［２２］ダメだと分かれば○っちまおう！　～『男色義理物語』～ - うきよのおはなし～江戸文学が崩し字と共に楽しく読めるブログ～

　【前回のあらすじ】

　式部はイラ立ちながら、露斎に頼母との件がどうなっているのか尋ねるのでした。

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霞亭文庫 · 男色義理物語 · 東京大学学術資産等アーカイブズ共用サーバ
男色義理物語 : 4巻 - 国立国会図書館デジタルコレクション
※赤字の書入れ等は筆者。

【原文】【現代語訳】

　此の法師もいたふもて悩ミたる面《つら》付きにて、
　この法師（露斎）も、いかにも困った顔つきで、

「然《さ》れバとよ、只今《たゞいま》罷《まか》で侍りて、色を変へ品を変へ様／゛＼言葉を尽くして侍れども、中／＼耳にも留《と》め侍らで、殊《こと》になくさげなる〈憎《にく》さげなる〉言葉にこそあめれ。
「そのことなのですが、たった今、頼母殿の所から帰ってきたところです。
　手を変え品を変え、色々と言葉巧みに説得したのですが、ロクに聞いてもくださらないばかりか、憎たらしい言葉を返されるほどです。

　何様にも主《ぬし》有る人と見ゑたり。
　どうやら、頼母殿にはお相手がいらしゃるようです。

　然《さ》有るを斯《か》く等閑《なをざり》に言ひ做《な》してハ、よも早《はや》情け立つ事も侍らじ。
　そういうわけで、このように頼母殿には適当に言いあしらわれているので、もはや頼母殿があなた様（式部）に情けをかけることはないでしょう。

　今ハ一筋に思し捨て給ふか、然《さ》無くバ御身の腰に物し給ふ剣《つるぎ》の上に尋ね給へ。
　今はキッパリと頼母殿に心を寄せることをおやめになるか、そうでなければ、お腰につけてらっしゃる刀にどうするかお尋ねになってくだされ（頼母殿を討ってくだされ）。

　其れこそ心の休む所の一句なれ。
　それがあなた様（式部）の心が休まる方法です。

　是非、法師バら〈から〉も御引《おひ》きせん」
　ぜひ、この法師（露斎）もお手伝いします」

　と唆《そゝのか》しけるこそうたて憎けれ。
　とそそのかしたのは、嘆かわしい事です。

　然《さ》無くても堪《たまら》ぬ男《をのこ》、此の物語りに猶《なを》勢ひ猛《もふ》になつて、
　ただでさえ気の短い男（式部）は、この話にますますテンションマックスになって、

「良し／＼、遠くハ日を過ごすへからず」
「よしよし、近いうちに殺《や》っちまおう」

　と言ひて、其の後《ゝち》よりハ只管《ひたすら》頼母を謀《たばか》り討つて、人の国へ往《い》なんと計《はか》りける。
　と言って、それからは、頼母をだまし討ちにして、ほかの国に逃げる計画をひたすら練《ね》るのでした。

　此の事深く忍ぶとすれど、色他《ほか》に見へけれバ、頼母も最早逃れぬ所を思ひ定め、
　このことは深く隠しているつもりだったのですが、その様子が他から見てもバレバレだったので、頼母も「もはや逃れられぬ」と覚悟を決めました。

「此のあらましを采女に知らせ侍らでハ、後の恨みも深かゝるべし、また、打ち出でゝ言ハんも流石《さすが》武勇の言ひ甲斐《がひ》無きにも似たり、兎《と》やすまし、角《かく》やせまし」
「この件を采女殿に知らせなかったら、あとでひどく恨まれるでしょう。
　しかし、ここぞとばかりに言い知らせるのも、采女殿を巻き込んでしまい、さすがに勇ましい武士たるものの尊厳を失うような行為となるのではないかと。
　どうしたものか」

　と、伊勢の海《うみ》に釣《つ》りする泉郎《あま》［？］の浮《う》けなれや、心一つを定めかね居たりしが、
　と、伊勢の海で釣りをする海人《あま》の釣り竿に付いているウキのようにフラフラと、知らせるか知らせざるべきか、心をどちらか一つに決めることができませんでした。
［「伊勢の海に　釣りする海人の　浮けなれや　心一つを　定めかねつる」『古今和歌集』509］

　【解説】

　露斎ったら、自分が討たれそうになったからって、先に頼母を討つように式部をそそのかしちゃうなんて。

　しかも、式部もノリノリで討つ気満々だなんて。

　ガサツな式部が隠し通せるはずも無く、このことが発覚したのは不幸中の幸いとでも言うべきでしょうか、このピンチを頼母さんはどう対処するのでしょうか？

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