【前回のあらすじ】
采女の家族や、采女の男色相手の内蔵之助の祈りが通じたのか、采女の恋煩いは少しは良くなったのですが、全快まではまだほど遠いのでした。
【初めての方へ】
原典の画像だけでなく、スクロールすると、ちゃんと活字の原文(可能な限り漢字に直し、送り仮名と振り仮名を補足しています)と現代語訳と解説がありますよヾ(๑╹◡╹)ノ"
【スマホでご覧の方へ】
諸事情により、PC版と同じデザインになっていますが、なるべくスマホでも読みやすいようにはしているのですが、もし、字が小さいと感じた場合は、スマホを横にして拡大すると読みやすいと思います。
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霞亭文庫 · 男色義理物語 · 東京大学学術資産等アーカイブズ共用サーバ
男色義理物語 : 4巻 - 国立国会図書館デジタルコレクション
※赤字の書入れ等は筆者。
【原文】【現代語訳】
(何時《いつ》しか遠寺《ゑんじ》の鐘《かね》の声も物哀れに、「明日もや有らバ聞かん」)
とやすると、
(いつしか遠くの寺の鐘の音も、なんとなく趣《おもむき》深く感じ、「明日も生きていたら聞こう」)
と、采女は思うのでした。
古哥まで思ひ出だされて、歌に、
「人知らぬ 思ひに今日《けふ》も 呉竹《くれたけ》の 憂《う》き節《ふし》をさて 誰《たれ》に語らん」[「世に経《ふ》れば 言の葉 繁《しげ》き 呉竹の 憂き節ごとに 鶯《うぐひす》ぞ鳴く」『古今和歌集』をふまえるか]
すると、古い歌を思い出して、
「誰も知らない恋心をいだいたまま、今日も日が暮れます。
呉竹《くれたけ》の節《ふし》のように多い憂《う》き節《ふし》(つらく悲しい思い)を、誰に語ることもできないでいます」
と詠みました。
春の雨の夜すがら、しめやかに打ち注《そゝ》ぐを聞きて、
「徒然《つれ/゛\》と 降り暮らしたる 夜の雨ハ 忍び余れる 涙をぞ知る」[「徒然と降り暮らしてしめやかなる宵の雨に」(『源氏物語』「帚木」の一節)をふまえるか]
春の雨が一晩中、静かに降り注ぐのを聞いて、
「ずっと降り続けている夜の雨は、恋しさに耐え切れずに流し続ける、私の涙が投影されているのでしょうか」
とも詠みました。
門《かど》の辺《ほと》りを、声、艶《なま》めかしふ、
「何時《いつ》の夜も/\、涙で明かす」
と歌ふも、いとゞ哀れにて、
「何時の夜も 涙ながらと 聞く袖も 如何《いか》で増さらん[勝らん?] 我が思ひとハ」
また、門の辺りを色っぽい声で、
「いつの夜も、いつの夜も、涙で明かす」
と歌っているのが聞こえると、とても悲しくなり、
「「いつの夜も涙ながら」という歌を聞くと、私の恋心はますます増して、涙で袖を濡らすのです」
と詠みました。
今宵も漸《やうや》く戌《いぬ》の時《とき》にも成《な》り侍らん。
「人を咎《とが》むる里の犬ハ、もし忍ぶ人もや、又、己《おの》が物思ひの鳴く音《ね》にもや」
と羨《うらや》まし。
今夜もようやく戌《いぬ》の時[午後八時ごろ]になりました。
「人に吠え掛かる里の犬は、その家に忍んでやってくる人を、不審者だと思って吠え掛かっているのでしょうか。
それとも、犬自身が恋する相手を思って、鳴いているのでしょうか」
と自由に恋愛ができることを、羨《うらや》ましく思いました。
「心のまゝに野良猫《のらねこ》」[「羨《うらや》まし 声も惜しまず 野良猫の 心のままに 妻恋《つまこ》ふるかな」(藤原定家『北条五代記』)のことか]
と、昔の人の言ゝしも、今は思おもひ出だされぬ。
「野良猫は思うがままに恋ができて羨ましい」
と昔の人が言っていたことも、今は理解できます。
軒近く、たゞ「降れ/\」と鳴く蛙《かハづ》の聲も、「あな喧《かしま》し/\」と聞いたるに、其の方様《かたざま》に小鼓《こつゞみ》の音も聞こゆ。
軒近くで、ただ「降れ、降れ」と鳴いているカエルを、「ああ、うるさい、うるさい」と思って聞いていると、その方向から、小鼓の音も聞こえてきました。
「あハや其の人の手の跡なりけり」
と思ふに、心寒けきまでに憧《あこが》れて、歌に、
「手に鳴らす 哀れ調べを してしかな〈得《ゑ》てしがな〉(恋の乱れの 束《つか》ね緒《を》にせん」)[「哀れてふ 言《こと》だに無くは 何をかは 恋の乱れの 束ね緒にせむ」『古今和歌集』をふまえるか]
「ああ、あの人(頼母)が打つ小鼓の音だ」
と思うと、どうしようもないほど気が気でなくなって、
「あの人が打つ小鼓に使われていて、愛着を感じる調べの緒[鼓を固定する紐]を、なんとか手に入れることができないでしょうか。
(私の乱れる恋心を、その調べ緒で束《たば》ねたいのです」
と詠みました。) 【解説】
今回は特にストーリーの進展はなく、ウジウジと采女が歌を詠んでいるだけですヾ(๑╹◡╹)ノ"
というか、私、和歌が大の苦手で、今回は地獄でしたわヾ(๑╹◡╹)ノ
古歌を踏まえている場合も多いようで、それを探すのも大変で、漏れがあっても勘弁してくださいね!
ちなみに、『男色義理物語』の「軒近く~束《つか》ね緒《を》にせん」の箇所は、『藻屑物語』では、ほぼ同じ文章が書かれているのですが、『雨夜物語』では、
枕を驚かし、頭擡《あたまもた》げて見れば、月細く卯辰《うたつ》の窓より差し入るを見て、
「何時までと 斯《か》かる思ひを 床《とこ》の上に 涙湛《なみだたた》へて 月を宿さむ」
[「よしさらば 涙の池に 身をなして 心のままに 月を宿さむ」(西行『山家集』をふまえるか]
と違う歌が詠まれています。
また、『男色義理物語』の「涙をぞ知る」と「門の辺りを」の間に、『雨夜物語』『藻屑物語』では、
其れに有りける香炉引き寄せ、独り焚《た》くに、思ひもまた、ゑならん人に準《なづ》らへて、我が身ながら、いと恋しければ、
「準《なづ》らゑて 思ふも苦し 独りただ 匂ひは如何《いか》に 身に留《と》まるらん」
という歌が詠まれています。[『藻屑物語』には、この歌が詠まれていない写本もあり]
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【次回予告を兼ねた くずし字クイズ】
どうやら、采女が詠んだ歌が、内蔵之助に見つかってしまったようです。
正解は一番最後ヾ(๑╹◡╹)ノ"
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僕も歌を詠んでみたよ
ヾ(๑╹◡╹)ノ"
「一つ目小僧 二つ目落語家 三つ目入道 四つ目鹿 五つ目綴じ 六つ目籠 七つ目調整器 八つ目鰻 九つ目紋」ヾ(๑╹◡╹)ノ"
歌は歌でも「○つ目」の数え歌になってるやん
ヾ(๑╹◡╹)ノ"
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--------------------------------- 【くずし字クイズの答え】