続きですヾ(๑╹◡╹)ノ"
武家義理物語 6巻. [2] - 国立国会図書館デジタルコレクション
井原西鶴『武家義理物語』貞享五[一六八八]年刊
※この記事では国立国会図書館デジタルコレクションの画像を適宜改変して使用しております。
【翻刻】
いやしき者の娘《むすめ》ハ。無用《むやう》のりんきに
我気《わがき》をなやまし人の身をいため。又の世のくる
しミもかまはず。悪心 胸《むね》に絶《たへ》ず。これらハ。なさ
けをかけても。うるさき所あり。又 松風《まつかせ》とて尾刕《びしう》
鳴海《なるミ》あたりの濱里《はまざと》に猟人《りやうと》のむすめなるが。浦《うら》そだ
ちにハ。めいようるハしく。古代須磨の蜑《あま》の松風の
女にハをとるまじき風義なれば。いやしくも御《こ》
前勤めを望《のぞ》ミ。是も川屋敷《かハやしき》に有しが。ちかくハ
めされながら。つゐに御 枕《まくら》をなをさぬ事を恨《うら》ミ。
兎角雪の夜。月の夜が。あしくも。申ての事ならん
と。女心に思ひこミ此二人をねらひ。時節《じせつ》待《まつ》うちに
年めづらしき明《あけ》ぼの御 謡初《うたひそめ》。二日の夜《よ》。又 川屋形《かハやかた》
に御 成《なり》とて。嶋臺《しまだい》かざりて。御 酒宴《しゅえん》かさなり。女
中もつねよりハ。さゝ。すごして。前後《ぜんこ》しらざりき
松風 今宵《こよひ》とおもひ定《さた》め。萩《はき》の戸《と》のかげにて
身をかため。うちかけ姿《すがた》は人 並《なみ》に。國《くに》づくしの
間《ま》に居《い》ながれて。夜《よ》のふけゆく首尾《しゆひ》うかゞひ
けるに。此女の立ふるまひ。ともし火の影《かげ》に見さ
せられ。局《つぼね》がしらの梅垣《むめがき》をひそかにめされ。あの
菊《きく》なかしの衣装《いしやう》の女。懐中《くハいちう》に子細あり。とらへ
て僉義《せんぎ》仕れとの上意を請て。松風といへる
女を。ばた/\と取まき。懐《ふところ》をさがしけるに。あん
のごとく肌刀《はだがたな》をさして有。
【現代語表記】
卑《いや》しき者の娘《むすめ》は、無用《むよう》の悋気《りんき》に我が気を悩まし、人の身を痛め、又の世の苦しみも構わず、悪心 胸《むね》に絶《た》えず。
これらは、情けを掛けても、煩《うるさ》き所有り。
又、松風《まつかぜ》とて、尾州《びしゅう》鳴海《なるみ》辺りの浜里《はまざと》に、猟人《りょうと》の娘なるが、浦《うら》育ちには面容《めいよ》[面妖?]麗《うるわ》しく、古代須磨の蜑《あま》の松風の女には、劣るまじき風儀《ふうぎ》なれば、苟《いやしく》も御前《ごぜん》勤めを望み、是も川屋敷《かわやしき》に有りしが、近くには召されながら、終に御枕《おんまくら》を直さぬ事を恨み、「兎角《とかく》、雪の夜、月の夜が、悪しくも申しての事ならん」と女心に思い込み、此の二人を狙い、時節《じせつ》待《ま》つ内に、年珍しき明けぼの、御謡初《おうたいぞめ》、二日の夜《よ》、又、川屋形《かわやかた》に御成《おな》りとて、島台《しまだい》飾りて、御酒宴《ごしゅえん》重なり、女中も常よりは酒《ささ》過ごして、前後知らざりき。
松風、今宵《こよい》と思い定め、萩《はぎ》の戸《と》の影にて身を固め、打掛《うちかけ》姿は人並《ひとなみ》に、国尽《くにづ》くしの間《ま》に居流《いなが》れて、夜《よ》の更け行く首尾《しゅび》を伺《うかが》いけるに、此の女の立ち振る舞い、灯火《ともしび》の影《かげ》に見させられ、局頭《つぼねがしら》の梅垣《むめがき》を密《ひそ》かに召され、
