それでは、最後に、お七という人物は、本当に存在していたのかについて、先行研究、特に、矢野公和氏(矢野公和「「八百屋お七」は実在したのか」『西鶴と浮世草子研究』4 笠間書院 2010)と、有働裕氏(「「お七」再考」『文学・語学』215 2016-04)の論考を踏まえて、解説しようと思います。。
結論から言いますと、お七という人物は存在していなかったと考えざるを得ません。
現在残されているお七の資料は全て、『好色五人女』の影響を受けて、『好色五人女』以降に書かれたもので、同時代のお七の資料は一切存在しないのです。
確かに、『好色五人女』以前に出版された、西村本『好色三代男』や、当時の記録の戸田茂睡『御当代記』にお七の記述があるのですが、『好色三代男』は『好色五人女』出版前に内容をリークしていたと思われ、『御当代記』は、お七作品の人気を受けて、後にメモ程度に書き足されたものだと思われます。
ただ、お七が完全に架空の人物であったとも言い切れません。
その手掛かりとして、当時の判例をまとめた『御仕置裁許帳』という、信憑性の高い資料があります。
お七ほどの有名人なら、必ず記載されているはずなのですが、『好色五人女』が書かれる前の記録には、お七という人物の名はありません。
元禄四年頃に「しち」という女性が火刑にされた記録はあるのですが、『好色五人女』が書かれた後で、しかも人妻なので、完全に別人です。
しかし、『御仕置裁許帳』には、八百屋お七が処刑されたとされる時期と、ほぼ同時期に火刑にされた女性の名があります。
【原文】
天和三年 亥《ゐ》、正月廿二日。
壹人、女はる。
是は赤坂田町三丁目、次兵衛の店、新右衛門の下女。
此の者、去る十八日、火を付け申し候ふを、穿鑿《せんさく》致し候ふ處《ところ》、一昨 廿日《はつか》、右の段、白狀致し候ふ由、次兵衛、新右衛門、召し連れ來たるに付き、僉議《せんぎ》致し候ふ處に、眞木《まき》の燃え杭《ぐひ》を持ち、雪隱《せつちん》え火を付け申し候。
同類も之《こ》れ無し。主え意恨有るの候ひて付け候ふにても之れ無し。
物取り候ふに付き候ふにても之れ無し。
不斗《ふと》火を付け申し度《た》く存じ、付け候ふ由、申すに付き、籠舍《らうしや》。
右の者、亥二月九日、淺草に於いて火罪。
『御仕置裁許帳《おしおきさいきょちょう》』六「火を付ける者の類《たぐい》、幷《なら》びに、投げ火 仕《つかまつ》る者の類」
近世法制史料叢書 1 - 国立国会図書館デジタルコレクション
【現代語訳】
天和三年[一六八三年]亥年《いどし》、正月二十二日。
一人、女はる。
この者は、赤坂田町三丁目、次兵衛の店の新右衛門の下女です。
この者は、十八日に火をつけた疑いで、追求されました。
そして、一昨日の二十日に、火を付けたのを白状しました。
次兵衛と新右衛門が、(評定所に)召し連れて来たので、取り調べをすると、薪《まき》の燃え残りを持って、便所に火をつけたという事です。
共犯者もいません。
主人に恨みがあってのことでもありません。
物を盗もうとしたのでもありません。
「ただ、ふと火を付けたくなって、火を付けた」と申すので、牢屋に入れられました。
この者は、同年亥年二月九日に、浅草で火刑にされました。
この前後に事件を起こした女性は「はる」だけで、おそらく、この「はる」という人物がお七のモデルであると、考えられます。
そして、「はる」の次に書かれている人物の名も見逃してはいけません。
【原文】
同年亥、二月十二日。
壹人、喜三郎。
是は淨光院門前、梅軒の召し仕ひ。
此の者、主人の家え火を付け候ふに付き、穿鑿の内、評定所《ひやうぢやうしよ》より籠舍。
右の者、同亥三月廿九日、火罪。
【現代語訳】
同年亥年、二月十二日。
一人、喜三郎。
この者は、浄光院の門前の梅軒の召し使いです。
この者は、主人の家に火を付けたということで、取り調べの後、評定所《ひょうじょうしょ》[裁判所]の命令で牢屋に入れられました。
この者は、同年亥年三月二十九日に、火刑にされました。
おそらく、「喜三郎」という名をもじって「吉三郎」という名がつけられたのでしょう。
「はる」と「喜三郎」は、少女と少年だったっぽいですね。
なお、お七関連の論考によく登場する『天和笑委集』には、「お七」「はる」「喜三郎」のことが書かれていますが、創作性や演劇性が強いもので、信憑性はほぼありません。
さて、Amazon商品紹介のあとは、前回に続いて、お待ちかね(?)の三つ目の妄言が始まるよヾ(๑╹◡╹)ノ"
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さあ、ここからは、三つ目が、「はる」がお七のモデル説にもう少し踏み込むよ!
