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[16]目黒名物粟餅餅花 ~『金草鞋』初編後編下巻~

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 一行は江戸見物の最後に目黒不動に向かいます。

 

 

 

 


※この記事では国立国会図書館デジタルコレクションの画像を適宜改変して使用しています。
金草鞋 1編 - 国立国会図書館デジタルコレクション

諸国道中金の草鞋 1 - 国立国会図書館デジタルコレクション
※損傷個所は可能な限り修正しています。
※赤字の書き入れは筆者。


【原文】

 山王の御宮へ参りたるに、早や日も暮れ近くなりければ、馬喰町《ばくろてう》へ帰りたるが、「目黒へ参らぬも残り多し」と、明くる日、直《す》ぐに出掛けて、序《つい》でながら増上寺《ぞうじやうじ》へ参詣し、此の御山内《ごさんない》を通り抜け、赤羽橋を渡り、有馬様御屋敷の先より入りて、白金台町《しろかねだいまち》を真っ直ぐに、目黒の不動へ参詣しける。


「武家方《ぶけがた》の 二本差身《にほんさしみ》で 参るのハ 鮪《まぐろ》(目黒)の不動 様であんペい」

 此の所《ところ》名物とて、粟餅《あハもち》を商ふ家、数多《あまた》見ゆれば、


「錢さあハ 猿が餅屋の 御亭殿《ごていどの》 濡れ手で掴《つか》む 粟《あハ》の商ひ」

参詣
「『餅花《もちばな》は 犬に呉れろと 気が違い』と言ふ句が有るげなが、成程、良く言つた物だ。
 品川へ廻ろうと思ふと、此の餅花が邪魔になる。
 打つ棄《ちや》つて仕舞おふか。
 早く行つて、己《おら》ァ去年の様《やう》に潮来《いたこ》を唄つて惚《ほ》れられよふか」
「置きやァがれ、主《ぬし》の潮来ハ声は中位ゐだが、文句の終《しま》ひに、『何とやらしてつう』と、『あのつう』だの、『かあ』だのと言ふから誤《あやま》る。
 湯屋へ行つて稽古した潮来と他《ほか》見へ無《ね》への」

餅屋の女
「名物栗飾を御召しなさいまし。
 私が器量の良《い》ゝ所で御買いなさいまし」
参詣
「あの餅を売つている女の顔ハ、粟餅の様《やう》に黄ばミ走《ばし》つて、小豆粒《あづきつぶ》の様《やう》な痘痕《あばた》が有る。
 成程、餅ハ餅屋の娘だ」

「腹が減へつた。
 蕎麦《そば》でも一膳食つて、蕎麦湯の七八杯も飲んで行かふ」



【現代語訳】

 山王のお宮に参ると、もう日暮れ近くになったので、馬喰町《ばくろちょう》の宿に帰りました。
 しかし、
「目黒に参らないのも、心残りが多い」
 と、翌日、すぐに出かけました。
 目黒に行くついでに増上寺に参詣し、このお寺の中を通り抜けて、赤羽橋を渡り、有馬様のお屋敷の先から、白金台町《しろかねだいまち》に入って真っ直ぐに進み、目黒の不動に参詣しました。

・狂歌[千久羅坊と延高による]
「お武家様が二本差身《にほんさしみ[刀を二本差ししていること。魚の刺身《さしみ》とかけた]でお参りするのは、目黒《めぐろ》ならぬ鮪《まぐろ》の不動様だべ」

 ここの名物ということで、粟餅を売る店がたくさんありました。

・狂歌[千久羅坊と延高による]
「銭がもうかるのは、猿が餅屋のご亭主だべ。濡れ手で粟をつかむ商売だべ。
(餅屋は簡単にお金が儲かる商売だべ)」
[「猿が餅」は、猿が餌を与えるとすぐに食べてしまうように、銭を渡したらすぐに品物が渡されること(あっという間に物が売れること)で、「濡れ手で粟」は、濡れた手で粟をつかめば、粟粒が簡単についてくるところから、簡単に儲かることを意味する。粟餅屋が繁盛していることを詠んだ]

参詣人A
「『「餅花は犬にくれてやれ」なんて、とんでもない事を云う』という句があるが、なるほど、よく言ったもので、ここから品川に遊びに行こうと思うと、この餅花がジャマになる。
 捨ててしまおうか。
 早く行って、オラ、去年のように、潮来節《いたこぶし》を歌って、惚れられたいよ」
[餅花は、小さな丸餅を彩色して木の枝に付けたもので、目黒の名物だった]
[目黒参詣を口実に、品川宿に遊びに行くものが多かった]
[潮来節は、当時、江戸で流行した俗謡]
・参詣人B
「よせやい、おぬしの潮来節は、声はまあまあだが、文句の最後に『何とやらしてつう』とか、『あのつう』と、『かあ』とか、余計な事を言ってしくじってるじゃないか。
 銭湯へ行って、湯船につかりながら唄って稽古した潮来節と、大差ないよ」

・餅屋の女
「名物粟餅をお召し上がりなさいませ。
 私のような美女の所でお買いなさいませ」
・参詣人C
「あの餅を売っている女の顔は、粟餅のように黄色っぽくて、小豆粒のようなアバタがある。
 なるほど、餅は餅屋の娘だ(餅屋の娘は、やっぱり餅みたいな顔だ)[慣用句「餅は餅屋」をもじった]

・参詣人D
「腹が減った。
 蕎麦でも一膳食って、蕎麦湯の七、八杯も飲んでいこう」



【解説】 

 挿絵では、左下に増上寺、左上に目黒の粟餅屋が描かれています。

 目黒では、粟餅と餅花以外に、飴も名物だったようです。
 サンマは名物ではありません(笑)

 なんか、だんだん千久羅坊と延高の存在感が無くなってきたような気がしますが、次回でいよいよラストです。



 【江戸名所図会】

 挿絵で描かれているのは、増上寺の本殿と五重塔でしょうか。


増上寺 江戸名所図会 7巻 [3] - 国立国会図書館デジタルコレクション

 目黒不動の門前に、粟餅屋などが連なっていたそうです。


目黒不動 江戸名所図会 7巻 [7] - 国立国会図書館デジタルコレクション



【江戸切絵図】

 馬喰町の宿から増上寺へのルートは不明なので省略です、だいぶ離れてもいますし。


〔江戸切絵図〕 芝高輪辺絵図 - 国立国会図書館デジタルコレクション
〔江戸切絵図〕 目黒白金辺図 - 国立国会図書館デジタルコレクション

 


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 僕は粟餅より泡盛が飲みたいなあヾ(๑╹◡╹)ノ"

 そこは、いつものように「蚊の目玉が食べたい」って言えよ!ヾ(๑╹◡╹)ノ"


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