「あの菊流《きくなが》しの衣装《いしょう》の女、懐中《かいちゅう》に子細有り。
捕《と》らえて僉議《せんぎ》仕《つこうまつ》れ。」
との上意《じょうい》を請《う》けて、松風と言える女をバタバタと取り巻き、懐《ふところ》を探しけるに、案の如く肌刀《はだがたな》を差して有り。
【現代語訳】
家柄が悪い者の娘は、無駄な嫉妬《しっと》に狂って人の身を傷つけ、その報いで来世で苦しむことになろうことなど何とも思わず、悪い考えがいつも心に起こります。
そういう娘には、情けをかけたとしても、面倒なことになるでしょう。
さて、松風と言う名の女性は、尾張国鳴海《おわりのくになるみ》[愛知県名古屋市緑区][有松絞で有名]あたりの浜里の猟師[漁師?]の娘でした。
浜里で育ったわりには顔が美しく、平安時代に在原業平《ありわらのなりひら》に愛された須磨《すま》[兵庫県神戸市]の海女《あま》の松風にも劣らない容姿でした。
そういうわけで、柄にもなくお屋敷勤めを望んで、この松風も川屋敷に奉公していました。
しかし、殿のお側近くまでは召されるのですが、一度も夜の枕のお相手に指名されることはありませんでした。
松風はこれを恨みに思い、
「とにもかくにも、雪の夜と月の夜が、殿に私の事を悪く言っているに違いない。」
と女心に勝手に思い込み、雪の夜と月の夜の二人の命を狙いました。
チャンスを待つうちに、年がめでたく明けて、御謡初《おうたいぞめ》[謡曲の歌い始めをする儀式]をなさるために、正月二日の夜、殿がまた川屋敷においでになりました。
島台[めでたい儀式用の飾り物]を飾って、ご酒宴が盛り上がり、女中[女性奉公人]たちもいつもより深酒して、ベロンベロンに酔いつぶれました。
松風は「今夜がチャンス!」と決心し、萩を描いた扉の影で身支度をし、他の女中と同じような打掛《うちかけ》[着物の一種]を着て、諸国の名所が描かれた部屋で、他の女中に紛れて並んで座りました。
夜が更け行くにつれ、「いまか、いまか」と実行するチャンスをうかがっていると、殿は松風の挙動がおかしいのを、灯火の明かり越しにお気づきになりました。
殿は局頭《つぼねがしら》[女中を取り仕切る年配の女性]の梅垣《むめがき》をこっそり呼び寄せ、
「鼻にピーナッツを入れて飛ばしなさい。
あの菊流し模様の着物を着た女、懐《ふところ》の中に何か持っている。
ひっ捕らえて調べてみなさい」
とおっしゃいました。
梅垣は殿の命を承り、松風を女中たちとバタバタと取り囲み、懐の中を探すと、殿がお見抜きになった通り、肌刀[懐に入れて肌身につけて持つ小さな刀]を差していました。
【解説】
前回の穏やかな内容とは打って変わり、松風と言う女性の登場によって、状況が一変します。
家柄が悪い女性は嫉妬深いという法則の通りに、松風は雪の夜と月の夜を勝手に嫉妬して恨み、あろうことか殺害計画を立てるのです!
が、さすが信長公の眼力は鋭く、松風の挙動のおかしさに目ざとく感付き、間一髪のところで、雪の夜・月の夜殺害計画は未遂に終わります。
めでたしめでたし、おしまいヾ(๑╹◡╹)ノ"
まだ終わらないよ!
問題はこの続きです、いよいよホラーになります!ヾ(๑╹◡╹)ノ"
『武家義理物語』は、現在入手可能な本の中では、小学館の新全集に収録されているものが一番読みやすいと思いますヾ(๑╹◡╹)ノ"
このブログの北見花芽の解説や現代語訳には劣りますが、注釈も現代語訳もついていますヾ(๑╹◡╹)ノ"
どこの図書館にも置いてあると思いますよヾ(๑╹◡╹)ノ"
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