⑧化物夜更顔見世【再読】 - うきよのおはなし～江戸文学が崩し字と共に楽しく読めるブログ～

【前回までのあらすじ】

　ろくろ首のお六と人間の与四郎は恋仲になったわけですが、お六には川太郎という許婚がいて、親の大入道は川太郎から支度金を受け取ってしまっています。

　川太郎に支度金を返せばお六は自由の身になると考え、与四郎は欲庵という藪医者から、「三日以内に返さなければお六を欲庵に渡す」という約束でお金を借りるのですが。。。

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※この記事では、国立国会図書館デジタルコレクションの画像を適宜加工して使用しています。
化物夜更顔見世 2巻 - 国立国会図書館デジタルコレクション　（10ページ目です）
※画像は拡大できます。

【原文】

日切りの金、中／＼与四郎《よしろう》三文の手立て引く。
「とやせん、かくや」と思ひしが、その夜、お六は花水橋《はなみづばし》の野良狐《のらぎつね》とて狐仲間の大分限《おうぶげん》あり。
この野良狐の方へ忍び入り、まんまと箱に入れある所の袱紗包《ふくさつゝ》ミ、確かに二三百両、「夫のため忝《かたじけな》し」と浜村屋でこじつける。

ちよろけんハ、湯豆腐の使ひに出で、この体《てい》を見て、「ちよろけん」としてゐる。

急に栄螺《さゞい》の殻が無ひから、鮑《あわび》の貝へ火を灯したら、屁ぢやあねヱ、雪の下が蔓《つる》を出した様《やう》だ。

浜風寒く、六が宵《よひ》に食ったる脹《ふく》ら煮の鮑《あハび》の貝へ火を灯《とぼ》し、灯しても／＼、灯りがねヱ。
向かうの樋《ひ》の口蹴破って、女の頓痴気《とんちき》飛んで出た。

やれ出た、それ出た、姉御がのうと。
人さん方の「もういゝ［「楲《いい》（「樋の口」と同じ意味の言葉）」と掛けた］」にしやう。

「俺が身ハ高麗屋《こうらいや》、息子と見え様《よう》が、一ッ地口《じぐ》ります」と力んで、「こうらいやまた何の事だ」」

【現代語訳】

　与四郎は、期限までに返さねばならない金を、三文すら用意する方法がなくて、「なんとかしなければ」と思います。
　その夜、お六は、花水橋《はなみずばし》の野良狐《のらぎつね》と言って、狐仲間で一番の大金持ちの家に忍び込み、まんまと箱に入れてある、確実に二三百両は入っている袱紗包《ふくざづつ》みを、浜村屋［三代目瀬川菊之丞の屋号］みたいに「夫［与四郎］のために申しわけない」とかなんとか言って、無理やり正当化して盗み出しました。

　湯豆腐のお使いに出ていたちょろけん小僧は、この様子を偶然見て、「ちょろけん」［「きょとん］と掛けた］としています。

お六「何しろ急なこって、サザエの殻が用意できなんだから、アワビの殻に火を灯したのじゃが、なんて事ない、ユキノシタ［植物の名前］がツルを出したみたいにひょろひょろの灯りじゃ」

お囃子「浜風が寒い中、お六は夕食に食べた脹《ふく》ら煮［料理の名前］のアワビの殻に火を灯したが、灯しても灯しても明るくならない。
　良く見えないから目の前の水門をうっかり蹴破って、偶然通りかかったちょろけん小僧の前に、マヌケな女［お六］が飛んで出てきた」

お囃子「やれ出た、それ出た、姉御がぬ～っと出てきた。
　人様の水門を蹴破ってしまったようが、まあ、見逃してあげましょう」

「俺の身は高麗屋《こうらいや》［市川蝦蔵（白猿）の屋号］の息子のようなもの。ここで一つダジャレを披露いたします」
　とちょろけん小僧は意気込んで、
「こうらいやまた［「こりゃまた」と掛けた］何のこっちゃ！」
　と言うのでした。

【解説】

　花水橋はおそらく今の神奈川県の花水川にかかっている橋だと思われます。

　花水橋は歌舞伎の『伽蘿先代萩《めいぼくせんだいはぎ》』の舞台としても登場するので、そのあたりも踏まえられてはいるのだと思われます。

　野良狐は狐のランクでも一番下の悪事を働く狐です。

　おそらく悪いことをして金持ちになった野良狐なので、お六も罪悪感なく盗みに入ったのでしょう。

　ちょろけん小僧［大頭小僧］は、お酒が入った徳利《とっくり》と、酒の肴《さかな》の紅葉マークが入った湯豆腐を持って、笠を被っています。

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　この格好はいわゆる豆腐小僧と言われる妖怪のスタイルです。

　豆腐小僧は、大頭小僧、雨降り小僧、一つ目小僧などの小僧系の妖怪との混同が見られます。

　というか、私がこれまで見てきた、紅葉マークの豆腐を持った、いわゆる豆腐小僧とされる妖怪、実は全て、豆腐を持っていなくても、別の小僧系の妖怪として成立するんですよね。

　つまり、豆腐小僧と言う独立した妖怪がいるわけではなく、小僧系の妖怪が紅葉マークの豆腐を持った状態が豆腐小僧なのではないかと。

　サザエの殻は油がいっぱい入るから、火を灯すのに丁度よかったみたいですね。

　アワビの殻ではあまり油が入らないから灯が弱いというわけです。

　でも、挿絵では、手違いからか、アワビの殻にロウソクを立てているので、そんなに暗くないとは思いますがねヾ(๑╹◡╹)ﾉ"

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　ちなみに、サザエの殻に火を灯した「螺灯《らとう》」をモチーフにした「らとちゃん」という島根のゆるキャラがいるみたいです（笑）
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