何故か、九日目はこれまでに比べて記述が長いので、覚悟して読んでください(笑)
(ニセ亮太夫の幽霊)
新日本古典籍総合データベース
※この記事では、国文学研究資料館所蔵品の画像データを適時加工して利用しています。 (CC BY-SA 4.0)
※画像は拡大できます。
【原文】
九日の夜ハ、四つ頃迄も何事無かりしに、ふと誰やらん訪れし故、「誰ぞ」と問へバ、「亮太夫《りやうだゆう》」と答《こと》ふ。
其れより戸明ケて、内に誘ひけり。
扨、亮太夫申す様ハ、「今宵ハ此の家の化け物退治すべしと思ひ、兄影山彦之助、家に持ち傳へし有名の刀取り出し、持参せし」由、語りし内に、何やらん円《まど》かなる物転び入りし故、亮太夫、右の刀にて追ひ詰め/\せしが、終《つひ》に切り附けしと見えて、忽《たちま》ちに火花を散らしぬ。
其れより平太郎ハ灯り持ち行き見れば、石臼《いしうす》也。
然れバ、刃《やいば》ハ毀《こぼ》れぬ。
亮太夫ハ、「申し訳無き過《あやま》ち故、切腹せん」と申せしに、平太郎驚き、色/\と申し支えけれども、思ひ止まらで、終に切腹したりける。
平太郎ハ夢にもこの亮太夫を化け物と知らざれバ、「実《げ》に/\疎《うと》ましき事をしたりし物かな。扨、亮太夫一門へ何と言ひ訳すべきや」と心を痛めて居しが、又 此所《ここ》へ人来たり、此の躰《てい》を見られてハ済み難く思ひ、納戸に彼の死骸《しがい》を入れしが、又畳を見れバ、糊《のり》に染まり、是も捨て置き難く思ひし故、上ゲて庭へ隠し置き、跡へは臺所の畳を敷き、「是にて良きぞ」と思ひて見れバ、壁にも糊散りて有りし故、「扨〻気の毒なる事、とても言い訳無き事故、我も生害《しやうがい》せでハ成るまじ/\」と思ひけれども、「先ず、此の方に過ち無き趣《おもむき》、人〻へも語り、其の上にて生害すべし」と思ふ内に、何やらん唸《うな》り聲聞こえけり。
「何処《いずく》ぞ」と考へ見るに、納戸の方と聞こえし故、行きて見れバ、彼の入れ置きし死骸也。
「扨は黄泉帰《よみぢかへり》しか」と立ち寄り見れバ、然《さ》ハ無くて、只唸るのミ也。
平太郎思ふ様、「若《も》し此の聲を近所へ聞こえてハ、いよ/\済み難き事也」と思ひ、刃《やいば》もそのまゝ腹に突き立て有りし故、平太郎手を深く抉《えぐ》りけれバ、唸り聲ハ止みけれども、抉りし跡有れバ、「傍《かたは》らより殺せしと見え、猶更済まぬ事 故《ゆえ》」と思ひて、生害と思ひ切り居し内に、裏口より亮太夫、幽霊《いうれゐ》と成り来たり、段/\近附き、肩に打ち掛かりなどして、訳も無き恨み事云ひけれバ、平太郎ハ、「幽霊なりとも言葉を交わさバ、事詳しく云ひ聞かさん」と幽霊引き寄せ、膝に抱《いだ》き上ゲて、理を尽くし説き聞かせて居たりし内に、程無く東雲《しののめ》の頃にもなりしかバ、鳥の聲などして、引き寄せしと覚えし幽霊も消え失せけれバ、「扨ハ化け物ゝ仕業にやあらん」、内に入り、納戸に行きて見れば、亮太夫死骸も無く、彼の血に染まりし畳壁などを見るに、是又何事も無かりけり。
平太郎も既《すで》に生害に及ぶべきを免《まぬが》れぬるハ、実に智勇と言ふべし。
誠に危《あや》ふき事ども也。
【現代語訳】
七月九日の夜は、四つ[午後十時ごろ]までは何事もなかったのですが、ふと誰かが来たようなので、平太郎が「どなたですか?」と聞くと、「亮太夫《りょうだゆう》です」と答えました。
知人だったので、戸を開けて居間に招きました。
さて、亮太夫が、「今夜はこの家の化け物を退治しようと思い、兄の影山彦之助が所有する、代々家に伝わる名高い刀を選んで持って来ました」ということを語っていると、何やら丸い物が転がり込んできました。
亮太夫は、その刀を持って丸い物を追い詰め、とうとう斬り付けたと見え、たちまち火花が飛び散りました。
それから平太郎が灯りを持ってきて見てみると、丸い物の正体は石臼《いしうす》だったので、刀の刃が欠けてしまいました。
亮太夫は、「大事な刀の刃を欠けさせてしまうとは、言い訳のしようもないしくじりだ。切腹するしかあるまい」と言いました。
平太郎は驚いて、いろいろと言って止めようとしましたが、決意は変わらず、とうとう亮太夫は切腹してしまいました。
