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[2]【一気読み】『好色五人女』巻四「恋草からげし八百屋物語」【現代語訳】

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 第二章です。お七と吉三郎が密会するチャンスがやってきます。

 尚、本作では現代では不適切とされる表現が出てきますが、あくまでも江戸時代の文学作品に書かれている内容をそのまま紹介するのが目的であって、差別を助長する意図がない事をご了承ください。

 

 

 

 

『好色五人女』巻四「恋草を束ねた八百屋の物語」

第二章 虫出しの雷様(立春後初めて鳴る雷)も、愛しの君様(吉三郎)と同じようにフンドシを締めているから、親近感があって怖くなんかないわ

 春の雨を、柳が玉のように貫いています。

 そんな十五日の夜中に、

「柳原の方から参りました」

 と、外門が荒々しく叩かれました。

 みんな、夢から覚めて驚いていると、

「米屋の八左衛門が、長い病気の末、今夜、亡くなりました。

 かねてから想定していた死人で、諸々の手配はしてあるので、夜のうちに葬儀を済ましてしまいたい」

 という使いでした。

 出家した者の役目なので、長老様は多くの法師を召し連れて、雨が晴れるのを待たずに、それぞれ唐傘を手に持ち、お寺をお出になりました。

 そのあとには、避難民以外は、七十歳を越えた庫裏姥《くりうば》(寺の台所で働く老婆)が一人と、十二、三才になる小坊主が一人と、赤犬がいるばかりでした。

 他に残っているのは松に寂しく吹く風だけで、虫出しの雷が鳴り響いていました。

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 雷が鳴り響くので、誰もが驚き、庫裏姥は、食べると雷除けになるという節分の夜の煎《い》り豆を取り出すなどして、天井のある小座敷を探して身を潜めました。

 お七の母親は、お七が可愛いすぎるあまり、自分の寝具の下に引き寄せていたわり、激しく雷が鳴る時は、「耳をふさぎなさい」などと言って、お気遣いをされました。

 お七は、女の身なので、雷がとてつもなく恐ろしく感じましたが、恐ろしさより下心が勝って、

「吉三郎殿に会うチャンスは今夜しかない!」

 と、思うのでした。

 そして、

「それにしても、世間の人々はどうして雷を恐れるのでしょう。

 たかだか命を一つ捨てるくらいではないですか。

 私は少しも恐ろしくありません」

 と、女なのに強がって、言う必要もないことを言うので、下々の女どもまで、お七を陰で非難するのでした。

 だんだん夜も更けて行き、人々はいつの間にか寝入っていました。

 グーグーとかくイビキは、軒の雨垂れと、どちらの音が大きいか争うほどでした。

 雨戸の隙間から、かすかに月の光も差し込み、静かになった頃、お七は客殿をこっそり出ました。

 しかし、体が震えて足元もおぼつかなかったので、グッスリ寝ている人の腰骨を踏んでしまいました。

 魂が消えるくらい、ドキがムネムネして、物を言う事も出来ず、手を合わせてメンゴメンゴと拝みましたが、

「この人が私にブチギレないのは不思議だなあ」

 と、よくよく見てみると、飯炊き女の梅《うめ》という下女でした。

 梅を乗り越えて行こうとすると、梅はお七の裾を引っ張って止めました。

 また、ドキがムネムネして、

「私が行くのを引き止めるのか」

 と思っていると、そうではなく、鼻紙を一束、お七に手渡しました。

「さすが、ムッフンな事に慣れてるから、こんなに私がアタフタしている時でも、気の利いたことができる女ですこと」

 と、お七は嬉しくなりました。

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 お七は、方丈《ほうじょう》(住職の部屋)に行ってみたのですが、吉三郎の寝姿が見えないので、悲しい気持ちになりながら、台所に出ました。

 すると、庫裏姥《くりうば》が目を覚まし、

「今夜はネズミの奴がうるさいこと」

 と、お七をネズミだと勘違いして呟きながら、ネズミにかじられないように、シイタケの煮しめ、揚げ麩《ふ》、葛袋《くずぶくろ》などを片付け始めるのも、おかしなものです。

 しばらくしてから、お七を見つけて、

「吉三郎殿の寝室は、ほれ、その小坊主と一緒の、三畳敷の部屋じゃ」

 と、肩を叩いてささやきました。

 庫裏姥が、思いのほかに、情けを知る者だったので、

「寺に置いておくのは惜しい人材」

 と、愛おしくなって、締めていた紫鹿子の帯を解いて与えました。

 庫裏姥に教えられた通りに行くと、夜の八つ頃(午前2時頃)になったのか、常香盤の鈴が落ちて、しばらく響き渡っていました。

 小坊主の役目なのでしょう、起き上がって糸を掛け直したり、香を盛って足したりして、その場をなかなか動こうとしません。

 お七はイライラして、小坊主が寝室に戻るのを待ちきれず、女のふとした良くない思い付きで、髪をほどいて振り乱し、怖い顔をして暗がりから脅かして、小坊主をどかそうとしました。

