【翻刻】 【現代語表記】【翻刻】【現代語表記】(クリックで展開)
むかし吹屋《ふきや》町の裏住《うらずミ》の
男。細本手《ほそもとで》の内より。路銭《ろせん》
をため置。参宮《さんぐう》の所願《しょぐハん》こと
しといふことしの春おも
ひ立《たち》時を得て馬のあはぬ
連《つれ》も気むつかしく独《ひとり》から
しりに。のりたけれバのろう
共 勝手《かつて》次第《しだい》に。程《ほと》なく神
風や山田《やうだ》に月よみ。日よみ。
それより下向《げかう》の道。右は江
戸 左《ひだり》は京 海道《かいだう》の別《わかれ》の関《せき》に
泊《とまり》りを定《さだ》めけるに襖《ふすま》ひとへ
隔《へだ》て隣座敷《となりざしき》に。三十ばか
りの男とはたちには見ゆ
れど。大がらなればたしかに
一七八の女。これも下向《けかう》かまい
りか唯《たゞ》二人。日 高《だか》に着《つき》きてあ
やハ聞えねども。面白き寝《ね》
物がたり。伊勢《いセ》道中にてそ
のやうな事ハ。あるまいとは
おもへども。近年《きんねん》は戸板《といた》に
乗《のり》たる沙汰《さた》なきハ。神も氣《き》
を通《とを》し給ふらんとおもふに
つけてハ。ひとりぬる夜《よ》の目
があはず。
昔、吹屋町《ふきやちょう》の裏住《うらずみ》の男、細本手《ほそもとで》の内より、路銭《ろせん》を貯め置き、参宮《さんぐう》の所願《しょがん》、今年と言う今年の春、思い立《た》ち、時《とき》を得て、馬の合わぬ連《つ》れも気難しく、独《ひと》り軽尻《からじり》に乗りたければ乗ろう共、勝手次第《かってしだい》に、程無く、神風や山田《ようだ》[「神風」は「山田」の枕詞][「山田」は伊勢神宮外宮のある場所]に、月読み日読み[月日を数える][「月読み」は「月読尊《つきよみのみこと》」とかけているか]。
それより下向《げこう》の道、右は江戸、左《ひだり》は京海道《きょうかいどう》の別《わか》れの関《せき》に泊《とま》りを定めけるに、襖《ふすま》一重《ひとえ》隔《へだ》て、隣座敷《となりざしき》に、三十ばかりの男と、二十歳《はたち》ばかりには見ゆれど、大柄なれば、確かに十七八の女、これも下向《げこう》か参りか唯《ただ》二人、日高《ひだか》に着きて、文《あや》は知らねども、面白き寝物語《ねものがたり》。
「伊勢道中《いせどうちゅう》にてその様な事は有るまいと思えども、近年《きんねん》は戸板《といた》[人を乗せて運ぶ板]に乗《の》りたる沙汰《さた》[命にかかわる事態]無きは、神も気《き》を通《とお》し給うらん。」
と思うに付けては、一人寝《ぬ》る夜《よ》の目が合わず[右大将道綱母「歎きつつ ひとり寝《ぬ》る夜の 明くる間は いかに久しき ものとかは知る」(百人一首)を踏まえるか]
【現代語訳】
昔、江戸の葺屋町《ふきやちょう》の裏通りに住む男は、お伊勢参りがしたくて、少ない収入の中から、少しずつ旅費を貯めていました。
そして、「今年の春こそは!」と思い立ち、ちょうど時期も良かったので、お伊勢参りに行くことにしました。
馬が合わない[気が合わない]仲間を連れて行くのも嫌なので、一人で行くことにしました。
軽尻《からじり》[「馬の合わぬ」と「軽尻(旅人を乗せる料金の安い馬)」がかかっている]に乗りたかったら乗るし、乗りたくなかったら乗らないしという、勝手気ままな自由な旅でした。
そして、無事に、お伊勢参りを済ませることができました。
それから、お伊勢参りからの帰り道、「右は江戸」「左は京街道」の分岐点にある関宿《せきじゅく》で泊まることにしました。
ふすま一枚隔てた隣の部屋に、三十歳ぐらいの男と、大柄なので二十歳ぐらいに見えますが、間違いなく十七八歳の女が泊まっていました。
この人たちもお伊勢参りに行く道中か、はたまた帰り道なのか、二人っきりで、日中に宿に到着して、何を言っているかは分かりませんが、寝床で面白そうな話をしているようでした。
江戸の男は、
「隣の二人は、禁-欲をすべき神聖なお伊勢参りの道中で、まさか色っぽいことなどはしていないとは思うが、最近は、よほどのことがなければ、神様も気を利かしてお見逃しになると言うし。。。」
と思うにつけては、一人寝の寂しい夜でモンモンとして、目が冴えてまぶたが閉じません。
【解説】
「伊勢神宮」「お金」という導入部分をふまえて、お金を貯めて伊勢神宮に参詣に行く男が、このお話の主人公です。
お伊勢参りに行くのもお金が必要と言うわけです。
一生に一度はお伊勢さんに行くのが、この頃の庶民の夢でした。
お伊勢参りの様子はほぼ書かれず、帰りに泊まった宿でのお話がメインになるようです。
どうやら、伊勢参りの行き帰りの道中は、禁-欲が基本みたいですね。
でも、伊勢の古市《ふるいち》には大きな遊郭があったんだよねヾ(๑╹◡╹)ノ"
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