うつろ舟は、江戸時代のUFOとして、ちょこちょこ話題になっているので、目にされた方もおられるのではないでしょうか。
うつろ舟の記事は様々な書物に見られるのですが、それらのほとんどが手書き(写本)で残されたものです。
やはりここでは、写本よりも多くの人の目に触れたと思われる、印刷物として世に出たうつろ舟の資料、瓦版(当時の新聞のようなもの)の記事を読んでみたいと思います。
※wikipediaより
【原文】
△王◌干◌△
此《かく》の如くの文字、舩の中に有り。
一 去る亥二月中、此の如くの舟、沖に相見へ申し候所、又 暫《しばら》く見へ申さず候。
然《しか》るに、此《こ》の度《たび》、小笠原越中守様《をがさはらゑつちゆうのかみさま》御知行所《ごちぎやうしよ》、常陸国《ひたちのくに》京舎ヶ濱へ、同八月の嵐にて吹き付け申し候。
虚舟《うつろぶね》、其の内ニ、女壱人、年の頃十九 廿《にじふ》才程にて、身の丈《たけ》六尺余り、顔の色青白く、眉毛髪赤黒く、風俗至つて美しく、器量《きりやう》ハ甚《はなは》だ美女也。
音声ハ甲走《かんばし》りて大音《だいおん》也。
又、白木《しらき》の弐尺ばかりの箱、離さず抱い、大切なる物ニや、辺りへ決して人を寄セ付けぬ也。
一 敷物壱枚、至つて柔らかな物。
一 食物、肉類《にくるい》にて、練《ね》りたる物。
一 茶碗の様《やう》成る物一ッ、美しき模様有り、石とも見えず。
一 火鉢らしき物一ッ、鉄とも見えず。
綿なる様《やう》の織物、色、萌黄《もへぎ》也。
小鉤《こはぜ》、水晶。
金の筋、天鵞絨織《びろうどおり》
縁《ふち》、黒塗り。
何《いず》れ、木は紫檀《したん》、白檀《びやくだん》
窓、びいどろ、水晶也。
鉄にて朱塗り、横、三間《さんげん》也。
筋金《すじがね》、南蛮鉄《なんばんてつ》也。
舟の高サ、壱丈壱尺。
【現代語訳】
△王◌干◌△
このような文字が、舟の中に書いてあります。
一 去年の亥年[享和三(一八〇三)年]の二月中、このような舟が沖に現れましたが、それからしばらくは姿を見せませんでした。
ところが、小笠原越中守《おがさわらえっちゅうのかみ》様が治められている常陸国《ひたちのくに》の京舎ヶ濱に、同年八月の嵐で、その舟は打ち上げられました。
この虚舟《うつろぶね》[木をくりぬいて作った舟]の中には、女が一人乗っていて、年のころは十九歳か二十歳で、身長は六尺[約一八〇センチ]あまり、顔の色は青白く、眉毛や髪は赤黒く、身なりはとても美しく、顔立ちもすごい美女です。
声は甲高《かんだか》くて大音量です。
また、白木の二尺[約六十センチ]くらいの箱を離さずに抱えており、大切なものなのか、近くに全く人を寄せ付けません。
一 たいそう柔らかな敷物が一枚。
一 食べ物は肉類を練ったもの。
一 美しい模様の、石製ではない、茶碗のようなものが一つ。
一 鉄製ではない、火鉢のようなものが一つ。
綿のような織物で、色は萌黄色《もえぎいろ》です。
留め具は水晶。
金の筋はビロード織。
縁《ふち》は黒塗り。
使っている木はどれも紫檀《したん》や白檀《びゃくだん》。
窓はビードロや水晶です。
鉄製で朱塗り、横幅は三間[約五メートル五十センチ]です。
筋金《すじがね》は南蛮鉄《なんばんてつ》です。
舟の高さは一丈一尺[約三メートル三十センチ]。
【解説】
ご覧のように、うつろ舟はUFOではなく、ただの舟です(笑)
こんな舟で漂流できるはずもなく、要はアマビエと同じような噂話の類ですね。
書かれている文字も、宇宙文字でもなんでもなく、当時の浮世絵の装飾とかにも使われていた、アルファベットを元にデザインされたと思われる柄と同じ類のものでしょう。
江戸日本橋ヨリ富士ヲ見ル図 - 国立国会図書館デジタルコレクション
他の資料でも、この瓦版と同じようなことが書かれています。
月日に違いがありますが、漂着した時期は、どの資料でも享和三年です。
漂着した場所は、この瓦版では「常陸国京舎ヶ濱」となっていますが、他の資料では、「常陸国原舎ノ浜」「常陸国はらやどり」「常陸の国原舎浜」「常陸国原舎り浜」「常陸国原舎ヶ浜」「常陸原舎り浜」などとなっているので、「京」は「原」の誤記だと思われます。
「伊能図」を見ると、「常陸原」と書かれている海岸の側に、「東下村舎利」という地名が書かれているので、漂着したのはこの「常陸原」の「舎利」という場所で確定でしょう。
kochizu.gsi.go.jp
現在でも茨城県神栖市波崎に舎利浜として地名は残っています。
goo.gl
この女性は異国の方なのでしょうが、このあとどうなったか、この瓦版には書かれていませんが、また沖に戻されたやら(『弘賢随筆』『兎園小説』)、何も食べずに死んでしまったやら(やじきた.com蔵古文書)、書かれている資料もあります。
では、この噂話は、一体何が元になっているのでしょうか?