 小坊主は、さすが仏門に入った者だけあって、少しも驚く様子はなく、

「お前はそもそも、帯を解いてあけっぴろげにして、なんともふしだらな奴じゃ、すぐに消え去れ。

 この寺の大黒(隠し妻)になりたいのならば、長老様が帰られるまで待て」

 と目を見開いて言いました。

 お七は気まずくなって走り寄り、

「実は、お前を抱いて寝に来たのだ」

 と言ったので、

 小坊主は笑って、

「さては、吉三郎様に会いに来ましたな。

 吉三郎様なら、俺とついさっきまで、足を絡めて寝ておった。

 その証拠は、ほれ」

 と言って、小服綿《こぶくめん》(僧侶の平服)の袖をかざすと、吉三郎が焚きしめていたと思われる、白菊などという香木の移り香がしました。

「ああ、もう、どうにもこうにも、我慢できない、むはー」

 と、お七は身悶《みもだ》えして、吉三郎の寝室に入ろうとしました。

 すると、小坊主は、大きな声で、

「はあ、お七様、良い事をなさるのですな」

 と言ったので、

 お七はとても驚き、

「なんでも、お前の欲しい物を買ってあげるから、お黙りなされ」

 と言いました。

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「えっとねー、銭《ぜに》八十文と、松葉屋のカルタと、浅草の米饅頭《よねまんじゅう》五つをくだされ。

 世の中でこのほかに欲しい物はありませぬ」

 と、小坊主は言いました。

「それはそれは容易《たやす》いこと、明日、すぐにでも届けましょう」

 と、お七は約束しました。

 すると、この小坊主は、枕に頭を乗せて横になり、

「夜が明けたら、三品貰うんだ、必ず貰うんだ」

 と、ムニャムニャと夢現《ゆめうつつ》につぶやきながら、寝入って静かになりました。

 そのあとは、もうお七の思うがままです。

 吉三郎の寝姿に寄り添って、何も言わずに、なよなよと、もたれかかりました。

 吉三郎は目を覚まして、そのまま身を震わせて、小夜着《こよぎ》(掛け布団)の袖を引っ張って頭から被りました。

 お七はそれをめくって、

「頭からかぶったら。髪型が乱れてしまいますわよ」

 と、言いました。

 すると、吉三郎はどうしようもなくなって、

「私は十六歳になります」

 と言うと、お七は、本当は十七歳なのに、

「私も十六歳になります」

 と、言いました。

 吉三郎は続けて、

「長老様が怖いです」

 と言うと、お七は、
 
「私も長老様が怖いです」

 と、言いました。

 なんとも、こういう恋の始まりというものは、もどかしいったらありゃしないです。

 それから二人とも涙を流して、どうにもこうにもなりませんでしたが、その時、雨の上がり際に、また雷が荒々しく鳴り響いたので、

「これは本当に怖いです」

 と、お七は吉三郎にしがみつきました。

 すると、吉三郎は、自然とお七のいじらしさに愛情が深まり、

「手足が冷え切っていますね」

 と、自分の肌に引き寄せました。

 お七は恨みがましい様子で、

「あなた様も私のことを憎からず思っておられたからこそ、あのようなエチエチな手紙を送ってくださったのでしょう。

 それなのに、なかなか抱きしめてもくれず、ここまで私の体を冷たくしたのは、一体、誰のせいでしょうかねえ」

 と言って、首筋にしがみつきました。

 それからいつのまにやら合体して、初めて結ばれた二人は、袖を互いに交え、

「命ある限りずっと」

 と誓ったのでした。

 ほどなく夜明け近くになり、谷中の感応寺《かんのうじ》の鐘がせわしなく鳴らされ、吹上の榎《えのき》の大木に、朝風が激しく吹き付けました。

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「恨めしいですわ、今寝たばかりで、温まってもいないのに、名残惜しくも別れなければならないなんて。

 世界は広いんだから、昼を夜にする国があればいいのに」

 と、お七は咄嗟《とっさ》に願ってみたものの、叶うわけはないので、心を悩ませていると、お七の母親が探しに来て、「あらまあ」と、お七を引っ立てて行きました。

 吉三郎は、まるで、昔男(在原業平)が、雨夜に連れ出した女を、鬼に一口で食べられた時のような気持ちになり、悲しさのあまり呆然とするのでした。

 小坊主は夜の事を忘れておらず、

「先程約束した三品をいただけなかったら、今夜の出来事を長老様に言い付けます」

 と言いました。

 お七の母親は引き返して、

「何のことか分からないけれど、お七が約束した物は、私が責任持って渡すから」

 と、言い捨てて帰りました。

 ふしだらな娘を持った母親なので、たいていの事は、皆まで聞かなくても分かります。

 お七の母親は、明けた日に早々と、そのおもちゃなどの品々を、お七が約束したより気を使って多く用意し、小坊主に贈られたとのことです。

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 第三章に続く!ヾ(๑╹◡╹)ノ" 

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