平太郎は夢にもこの亮太夫の正体が化け物だとは思わなかったので、「なんとまあ、悲しいことをしたものだ。さて、亮太夫の家族には何と説明すればよいのやら」と心を痛めていましたが、「また誰かがここに来て、この状況を見られたら、ただでは済むまい」と思い、納戸に亮太夫の死体を入れました。
これで一安心と思いきや、居間の畳を見ると、血に染まっていたので、これもそのままにしておくわけにはいかず、血に染まった畳を上げて庭に隠し置き、そのあとには台所の畳を敷きました。
「これでよし」と思って改めて居間を見てみると、壁にも血が飛び散っていたので、「さてさて、さすがこれはもう隠せず、誰かに見られたら、とても言い逃れはできないので、私も自害しなければなるまい」と思いました。
しかし、「まず、私には過失がないことを、みんなに話してから、自害することにしよう」と思っていると、なにやら唸《うな》り声が聞こえてきました。
「どこからだ?」と耳を澄ますと、納戸の方から聞こえてくるので行ってみると、入れておいた亮太夫の死体から聞こえていました。
「さては生き返ったのか?」と近づいて見ると、そうではなく、ただ唸っているだけでした。
平太郎は、「もし、この唸り声が近所に聞こえたら、ますますただでは済むまい」と思いました。
刀は亮太夫の死体の腹に突き立ったままだったので、平太郎はうっかり触ってしまい、手を深く傷つけてしまいました。
すると、唸り声は止んだのですが、刀でついた傷はそのままなので、「知らない人が見たら、私が亮太夫を殺して、その際に傷を負ったように見え、なおさらただでは済むまい」と思いました。
平太郎が自害しようと決意していると、裏口から亮太夫が幽霊となって現れました。
亮太夫の幽霊は、平太郎に段々近づいてきて、肩に寄りかかるなどして、理不尽な恨み言を言いました。
平太郎は、「幽霊であっても言葉を交わして、詳しく言い聞かせれば、どういうことでこうなったか分かってくれるはずだ」と、幽霊を引き寄せ、膝に抱き上げて、筋道を立てて説明して聞かせました。
そのうち、明け方になったので、鳥の声などが聞こえ始めました。
すると、引き寄せたはずの幽霊も消え失せたので、「さては、化け物の仕業だったか!」と、裏口から家の中に入り、納戸に行って見てみると、亮太夫の死体もなく、血に染まったはずの畳や壁などを見ると、これまた何ともなくて、血などは全くついていませんでした。
平太郎が、間一髪で自害するのを免《まぬが》れたのは、知恵と勇気があったからにほかなりません。
それにしても、平太郎は本当に危《あや》うく命を落とす所でした。
【解説】
今回、妖怪は、平太郎の知人の亮太夫に化けて現れました。
石を刀で斬ろうとした権八を平太郎が止めた回が、ちょっとした伏線となっていたわけですねヾ(๑╹◡╹)ノ"
kihiminhamame.hatenablog.com
直接手を下すのではなく、自害しなければならない状況に追い込むとは、やはりただの妖怪ではなさそうです。
しかし、普通だったら、幽霊が出たら逃げるのに、「智勇(知恵と勇気)」がある平太郎は、成仏させようとしたのか、抱き寄せて語りかけ続け、そのおかげでタイムアップとなり、自害を免れるわけです。
、、、平太郎が、最初は証拠隠滅《しょうこいんめつ》を図ったのも、智勇があったからなんですかね?ヾ(๑╹◡╹)ノ"ヾ(๑╹◡╹)ノ"ヾ(๑╹◡╹)ノ"
僕は切腹より接吻《せっぷん》がいいなヾ(๑╹◡╹)ノ"
【三つ目からの挑戦状~くずし字クイズ(前回の答え合わせ)】
【三つ目からの挑戦状~くずし字クイズ(正解は次回発表)】
◆インフォメーション
※北見花芽の中の人も少しだけ付録CDで担当しています。
※付録CDに『武太夫物語絵巻』(『稲生物怪録』)が収録されています。
北見花芽愛用のくずし字辞典です。
◆北見花芽のほしい物リストです♪
◆北見花芽 こと きひみハマめ のホームページ♪
◆拍手で応援していただけたら嬉しいです♪
(はてなIDをお持ちでない方でも押せますし、コメントもできます)
◆ランキング参加してます♪ ポチしてね♪
◆よろしければ はてなブックマーク もお願いします♪ バズりたいです!w