［１］深見頼母は変名です　～『男色義理物語』～ - うきよのおはなし～江戸文学が崩し字と共に楽しく読めるブログ～

　今回から読み始める『男色義理物語』は、元禄十二［一六九九］年に出版された作品です。

『男色義理物語』は、長らく写本で伝えられてきた、江戸時代の男色小説の元祖である『藻屑物語』という作品を、ほぼそのままの内容で出版したものです。

『藻屑物語』は、おそらく寛永末［一六四三］年頃に成立したと思われ、成立時期的にジャンルは仮名草子になりますが、ほぼ同じ内容なのにもかかわらず、出版時期や形態の関係で、『男色義理物語』のジャンルは浮世草子になっているというねヾ(๑╹◡╹)ﾉ"

『藻屑物語』と『男色義理物語』は文章的にもほぼ同じなのですが、もちろん相違点があります。

　なので、今回は『藻屑物語』及び異本『雨夜物語』と、『男色義理物語』との相違点も確認しながら読んでいきたいと思います。

　あ、『雨夜物語』の方が本家で、『藻屑物語』の方が異本だという説もありますが、それに首を突っ込むと収拾がつかなくなるので、今回はその点については多くは触れません。

　ただ、江戸時代の資料に『藻屑物語』の書名は出てくるのですが［最古は、戸田茂睡作『紫の一本』（天和三［一六八三］年奥書）の記述］、『雨夜物語』の書名は出てきません。

　私が確認した限りですが、『藻屑物語』の写本の中で、最も古い書写年が、承応二［一六五三］年（国文研鵜飼）で、『雨夜物語』は享保九［一七二四］年（国文研鵜飼）でした。

　なので、ここでは、一応、『藻屑物語』の異本が『雨夜物語』ということにしときます。

　ちなみに、『男色義理物語』は、井原西鶴の『武家義理物語』［貞享五（一六八八）年刊］をに便乗したタイトルでしょうねヾ(๑╹◡╹)ﾉ"

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霞亭文庫 · 男色義理物語 · 東京大学学術資産等アーカイブズ共用サーバ
男色義理物語 : 4巻 - 国立国会図書館デジタルコレクション
※赤字の書入れ等は筆者。

【原文】

男色義理物語目録
　㐧一　花に寄する恋
　㐧二　歌に寄する恋
　㐧三　義《ぎ》に寄する恋
　㐧四　命《めい》に寄する恋

男色義理物語巻之一
　　　花に寄する恋
　花ハ盛りに色《いろ》有るを以《も》つて、自《みづか》ら枝《えだ》を失ふ物也。
　然《さ》れば、何時《いつ》の頃《ころ》にや有りけん、殊《こと》に時めき給ふ唐橋侍従《からはしぢじう》の御本《ミもと》に、年頃《としごろ》宮仕《みやづか》ひける童《わらハ》に、深見頼母《ふかミたのも》と言ひて有りけり。
　其の様、卑《いや》しからず、心素直《こゝろすなを》にして、物の哀れを知り、春ハ東叡山《とうゑいざん》の花に心を移して、散らん事を思ひ、「大空《おゝぞら》に覆《おほ》ふばかりの袖もがな」と託《かこ》ち、秋ハ角田川《すみだがわ》の月《つき》に嘯《うそぶ》き、三十一文字《みそじひともじ》の言《こと》の葉を連《つら》ねて、自《みづか》ら心を慰《なぐさ》め侍りしとなん。
［「大空に　覆うばかりの　袖もがな　春咲く花を　風に任せじ」は、『後撰集』に収録されている和歌］

【現代語訳】

『男色義理物語』巻一「花に思いを寄せる恋」

　花は一番キレイに咲いている時に、その美しさのせいで、観賞用に人の手で枝から切り取られてしまうものです。

　さて、いつの頃だったでしょうか、乗りに乗ってイケイケの唐橋侍従《からはしじじゅう》の所に、ここ数年宮仕えしている、深見頼母《ふかみたのも》という少年がいました。

　容姿は美しく上品で、心は素直で、物の哀れを知っていました。

　春は東叡山寛永寺《とうえいざんかんえいじ》の桜に心を惹《ひ》かれ、桜が散ることを悲しみ、
「大空を覆うぐらい大きな袖があったら、風を遮《さえぎ》って春に咲く桜の花が散るのを防げるのに」
　と嘆きました。

　秋は隅田川で月を見て、三十一文字の言葉を連ねて和歌を詠み、自分で心を慰《なぐさ》めました。
［和歌（短歌）は三十一文字で構成されている］　

　【解説】

「唐橋侍従」は、『藻屑物語』では「桜川侍従」、『雨夜物語』では「佐倉侍従」、「深見頼母」は、『藻屑物語』『雨夜物語』ともに「伊丹右京」となっています。

　なぜ、人物名が変えられているか、それは、『藻屑物語』は実際に起こった事件を元に書かれているからです。

　さすがに、実在の人物名を出版物に出すのはマズかったようで、自粛したのでしょう。

　とはいえ、「桜川侍従」「佐倉侍従」も変名なのですが、佐倉城主であった堀田正盛のことだとすぐにわかってしまうので、変更されたと思われます。

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