両思いとなったお七と吉三郎ですが、なかなか密会するチャンスがやってきませんでした。


『好色五人女』巻四「恋草からげし八百屋物語」[貞享三(1686)年刊、井原西鶴作]
好色五人女 5巻 [4] - 国立国会図書館デジタルコレクション
【原文】【現代語訳】
虫出《むしだ》しの神鳴《かミなり》も褌《ふんどし》掛《か》きたる君様《きみさま》
虫出しの雷様(立春後初めて鳴る雷)[冬眠中の虫が音を聞いて出てくることから]も、愛しの君様(吉三郎)と同じようにフンドシを締めているから、親近感があって怖くない
春《はる》の雨《あめ》、玉にも貫《ぬ》ける柳原《やなぎはら》[『古今和歌集』僧正遍照より]の辺《あた》りより参りけるの由《よし》、十五日の夜半《やはん》に、外門《そともん》荒けなく扣《たゝ》くにぞ、
春の雨を玉のように柳が貫いています。
そんな十五日の夜中に、
「柳原の辺りから参りました」
と、外門が荒々しく叩かれました。
夢《ゆめ》驚かし聞《き》ゝけるに、
「米屋《こめや》の八左ヱ門、長病《ちやうびよう》なりしが、今宵《こよひ》相果《あいは》て申されしに、思ひ設《まふ》けし死人《しにん》なれば、夜《よ》の内に野邊《のべ》へ送り申し度《た》き」
との使《つか》ひなり。
皆、夢から覚めて驚いていると、
「米屋の八左衛門が、長い病気の末、今夜、亡くなりました。
かねてから覚悟していた死人なので、夜のうちに葬儀を済ましてしまいたい」
という使いでした。
出家《しゅつけ》の役《やく》なれば、数多《あまた》の法師《ほうし》召し連れられ、晴《は》れ間《ま》を待たず、傘《からかさ》を取り/゛\に、御寺《ミてら》を出《いで》て行《ゆ》き給ひし
出家した者の役目なので、住職様は多くの法師を召し連れて、雨が晴れるのを待たずに、それぞれ唐傘を手に持ち、お寺をお出になりました。
跡《あと》は、七十に餘《あま》りし庫裏姥《くりうば》壱人《ひとり》、十二三なる新発意《しんぼち》壱人、赤犬ばかり、残《のこ》る物《もの》とて松《まつ》の風《かぜ》淋《さび》しく[謡曲『松風』より]、虫出《むし》しの神鳴《かミなり》響《ひゞ》き渡《わた》り、
そのあとには、七十歳を越えた庫裏姥《くりうば》(寺の台所で働く老婆)が一人と、十二、三才になる新発意《しんぼち》(新人の僧)が一人と、赤犬がいるばかりでした。
他に残っているのは松に寂しく吹く風だけで、虫出しの雷が鳴り響いていました。
【解説】
夜中に急な葬式が入り、寺の僧侶たちが出払ってしまいました。
ということは、これはお七と吉三郎の密会のチャンスですね。
この後に、挿絵が入ります。
【挿絵】
前章の、吉三郎のトゲを母親が抜こうとしているのを、お七が眺めている様子です。
車長持など、避難の際に持ち込まれた物が散乱しています。


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