んもう、面倒なことになるから、踏み込まないでおくれよ。
(無視)
「はる」の火付けの動機が「ふと」ってのがポイントだよね。
ほら、西鶴さんも、お七が火を付けた動機を「由無《よしな》き出来心《できごゝろ》」って書いてるしね。
kihiminhamame.hatenablog.com
やっぱ、動機が不明なのは、創作意欲を掻き立てられると思うよ。
おそらく、世間でも、話題になって、色々な噂が囁かれたんだろうね。
「主人への恨み」「物盗り」ではないとは書いてあるけど、「恋愛関係のトラブル」とは書いてないのもポイントだよね。
ひょっとしたら、「はる」は火付けの動機を言いたくなかったのかもしれないね。
世間でも色恋沙汰よる火付けという噂でも出回っていて、それを元にして、実際に起こった天和の大火とからめて、『伊勢物語』や小野小町の要素を取り入れつつ、西鶴さんは「恋草からげし八百屋物語」を執筆したのかもね。
なんかグダグダ言ってるけどさ、そもそも、なんで「はる」が「お七」って名に変わったのさ。
まあ、実名を出すと色々と具合が悪いからなんだろうけど、ふふふ、西鶴さんはちゃんと本文中にヒントを書いているのさ。
前回もなんか同じような事言ってたけど、そんなのどこに書いてあるんだよ。
「君が為《ため》、若菜《わかな》祝《いは》ひける日」ってとこだよ。
kihiminhamame.hatenablog.com
「若菜祝ひける日」ってどんな日だっけ?
ああ、春の七草を食べる日だよ。
そう「春の七草」、「春」が「七草」になったってことを暗示してるんだよ。
「七」→「お七」、「草(野菜)」→「八百屋」ってことだよ!
「草」は「恋草」にも通じるしね。
西鶴さんは元々は俳諧師だから、こういう連想が得意なんだよね。
ぶちゅっ(三つ目に注射を打つ音)
ぽや~ん、あれえ?ぼくはなにいってたんだっけ?
ねえねえ、三つ目、なんで、お七って名前になったの?
えとねえ、散々ひどい目にあって七転八倒したから、八百屋お七になったんだよ、ほげ~。
よし。
三つ目よ、世の中には、これ以上踏み込まなくてもいいことがあるのだよ。
あんまりとがった説を唱えると、出る杭は打たれるのだよ。
とまあ、「恋草からげし八百屋物語:は、有名作品だから研究し尽くされたされたと思いきや、こんな感じでこれ以外にもまだまだ謎がたくさん残っているので、研究の余地はありまくりなのですよ。
【本編では紹介しきれなかった参考文献】
◆『対訳西鶴全集』3 明治書院 1974
◆『現代語訳西鶴全集』4 小学館 1976
◆矢野公和「『好色五人女』序説」『近世文芸』38 1983-05
◆岩橋邦枝「お七吉三郎」『好色五人女 堀川波鼓』 講談社 1990-03
◆『好色一代男 好色五人女 好色一代女』岩波書店 1991
◆『新日本古典文学全集 井原西鶴集』1 小学館 1996
◆森耕一「西鶴作品の男色」『園田国文』17 1996-03
◆谷脇理史「好色五人女の悲恋」『悲恋の古典文学』 世界思想社 1997
◆広嶋進「寺若衆の恋」『近世文芸研究と評論』60 2001-06
◆染谷智幸「女色と男色のコントラストとコラボレイション」『言語文化研究紀要』8 2003-03
◆杉本好伸「〈八百屋〉の構図(上)」『鯉城往来』6 2003-12
◆杉本好伸「〈八百屋〉の構図(下)」『国語国文論集』34 2004-01
◆大掛麻央「「『好色五人女』巻四 恋草からげし八百屋物語」の考察」『広島女学院大学国語国文学誌』39 2009-12
◆有働裕「『天和笑委集』の諸本と成立について」『愛知教育大学大学院国語研究』24 2016-03
◆有働裕「恋草からげし八百屋物語」試論(上)」『国語国文学報』78 2020-03
というわけで、『好色五人女』巻四「恋草からげし八百屋物語」は今回で終わりです。
小説が続いたので、次回からは久々に、あの二人の旅の続きでもしようかなとヾ(๑╹◡╹)ノ"
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