【前回のあらすじ】
思いが叶わないと分かった式部は、頼母を討つことにしたのですが、その計画はバレバレで、頼母の耳にも入るのでした。
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霞亭文庫 · 男色義理物語 · 東京大学学術資産等アーカイブズ共用サーバ
男色義理物語 : 4巻 - 国立国会図書館デジタルコレクション
※赤字の書入れ等は筆者。
【原文】【現代語訳】
「否《いや》とよ、此の人、我故《われゆへ》年月身も頽《くづお》ほるゝまで焦《こ》がれ侍りし折だりも、『人を抱《いだ》きて淵に沈む』と仲立ちを固く制せし心根も恥づかし。
「いやいや、この人(采女)は、長い間衰弱するほど私に恋い焦がれていたにもかかわらず、仲立ち(内蔵之助)が私に采女殿の思いを伝えようとすると、『人を抱いて淵に沈むことになります(頼母殿を巻き込むことになります)』と、キツく止めたくらいです。
その心遣いには、恥じ入るばかりで、私も采女殿を巻き込むわけにはいきません。
是ハ又、海原や、満ち来る潮《しほ》の差し置きて〈差し寄りて〉〈差し寄せて〉、果敢無《はかな》く水の泡《あハ》と消ゑんを伴うに似たれバ、中/\沙汰にも及ばず。
これはもう、海原から満ちてくる潮が差し寄せて、はかなく水の泡と消えるようなものなので(こういう運命なので)、もう考えるまでもありません。
然《さ》れバ戦場《せんぢやう》に出て先《さき》を駆《か》くるも、是《これ》も心ハ同じ名のなど、先駆《さきがけ》と言わざるべき」
と思ひ定めける。
戦場に采女殿を差し置いて先駆けすることになってしまいますが、私と采女殿は一心同体なので、先駆けという事にはならないでしょう」
と、頼母は、采女には知らせずに、一人で式部を討ちに行くと決めたのでした。
頃ハ四月十七日の夜なりしに、折しも其の夜は侍従《ぢじう》の御本《おんもと》へ御一家 誰彼《だれかれ》来たり給ひて、しめやかに物語りなどし給ふに、
時は四月十七日の夜だったのですが、ちょうどその夜は侍従のお屋敷に、ご一家の方々がいらっしゃって、しめやかにお話などをなさっていました。
夜もいたふ更《ふ》けぬれバ、其処等《そこら》の殿居守《とのいもり》の人〻、眠《ねぶ》りに侵《おか》されて、彼処《かしこ》爰《こゝ》に皆、躰無《たいな》ふ臥《ふ》しにけり。
夜も深く更けたので、そこらの宿直の人々も睡魔に侵されて、あちらこちらで皆、だらしなく臥していました。
「すハ然《さ》れバこそ、今宵に如《し》くハ無し」
「そら、やはり今夜こそ絶好の機会」
と、独り言《ごち》して、急ぎ打ち向かう其の様、えも言われず。
と、独り言をして、急いで向かう様子は、言葉で言い表せないくらいうっとりします。
雪 妬《ねた》ましき薄衣《うすごろも》、引き違えて着良《きよ》げに着為《きな》し、常《つね》よりも猶《なを》、薫《た》き物香らせて、錦《にしき 》の袴《はかま》踏み拉《しだ》き、太刀《たち》引き側《そば》めて、忍びやかに打ち向かうにも、
雪が嫉妬《しっと》するほど美しい薄衣《うすごろも》を、襟《えり》を合わせて颯爽《さっそう》と着こなし、いつもよりお香を強く匂わせて、錦の袴《はかま》を踏みしめ、太刀を体に引き寄せて、ひっそりと式部のもとに向かうのでした。
流石《さすが》隠れ無き匂ひに、寝覚《ねざ》め驚く人/\も有れど、今討たるべき人ハ、斯《か》ゝる事とハ露知らず、
さすがに隠しようもない強いお香の匂いに、目が覚めて驚く人々もいましたが、今から討たれようとしている人(式部)は、こういうことになってるとは、全く知らないのでした。
【解説】
釆女が「人を抱きて淵に沈む」と言った云々のエピソードは、一応、[11]で描かれています。
日付は、「四月十七日」としか書かれていませんが、オリジナルの『藻屑物語』では「寛永十七年四月十七日」[『雨夜物語』では「寛永十七年四月六日」]と元号までしっかり書かれています。
また、「侍従の御本へ御一家誰彼来たり給ひて」の「御一家」の部分は、『藻屑物語』『雨夜物語』では、「掛川の侍従(または「本田能登守《ほんだのとのかみ》」)[本多忠義《ほんだただよし》?]、脇坂中務《わきざかなかつかさ》[脇坂安元《わきざかやすもと》?]、花房何某《はなぶさなにがし》[花房幸次《はなぶさゆきつぐ》?]」と書かれています。
例の如く、実際の日付や実在の人物名を出すわけにはいかなかったので、変更したのでしょうね。
頼母は采女に知らせず、一人で式部を討ちにいくのですが、はてさて。
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僕もお香を焚きしめてみたよ、いい香りでしょ
ヾ(๑╹◡╹)ノ"
くさっ、何の臭いだよ!
ヾ(๑╹◡╹)ノ"

