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[15]お七の死を知った吉三郎は、、、 ~『好色五人女』巻四「恋草からげし八百屋物語」~

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 恋の病に伏せる吉三郎に、お七の死は知らされぬまま、月日が経っていきますが。。。


 

 

 

 


好色五人女』巻四「恋草からげし八百屋物語」[貞享三(1686)年刊、井原西鶴作]
好色五人女 5巻 [4] - 国立国会図書館デジタルコレクション



【原文】【現代語訳】

   様子《やうす》有つての俄坊主《にハかぼうず》
   諸事情により急遽《きゅうきょ》出家しました

 命程《いのちほど》賴《たの》ミ少なくて、又つれなき物ハ無し。
 命ほど頼りなくて、思うようにならないものはありません。

 中/\死ぬれバ恨ミも恋も無かりしに、百ヶ日に當《あた》る日、枕《まくら》始《はじ》めて上がり、杖竹《つえだけ》を便《たよ》りに寺中《じちう》静《しづ》かに初立《うひだ》ちしけるに、
 いっそ死んでしまっていたら、恨みも恋も無かったでしょうに、お七の百ヶ日に当たる日、吉三郎は伏せってから初めて枕から起き上がり、竹の杖にすがって寺の中を静かに歩き、病後初めての外出をしました。

 卒塔婆《そとば》の新《あたら》しきに心を付けて見しに、其《そ》の人の名に驚《おどろ》きて、
 すると新しい卒塔婆を見つけ、注意して見てみると、その人(お七)の名が書いてあったので驚きました。

「然《さ》りとてハ知らぬ事ながら、人は其れとハ言はじ。
「亡くなっていたことを知らなかったとはいえ、人は私が知らなかったとは思わないでしょう。

 後《おく》れたる様《やう》に取沙汰《とりざた》も口惜し」
 気おくれして死ねなかったと噂されているなら、悔しくて仕方がない」

 と、腰《こし》の物に手を掛《か》けしに、法師《ほうし》取り付き、様/゛\留《とゞ》めて、
 と、吉三郎が腰の刀に手を掛けると、法師たちがすがり付いて、色々と説得して止めました。

「迚《とて》も死すべき命《いのち》ならバ、年月語りし人に暇乞《いとまご》ひをもして、長老《ちやうらう》様にも其《そ》の断《ことハり》を立て、㝡後《さいご》を極《きハ》め給へかし。
「どうしても死なねばならない命ならば、長年親しくした兄分殿に別れの挨拶《あいさつ》をし、長老様(住職)にもお話して理解を得た上で、しっかり筋を通して最後をお遂げください。

 子細《しさい》は、其方《そなた》の兄弟契約《きやうだいけいやく》の御方より、當寺《たうじ》へ預ヶ《あづけ》置《を》き給へば、其の御手前《おてまへ》への難儀《なんぎ》、
 なにしろ、あなたが兄弟の契約をされている方(兄分)が、あなたをこの寺にお預けになったのですから、その兄分殿に対して、どう説明すればいいのか、私たちが困ります。

 彼是《かれこれ》覚し召し合《あ》ハさせられ、此の上ながら憂名《うきな》の立たざるやうに」
 あれこれよくお考えになって、これ以上、悪い評判が立たないように」

 と諌《いさ》めしに、此の断《ことハり》至極《しごく》して、自害《じがい》思ひ留《とゞ》まりて、莬角《とかく》ハ世に永《なが》らへる心指しにハ有らず。
 と、法師たちは、たしなめました。
 吉三郎は、法師たちの説得に、もっともだと納得して、この場では自害を思い留まったのですが、それでもこの世に長く生き続ける気はありませんでした。

 其の後、長老《ちやうらう》へ角と申せバ、驚かせ給ひて、
 それから、法師たちが長老に報告した所、長老は驚きになって、

「其の身ハ念頃《ねんごろ》に契約《けいやく》の人、理無《わりな》く愚僧《ぐそう》を頼まれ、預《かづか》り置きしに、
「あなたの身は、あなたが親しく契っている人(兄分)が、止《や》むを得ない事情で私にお頼みになったので、預かっております。

 其の人、今ハ松前《まつまへ》に罷《まか》りて、此の秋の頃ハ必《かなら》ず爰《こゝ》に罷るの由《よし》、呉《くれ》/゛\此の程《ほど》も申し越《こ》されしに、
 その人(兄分)は今は松前《まつまえ》[北海道の地名。松前藩は吉祥寺の檀家]に行っておられ、この秋の頃には、必ずこの寺を訪れるという内容のお手紙を、近頃も何度も送ってこられました。

 其れより内《うち》に申し事も有らバ、差し当たつての迷惑《めいわく》、我《われ》ぞかし。
 兄分殿がお越しになる前に問題が起こったら、真っ先に迷惑するのは私なのですよ。

 兄分《あにぶん》帰られての上に、其の身ハ如何様《いかやう》とも成りぬべき事こそあれ」
 兄分殿がお帰りになってからでしたら、あなたの身は、どうなりともお好きなようにできますので」

 と、色〻 異見《いけん》遊ばしけれバ、日頃《ひごろ》の御恩《ごをん》思ひ合《あ》ハせて、「何《なに》か仰《あふ》せは漏《も》れじ」と、御請《おう》け申し上げしに、
 と、色々と吉三郎に忠言をされました。
 吉三郎は、日頃のご恩もあるので、「おっしゃる通りにいたしましょう」と、長老の提案を受け入れられました。

 猶《なを》心許無《こころもとな》く覚し召されて、刃物を取りて、数多《あまた》の番《ばん》を添《そ》へられしに、
 それでも長老は、ご心配になって、吉三郎から刃物を取り上げ、多くの番人をつけました。


 【解説】

 ついにお七の死を知ってしまった吉三郎、当然のように自害をしようとしますが、法師や長老の説得に。一旦は思い留まります。

 ここで、突然発覚するのが、吉三郎の男色の兄分の存在。

 兄分は、松前まで吉三郎を連れて行けないので、檀那寺である吉祥寺に預けたようです。

 預かってもらう代わりに、吉三郎を寺小姓として可愛がってくだされということでしょうね。

 兄分はそれなりの身分の人のようなので、トラブルが起きたら、厄介なことになりかねません。

 法師たちも長老も、自分たちの身を守るのに必死な様子なのが、なんだかなあ。

 はい、次回で最終回です、吉三郎の運命や如何に!



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