玉水物語 2巻 | 京都大学貴重資料デジタルアーカイブ
※この記事では、京都大学貴重資料デジタルアーカイブの画像を、適宜改変して使用しています。
【原文】
入るべからず。
上飯王[浄飯王]《じやうぼんわう》の王子 悉達太子《しつだたいし》と申せしも、王宮を出給ひし故にこそ、今の釈迦佛とも成り給へ。
また、善悪を分け給ふハ業《ごう》にこそ有べけれ。
子の仇《かたき》を取り給へバ悪也。助け給へバ善也。
爰《ここ》において、善悪決定《けつじやう》は是を殺さんと思ひ給はんハ念ならずや。爰にをいて、払ハぬ念也。
彼是《かれこれ》を思ひ捨て給へバ、悟り也。
即身即佛《そくしんそくぶつ》こそ有らまほしけれ。
十悪五逆を尽くして、阿弥陀仏の教化《けうけ》を頼ミ給ハんことは、然《しか》るべからず。
此の上に夫《そ》れを思ひ取り給ハずバ力なし」
と申せバ、其の時古狐 猿眠《さるねぶ》りして打ち頷《うなづ》き、
「かゝる不思議に逢ふ事、前世の幸ひ也。
誠に殺したれバとて、恋しき我が子帰るべきにあらず。
今ハ一筋に亡き跡を弔《とぶら》ひ給へ。
我ハ入道して山深く閉じ籠《こも》り、念仏申すべし」
とて、病者の元を立ち退きけり。母は娘の人と物語りするとぞ思ひける。
扨《さて》、病者は心 軽《かろ》く成りて、物など言ゝ、物見入れ等《など》しける由《よし》聞ゝ、同じ畜類と言ゝながら、「有るが[?]見たり」とて語りけれバ、「実《げ》に然《さ》る事有り」とて、かの射《い》殺したる狐の跡弔《とむら》い様/\の孝養《けうやう》をしたり。
扨、玉水は心易《やす》く見置きて、
【予習の答え】
上ほん王のおうちしつた太子と申せしも
【さっくり現代語訳】
罪に善い悪いなどありません。罪は悪です。
浄飯王《じょうぼんおう》の王子の悉達太子《しっだたいし》と申した方も、恵まれた王宮をお出になって厳しい修行をされたからこそ、今のお釈迦様となられたのですよ。
そもそも、善悪は行いによって決まります。
子のカタキを討つのは悪です。
子のカタキを許して助けるのは善です。
子のカタキを殺すことこそ、あなたがおっしゃった、払わなければならない悪い考えではありませんか。
このような悪い考えを全てお捨てになれば、悟りを開くことができます。
生きたまま悟りを開いて仏になることこそ、理想ではありませんか。
むちゃくちゃ悪いことをし尽くしてから、阿弥陀様に助けていただこうなんて、甘っちょろいことを考えてはなりません。
これだけ申し上げても、考え直していただけないのなら、もう私にはどうすることもできません」と玉水は言いました。
伯父はじっと目を閉じて頷(うなず)き、
「こうして不思議にもお前に出会って説得されるのも、前世の行いが招いた事で、幸せな事じゃ。
この病人を殺してしまっても、愛しい我が子が生き返るわけでもないしなあ。
どうか、今はただひたすら、我が子の冥福を祈ってくだされ。
ワシは頭を丸めて、あ、丸めなくても、もう毛は無いか、てへぺろ、山深くに閉じこもり、ひたすら念仏を唱える生活を送ることにするよ」
僕のこと呼んだ? 毛が無いって聞こえたけど?
と言って病人[養母]の元から去ったのでした。
養母はうつらうつらしているので、はっきりとした内容はわからないながらこの会話が聞こえ、玉水が誰か人と話しているのだと思いました。
さて、養母はすっかり、心も体も軽くなり、ペラペラしゃべり、あちこち歩きまわるようになりました。
その様子を聞いて玉水は、これなら言っても大丈夫だなと思い、同じケダモノのキツネ同士だから解決できたことは隠して、
「母上の父上がキツネ狩りをしたことはありませんでしたか?
どうもそれが母上の病の原因のようです」
と話しました。
「そういえば、そのようなことがありました」
と言って、玉水の指示に従って、射《い》殺された玉水の伯父の子の冥福を祈り、色々と供養したのでした。
玉水はこれを見届けて、安心して
【解説】
前回に引き続き、誤脱があるのか、よくわからない箇所が多々あったのですが、何とか無事に訳せました。
玉水の説得が実を結び、意外とあっさりと伯父は養母の元から去りました。
まあ、伯父も本当は誰かに止めてほしかったのかもしれませんね。
完全に死亡フラグが立っていたと思われた養母がまさかの生還です。
みなさんが気にかけていた形見の鏡は、全くストーリー展開に関係なかったようです(笑)
この先に出てくるのかしらん?
さて、このあとはいよいよ姫君の参内が待っているわけですが、はてさて。
次回の予習
三つ目コーナー
そういえば、最近、三つ目のこと見かけないけど、どうしてるんだろ。
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