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[34]この世に未練はありません、美しいまま死ねるのですもの ~『男色義理物語』~

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 【前回のあらすじ】 釆女がこっそり見守る中、頼母が切腹の場に現れました。

 

 【初めての方へ】 原典の画像だけでなく、スクロールすると、ちゃんと活字の原文(可能な限り漢字に直し、送り仮名と振り仮名を補足しています)と現代語訳と解説がありますよヾ(๑╹◡╹)ノ"

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霞亭文庫 · 男色義理物語 · 東京大学学術資産等アーカイブズ共用サーバ
男色義理物語 : 4巻 - 国立国会図書館デジタルコレクション
※赤字の書入れ等は筆者。

 

【原文】【現代語訳】

 地中《ぢちう》〈寺中〉の左の方に、咲き遅れたるにやあらん、山桜の少し咲き残りたるを見て、
 寺の敷地の左の方に、咲き遅れたのでしょうか、山桜が少し咲き残っているのを見て、

「譬《たと》へ旧年花《きうねんはな》梢《こずへ》に残《のこ》つて好春《かうしゆん》の待《ま》つ頼《たの》ミがたし是《これ》人の心」[オリジナルの『藻屑』『雨夜』では、「縦《たと》へ旧年の花、梢に残りて、後春《こうしゅん》を待つとも、頼み難き(期《ちぎ》り難き)は、是《これ》人の心」]
「たとえ、去年の花が梢に残って、翌春になるのを待って散るといっても、そんな約束はあてにならないのが、人の心というものです(生き残った采女殿は、どうせ来年には死んだ私の事など忘れてしまってるんでしょうね)

 と打ち誦《ずん》じたるハ、彼の采女なりける人を託《かこ》ち言ふなるべし。
 と頼母が歌を詠んだのは、釆女という人に対する、愛情の裏返しの恨み言でしょう。

 扨《さて》、錦の縁《へり》取りし畳《たゝミ》の上に、氏高《うづたか》く居直り、介錯《かいしやく》に来たりし二階堂刑阝左衛門《にかいどうぎやうぶざえもん》[オリジナルの『藻屑』『雨夜』では、「吉川勘解由司《よしかわかげゆつかさ》」]を招き寄せ、鬢《びん》の髪《かミ》を押し切りて、畳帋《たとうがミ》に包ミ、
 さて、頼母は、錦の縁《へり》の畳の上に、気高く姿勢を正し、介錯に来た二階堂刑部左衛門《にかいどうぎょうぶざえもん》を招き寄せ、鬢《びん》の髪を押し切って、畳紙《たとうがみ》に包み、

「是なん都 堀川《ほりかわ》の母が元へ、今際《いまハ》の形見とて、便り付け言い到り給ハれ」
 と差し置く所へ、
「これを都堀川の母の所へ、最期の形見として、便りに付けてお届けください」
 と差し置きました。


 和尚《おしやう》紫《むらさき》の衣《ころも》に水精《すいしやう》の数珠《しゆず》爪繰《つまぐ》り、いと位《くらい》付き殊勝《しゆせう》に見へけるに、近くへ寄りて、
 そこに、とても位が高く立派な感じの和尚が、紫の衣を着て、水晶の数珠を爪繰《つまぐ》りながら、頼母の近くに寄ってきて、

「如何《いか》に此の世に思《おぼ》し置く事ハ無きか。
「さて、この世に思い残すことはないですかな。

 心の内 晴《は》るけ遣《や》らぬハ罪深かし」
 心の中が晴れないまま、あの世に行くのは罪深い事です」

 等《など》言へば、
 などと聞くと、頼母は、

「此の上は何為《なにし》に思ひ置く事侍らんや。
「この期《ご》に及んで、どうして思い残す事などあるでしょうか。

 面影《おもかげ》の年積もれかし[正しくは「面影の変はらで年の積もれかし」(小野小町と伝えられる歌より)]と、年月かけて思ひ侍りしに、今日を限りの命、返す/゛\も思ひ設《もふ》けし悦《よろこ》びなり。
 容姿が変わることなく年を重ねることができれば良いのにと、ずっと思っていましたが、今日限りの命となって、これ以上容姿が変わることがなくなり、正しく思い描いた通りになって喜ばしいことです。

 扨又、生者必滅《しやうじやひつめつ》の理《ことわり》ハ予《かね》て悟る。
 さて、また、生きている者は必ず亡くなるという道理も、前から悟っていました。

 誰か良く卋に長生《ちやうせい》を保つ。
 長く世に生き続けることなど誰もできません。

 人 猶《なを》未《いま》だ衰老《すいろう》せず、容色《ようしよく》新《あらた》なる時[オリジナルの『藻屑』『雨夜』では、「美人 猶《なを》未《いま》だ衰老を免れず、容色 新《あらた》なる時」]、本意《ほんい》を達して、自ら剣《つるぎ》の上に臥《ふ》す事、即身成佛にては非《あら》ずや」
 とて、
 美人でも老いることは避けられませんが、容姿がまだ初々しいまま、目的を遂げて、自ら命を絶つことができるとは、これこそ即身成仏(現世の姿のまま仏になること)と言えるのではないでしょうか」
 と答えました。


 【解説】

 頼母はすっかり覚悟を決めているようで、切腹に向けて粛々とことが進んでいきます。

 次回「采女『ちょっと待った!』」の巻、お楽しみにヾ(๑╹◡╹)ノ"


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