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[15]頭巾を忘れた千久羅坊 ~『金草鞋』初編後編下巻~

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 一行は堀之内鬼子母神を出て、麹町の日吉山王神社[現・日枝神社]に向かいます。

 

 

 

 


※この記事では国立国会図書館デジタルコレクションの画像を適宜改変して使用しています。
金草鞋 1編 - 国立国会図書館デジタルコレクション

諸国道中金の草鞋 1 - 国立国会図書館デジタルコレクション
※損傷個所は可能な限り修正しています。
※赤字の書き入れは筆者。


【原文】

 堀之内より、四つ谷通りを麹町《かうじまち》へ出で、山王《さんわう》の御宮に参りたるに、実《げ》にも結構、言ふばかりなく、参詣殊に賑ハしければ、


「山王の 御猿の数よ 是もまた 三万三千、参詣の人」

案内
「扨《さて》/\今日も歩きやした。
 もふ御日様が御入りなさつたから、此の御宮ぎりで帰りやせう。
 まだ目黒の不動様が残つてゐやす。
 是ハ明日の事になさりやし」
千久羅
「そふしますべい。
 そりやァ良《ゑ》いが、己《うら》ァ飛んだァ事をし申した。
 後《あと》の茶屋さあへ、天辺袋《てつぺんぶくろ》のう忘れて来申した」
案内
「御前《おめへ》、頭巾の事かへ。
 そりやァ御前《おめへ》の頭《つぶり》に乗つかつて有るじやァ無《ね》へか」
千久羅
「本《ほん》に、こりやァ飛んだァ所に有り申した。
 此の天辺袋ハ、己《うら》の心安《こゝろやす》い人《ふと》さあが呉《く》れ申したが、
『主《にし》やァ、良く物さあ忘れる人《ふと》だァから、この天辺袋のう、必ず被らしやるな。
 被つたら忘れベい』
 と言ひ申したが、成程《あるほど》頭へ忘申した」

「誠に花の御江戸だ。
 何処《どこ》へ行つても盛り場が沢山《たくさん》で、成程、旨《うめ》へ物を食つて稼ごうなら、江戸の事だ。
 此処《こゝ》で金の出来ぬと言ふ事は無い筈《はず》。
 何と何方《どなた》も左様じや御座りませねぬか。
 のふ、大供衆《おほどもしゆ》、合点か/\」

「是から帰りにハ、獣店《けものだな》で精分《せいぶん》を付けて帰りませう」

△当年、播州巡りの膝栗毛、大坂書林より売り出し申し候。
 何とぞを御求め、御高覧可被下候《ごかうらんくださるべくさうらふ》。
 是ハ作者の口上、左様。


【現代語訳】

 堀之内から、四つ谷通りを進んで、麹町に出て、山王のお宮に参詣しました。
 本当に言葉に尽くせないほど素晴らしい所で、参詣する人が多く賑わっているので、狂歌を詠みました。

・狂歌[千久羅坊と延高による]
「山王の お使い の お猿 の数は三万三千匹というが、ここに参詣する人の数も三万三千人ぐらいいるだろう」

・案内人
「さてさて、今日も歩きました。
 もう、お日様もお沈みになったから、このお宮を最後にして帰りましょう。
 まだ、目黒の不動様が残っていますが、こちらは明日になさりませ」
・千久羅坊
「そうしますべ。
 それはいいのだが、オラはとんでもない事をしでかしました。
 さっきの茶屋に てっぺん袋 を忘れてしまいました」
・案内人
「お前さん、それは頭巾《ずきん》の事か?
 それなら、お前さんの頭に乗っかってるじゃねえか」
・千久羅坊
「ほんとに、こりゃあ、とんでもない所にありました。
 この てっぺん袋 は、オラの親しい人がくれたのですが、
『お前さんはよく物を忘れる人だから、この てっぺん袋 は、決してかぶってはなりませんぞ。
 かぶったら、かぶっていることを忘れるから』
 と、その人は言っておったのですが、なるほど、頭に忘れてしまいました」

・参詣人A
「なるほど、花のお江戸 とは言ったものだ。
 どこに行っても、盛り場がたくさんあって、なるほど、旨いものを食って稼ぎたいなら、江戸しかない。
 ここで金が生まれないわけがない。
 みなさんも、そのように思いませんか。
 ねえ、大供衆《おおどもしゅ》(大人たち)、合点か(わかったか)、合点か」
[草双紙の締めの文句「子供衆、合点か、合点か」をもじった]

・参詣人B
「これから参詣の帰りには、獣店《けものだな》[イノシシやシカなど肉を提供する店。麹町の辺りにあったという]に寄って、精《せい》を付けて帰ることにしましょう」

本年(文化十[1813]年)、播州巡りの膝栗毛(『続膝栗毛二編追加 播州巡り』)を大坂の本屋(河内屋)から売り出しました。
 どうぞお求めになって、ご覧くださいませ。
 以上、これは作者からのご挨拶《あいさつ》でございます。


【解説】

 久々に千久羅坊が出てきたと思ったら、頭巾[東北の方言で「てっぺん袋」]をかぶってるのに、頭巾を探すというマヌケっぷりを披露しただけでした。
 まあ、私もスマホを手に持ってるの、スマホを探す事はあるので、人の事は言えません。

 最後に作者の十返舎一九は、ちゃっかり自著の宣伝をしていますね。
 播州巡りの膝栗毛は、あまり出回らなかったようで、現存数も少ないようです。
da.lib.kobe-u.ac.jp



 【江戸名所図会】

 挿絵に描かれているのは、仁王様のお腹が見えるので、二王門のあたりでしょうね。


江戸名所図会 7巻 [7] - 国立国会図書館デジタルコレクション



【江戸切絵図】

 この地図よりずっと北の方にある堀之内から南下してきています。


 〔江戸切絵図〕 外桜田永田町絵図 - 国立国会図書館デジタルコレクション


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 あれ、さっき買った あんドーナツ、忘れてきちゃったみたいヾ(๑╹◡╹)ノ"

 それなら全部君のお腹の中にあるよ、私の分まで食べやがってヾ(๑╹◡╹)ノ"


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