一行は、亀戸天神から妙見宮へ向かいます。


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金草鞋 1編 - 国立国会図書館デジタルコレクション
諸国道中金の草鞋 1 - 国立国会図書館デジタルコレクション
※損傷個所は可能な限り修正しています。
※赤字の書き入れは筆者。
【原文】
亀戸天神より裏門を出て、右の方へ、川岸通りを行《ゆ》きて、小橋を渡り、妙見《ミやうけん》の御宮に到るに、参詣の人、夥《おびたゞ》しく、何《いづ》れも此の利生《りしやう》を被《かうぶ》らざるハ無しと聞きて、
狂
「人は只《たゞ》 欲べい深いと 妙見し 何《あん》の願ひも 北辰《ほくしん》だんべい」
参詣
「儂《わし》ハ女良買に行つても、どふぞ振られねへやうにと、妙見様へ御頼み申しやした」
「ソリヤ、ちつと難しい。
御前《おめへ》の顔を見なせへ、目が三角で、鼻が柘榴鼻《ざくろばな》で、口が末申《ひつじさる》方《ほう》へつん曲がつて、反歯《そつぱ》の癖に終《つい》ぞ掃除もせぬ口から、不断《ふだん》涎《よだれ》をだら/゛\出して、色ハ又真つ黒なり。
痘痕《あばた》に引つ攣《つ》りて、鬢先《びんさき》に蚰蜒《げぢ/゛\》の舐めた所へ、たん瘤《こぶ》が二つまで、其れで持てやうと言ふ願ひは、妙見様も、「こりヤァ、俺が妙見にも行かねへ」と仰《おつしや》るだろう」
「私《わたくし》の嚊衆《かゝしゆ》ハ、此の間、妙見様の御蔭で安産致しやしたから、其の代ハり、七十五日、嚊衆を断ち物にしやした」
【現代語訳】
亀戸天神を裏門から出て、右の方へ川岸通りを進み、小橋を渡って妙見のお宮に着きました。
参詣の人がものすごく多く、誰にでもご利益があると聞いて、狂歌を詠みました。
狂歌
「人はただ欲深いと妙見《みょうけん》[「了見《りょうけん》」と掛けた]し、どんな願いも北辰《ほくしん》[「得心《とくしん》」と掛けた]だべ」
(人はただただ欲深いものだということが分かっていると、図々しくどんな願いもするのも納得がいくべ)
[妙見菩薩の別名が北辰菩薩]
参詣人A [一番右の男]
「ワシは女郎を買いに行っても、どうか振られないようにと、妙見様にお頼み申しやした」
参詣人B [挿絵上では真ん中の女だが、セリフの内容を考えると、ここには描かれていない別の男か]
「それはちょっと難しい願いだ。
お前の顔を見なせえ、目が三角で、鼻がザクロ鼻(赤くふくれてブツブツ)で、口が末申《ひつじさる》(西南)の方角にひん曲がって、反《そ》っ歯のクセに一度も磨いたことが無い口から、絶えずヨダレをだらだら垂らして、肌の色も汚れて真っ黒だ。
アバタで皮膚が突っ張って、鬢先《びんさき》のゲジゲジが舐めた所(ハゲた所)に、タンコブが二つもある。
それでモテようという願いをするなんて、妙見様も「こりゃあ俺の妙見[「了見」と掛けた]にも行かねえ(こりゃあ俺でもどうしようもない)」とおっしゃるだろう。
参詣人C [左下の男]
「私の女房は、この間、妙見様のおかげで安産いたしやした。
その代わりに、私は七十五日間、女房を断ちました(産後なので断つのが普通)」
[「女房が安産できるように、願掛けで七十五日間、女房を断った(妊娠中なので断つのが普通)」、「女房が身籠るように、願掛けで七十五日間、女房を断った(女房を断っているのに妊娠するはずがない。誰の子?)」とも解釈できるがよくわからない]
【解説】
今回から初編後編中巻です。
奉納手ぬぐいに書かれている名前、「一丸・三合・隠家・百二」は不明ですが、「喜多川」はこの本の絵師の「喜多川月麿」、「馬喰町二丁目森治」はこの本の版元の「森屋治兵衛」、「十返舎」はこの本の作者の「十返舎一九」、「半九」は一九の弟子の「五返舎半九」、「立川銀馬」は一九と親交があったと思われる落語家です。
【江戸名所図会】

江戸名所図会 7巻 [18] - 国立国会図書館デジタルコレクション
ここで描かれているのは、矢印の手水舎ですかね。
【江戸切絵図】
亀戸天神から妙見宮(柳島妙見堂)までのルートはこんな感じでしょうか。

〔江戸切絵図〕 本所絵図 - 国立国会図書館デジタルコレクション
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僕は美形だから、妙見様にお願いをする必要はないね


