せっかく増上寺を取り上げたので、増上寺が出て来る話でも紹介しようかなと。
さすがに徳川家の菩提寺である増上寺の名を出すのははばかられるので、ここでは常笑寺と変えられていますがw
石川流宣《いしかわとものぶ》作『正直咄大鑑《しょうじきばなしおおかがみ》』(元禄七[一六九四]年刊)巻五の五
※この記事では国立国会図書館デジタルコレクションの画像を適宜改変して使用しています。
正直咄大鑑 5巻 - 国立国会図書館デジタルコレクション
【原文】
第五 野暮《やぼ》の小僧
芝土器町《しバかわらけまち》常笑寺《じやうせうじ》に寒龍《かんりう》と言ふうて十四、五になる小僧有り。
心様《こころざま》しどけなく、取り成りたよ/\と、物打ち言ひたる言葉、強からぬ有様、楊柳《やうりう》の観音とも言ひつべし。
ある時、懇《ねんご》ろなる旦那、夜《よ》更《ふ》くるまで遊び留まりたれば、伽《とぎ》にとて、彼の小僧を側に寝せたり。
旦那思いけるハ、
「真《まこと》や小僧ハ脚気《かつけ》の薬と聞く。
一つハ薬食いのためなり。
又、お寺に住むからは、器量《きりやう》ハ良し。
気ハ通りてこそあらめ。」
と思ひ、懐《ふところ》の内に入りても、成程《なるほど》静かなり。
「真に不思議《ふしぎ》の御縁《ごゑん》にて」
などと言ひながら、そろ/\物しける。
静かなるこそ理《ことわり》かな。
成程良く寝入りたるが、今際《いまわ》の時、目を覚まし、そのまゝ跳《は》ね起きて、殊《こと》の外《ほか》腹を立ち、
「其処《そこ》な客人面《きゃくじんづら》め、俺《おら》がお寺の俺《おれ》を『穴無しじや』とおしやつたに、良く開けをつた。」
と、とつ/\縁側に駆け出で、手水鉢《ちやうずばち》の水を柄杓《ひさく》に一杯持ち来て、どく/゛\と飲ミ、
「是《これ》が漏《も》つたら聞かぬ程よ」
と言ふた。
【現代語訳】
第五 野暮《やぼ》の小僧
芝土器町《しばかわらけまち》の常笑寺《じょうしょうじ》に、寒龍《かんりゅう》という十四、五歳の小僧がいました。
性格は親しみやすく、動作はしなやかで、話す言葉もやわらかな様子は、楊柳《ようりゅう》の観音[右手に柳の枝を持つ優しい姿の観音]とでもいうべきでしょう。
ある時、寺の和尚が親しくしている旦那が、夜が更けるまで寺で遊び、泊っていくことになったので、伽《とぎ》[解説参照]としてこの小僧を側で寝させました。
旦那は、
「本当かどうか分からないが、小僧とチョメチョメするのは脚気《かっけ》の薬になると聞く。
ここは、薬食いということで、この小僧を食べちゃいますか。
しかも、お寺に住んでいるので、顔立ちも良いしな。
私がチョメチョメを求めても、こういう小僧は気が利いて粋だろうから、ノープロブレムだろう。」
と思いました。
そして、旦那が小僧の服の中に潜り込むと、やはり小僧は静かにしています。
「このような機会を得たのも、本当に不思議なご縁でございます。」
とか何とか言いながら、旦那はそっとチョメチョメをしました。
小僧が静かだったのは、実はぐっすり寝ていたからでした。
そして、旦那がフィニッシュを迎える時、小僧は目を覚まし、そのまま飛び起きました。
小僧はとても腹を立て、
「やい、そこの客人め!
このお寺の和尚さんは俺の事を「穴無し[解説参照]じゃ」とおっしゃったのに、よくも尻に穴を開けてくれたな!」
と言うと、とっとこ縁側に走り出て、手水鉢の水を柄杓《ひしゃく》に一杯入れて持ってきて、ごくごく飲みました。
そして、
「この水が尻から漏れてきたらただじゃおかないからな!」
と言いました。
【解説】
『正直咄大鑑』は噺本《はなしぼん》、いわゆる小噺《こばなし》が書かれた本です。
こういう小噺が後に落語へと発展していくわけです。
「芝土器町」と地名がしっかり書かれているので、「常笑寺」は「増上寺」をもじったものであることは明白です。
『江戸切絵図』を見ると、増上寺の近くにしっかり「カワラケ丁」の文字が見えますね。
〔江戸切絵図〕 - 国立国会図書館デジタルコレクション
「伽《とぎ》」というのは、表の意味では「話し相手」のことですが、裏の意味では「夜の床の相手」を意味します。
「穴無し」というのは、表の意味では「欠点が無い」ことを言いますが、裏の意味では「お尻の穴が小さくてチョメチョメに難儀する」「まだお尻でチョメチョメをした事がない」と言ったようなことを意味します。
和尚さんがどちらの意味で使い、小僧がどちらの意味に取ったかはよく分かりませんが、あくまでも「穴」という言葉を掛けたことによって笑いを生み出すことが、この話の目的なので、そこは深く考える必要はないでしょう。
お寺は女人禁制ですが、男性はオッケーだったので、和尚たちのお眼鏡に叶うような、器量の良い小僧が採用されたのでしょうね。
ここでは小僧と書かれていますが、いわゆる稚児と同じような立場なのでしょう。
※画像と記事の内容は一切関係ありません。
こういう場合は、旦那の思いのままに身をゆだねるのが粋なので、怒った小僧は無粋であるので「野暮」というタイトルになっているわけです。
どちらにしても、現代だったら完全に児童虐待ですが、このような男色行為は江戸時代においては、こんな笑い話に使われるぐらい、風俗として普通に行われていたのです。
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