私は最初、パッと見た感じ、「女性が乙姫で、舟が亀で、箱が玉手箱で、浦島太郎だ!」って思ったんですが、たぶん違います(笑)
金色姫(リンク先では「黄金姫」となっています)の伝説が元だという説もあります。
npn.co.jp
一番有力なのは、元禄時代に流れ着いたうつぼ舟[「うつろ舟」と同じ意味]の噂話が元になっているという説です。
元禄のうつぼ舟には男の生首と女性が乗っていたというのです。
その噂話は、『改正甘露草《かいせいかんろそう》』元禄11年[1698]5月の記事(漂流ものがたり|国立公文書館" )や、『鸚鵡籠中記《おうむろうちゅうき》』元禄12[1698]年の記事に見られます。
ちなみに流れ着いた場所は、『改正甘露草』では吉田浦[愛知県豊橋市]、『鸚鵡籠中記』では熱田[愛知県名古屋市]となっています。『改正甘露草』では、うつぼ舟は長崎に送られたとか。
おそらく、元禄のうつぼ舟の噂話を元に、異国船が来るようになってきた時期でもあったので、享和のうつろ舟の噂話が生まれたのでしょう。
となると、女が大事に抱えていた箱の中は、男の首だという事になりますね。
男の首は、不倫相手の男の首だとか。
(この件に関しては、『弘賢随筆』『兎園小説』[どちらもほぼ同内容]に詳しく書かれています)
うつろ舟を見てたら、お腹が空いてきたよ!
確かにうつろ舟は丼鉢にしか見えないけど。。。
【参考:うつろ舟が描かれた資料】
①『異聞雑著《いぶんざっちょ》』享和元[1801]年自序(鈴木甘井《すずきかんせい》作、高田図書館蔵)
漂着地:常陸国原舎ノ浜
上越の史料が伝える怪異の世界 - 上越市ホームページ
②『鶯宿雑記《おうしゅくざっき》』、文化12[1815]年自序(駒井乗邨《こまいのりむら》編、国会図書館蔵)
漂着地:常陸国鹿島郡阿久津浦
鶯宿雑記. 巻13-14 - 国立国会図書館デジタルコレクション
③『弘賢随筆《ひろかたずいひつ》』(屋代弘賢《やしろひろかた》編、国立公文書館蔵)
漂着地:常陸国はらやどり
漂流ものがたり|国立公文書館"
④『兎園小説《とえんしょうせつ》』文政8[1825]年成立(滝沢琴嶺《たきざわきんれい》ほか編、天理大学図書館蔵)
漂着地:常陸国はらやどり
不思議空間「遠野」 -「遠野物語」をwebせよ!-の画像|エキサイトブログ (blog)
百家説林. 第9巻 - 国立国会図書館デジタルコレクション
⑤『梅の塵《ちり》』天保15[1844]自序(長橋亦次郎《ながはしまたじろう》作、無窮会専門図書館蔵)
漂着地:常陸の国原舎浜
不思議空間「遠野」 -「遠野物語」をwebせよ!-の画像|エキサイトブログ (blog)
江戸時代の浮世絵にUFO!?うつろ舟の謎 (3) | やじきた.com - 江戸の怪談、奇談、ふしぎ話。古文書から拾い集めたアヤシイ話をご紹介。
⑥『稲生家文書[旗本家の日記]』安政2[1855]年5月12日の記事(埼玉県立文書館蔵)
漂着地:常陸国原舎り浜
ネット古文書講座 - 埼玉県立文書館
⑦[古文書](国際稀覯本フェア2020でかげろう文庫より出品された文書)
漂着地:常陸国原舎り浜
https://1.bp.blogspot.com/-HGzcf3bnvyg/Xw3UiSoCWVI/AAAAAAAARj8/LQKNWZ_zN_sM_sup1tTp8iUsIMyDQBSOwCLcBGAsYHQ/s500/%25E5%259B%25BD%25E9%259A%259B%25E7%25A8%2580%25E8%25A6%25AF%25E6%259C%25AC%25E3%2583%2595%25E3%2582%25A7%25E3%2582%25A2%25E3%2580%25802020.jpg
⑧『漂流記集』(万寿堂《まんじゅどう》編、岩瀬文庫蔵)
漂着地:常陸国原舎ヶ浜
漂流記集 | 岩瀬文庫コレクション | 古書の博物館 西尾市岩瀬文庫
⑨[瓦版](船橋西図書館蔵)
漂着地:常陸国かしま郡京舎ヶ浜
File:Utsuro-bune.jpg - Wikimedia Commons
➉[古文書](水戸市古書収集家蔵)
漂着地:常陸国鹿島郡外浜
UFOと日本人(1):江戸時代に漂着した謎の美女と円盤型乗り物―「うつろ舟」伝説の謎を追って | nippon.com
⑪[古文書](日立市内旧家[海岸防御郷士子孫]蔵)
https://matome.eternalcollegest.com/wp-content/uploads/2020/09/n-images-21368-53349343497.jpg
【魚拓】異国美女漂着「うつろ舟」奇談 日立の旧家に新史料:茨城新聞ニュース
⑫[古文書](長野県古書収集家[やじきた.com]蔵)
漂着地:房州の湊
江戸時代の浮世絵にUFO? うつろ舟の謎 | やじきた.com - 江戸の怪談、奇談、ふしぎ話。古文書から拾い集めたアヤシイ話をご紹介。
⑬[甲賀流忍術伴家古文書](川上仁⼀氏蔵)
漂着地:常陸原舎り浜
【茨城新聞】UFO「うつろ舟」漂着は波崎? 実在地名記載の新史料 「伝説の元の文書か」
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