の姿を見つけてとても喜び、
「どうしてたんだ! どこから来たんだ!
お前がもう死んだと思って、この三年の間、お前の冥福を祈ってたんだぞ!」
と言いました。
玉水が、
「この三年の間、高柳様のお屋敷でお勤めしていました。
今日はナイショのお願いがあって来たのです。
実は、明日、どうしても紅葉が必要になりまして、お兄様方に、なんとしてでも探していただきたいのです」
と頼むと、兄弟は、
「紅葉がある所を知っているので、たやすいことだ」
と応えました。玉水は喜んで、
「嬉しゅうございます。でしたら、高柳様のお屋敷の、南の別館の縁側の前に、差して置いていただきたく存じます」
と言うと、兄弟は、
「たやすいことだ。
、、、ところで、犬はいないか?」
と尋ねました。玉水は、
「はい、犬はおりません。安心しておいでください♪」
と言い残して帰りました。
玉水がお屋敷に戻ると、姫君と月冴えが待ち構えていました。月冴えが、
「いつになく、こっそりと、どこへお出かけになっていたのですか?」
と聞くと、玉水は、
「どこかの誰かと恋に落ちまして、密会しておりました♪」
などと、ふざけて言いました。月冴えが、
「ああ、そうに違いない。随分長い時間お出かけでしたから!」
と言うと、姫君は、
「そうであったなら、何と憎
【解説】
はい、忘れかけていましたが、玉水の正体はキツネでしたね!
そりゃあ、三年も姿が見えなかったら、兄弟が死んだと思ったのも当然でございます。
でも、兄弟の絆は強いようで、玉水のお願いを快く聞き入れます。
犬を屋敷に置かないようにしたことが、ここで役に立つというわけですね。
さて、「紅葉合わせ」とは何でしょう?
検索したら、何かエッチい記事ばかり出てきたので、どうかみなさまは検索なさらない方がよろしいと思います(笑)
同様に「貝合わせ」も検索なさらない方がよろしいと思います(笑)
「紅葉合わせ」については、読み進める内にどんなイベントか分かると思いますので。
次回の予習
玉水の兄弟たちが紅葉を探すようです。
三つ目コーナー
ねえ、ねえ、北見花芽のこと、兄貴って読んでいい?
いいわけない。
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