吉三郎に会いたいばかりに放火をしたお七は、あっさり捕まって処刑されてしまいました。
『好色五人女』巻四「恋草からげし八百屋物語」[貞享三(1686)年刊、井原西鶴作]
好色五人女 5巻 [4] - 国立国会図書館デジタルコレクション
【原文】【現代語訳】
其れハ昨日、今朝見れば塵《ちり》も炭《はい》も無くて、鈴《すゞ》の森《もり》、松風ばかり残《のこ》りて、
お七の処刑はもう昨日のことで、今朝見ると、焼かれたお七の塵も灰も無くて、鈴が森に吹く松風しか残っていません。
旅人《たびびと》も聞《き》ゝ伝へて、只は通《とを》らず、廻向《ゑかう》して其《そ》の跡《あと》を吊《とぶら》ひける。
お七の処刑を伝え聞いた旅人は、素通りはせず、念仏などを唱えて、冥福を祈りました。
然《さ》れバ、其の日の小袖、郡内嶋《ぐんないじま》の切れ/゛\迄も、世の人、拾《ひろ》ひ求めて、末《すへ》/゛\の物語の種《たね》とぞ思ひける。
そういうわけで、処刑の日にお七が着ていた、郡内縞《ぐんないじま》の小袖の切れ端までも、世間の人は拾い集めて、後々までの話のネタにしようと思ったのでした。
「近付《ちかづ》き成《な》らぬ人さへ、忌日《きにち》/\に樒《しきみ》折《を》り立《た》て、此の女を訪《と》ひけるに、其《そ》の契《ちぎ》りを込《こ》めし若衆ハ、如何《いか》にして、㝡後《さいご》を尋《たづ》ね問《と》ハざる事の不思義《ふしぎ》」
「何の縁《えん》が無い人でさえ、忌日《きじつ》ごとに樒《しきみ》を折って供え、この女(お七)を弔《とむら》っているのに、この女と契りを交わした若衆(吉三郎)が、どうしてこの女の最後の様子を、聞き尋ねる事さえしないのか、不思議で仕方がない」
と、諸人、沙汰《さた》し侍る折節、吉三良ハ此の女に心地悩ミて、前後《ぜんご》を弁《わきま》へず、憂《う》き世《よ》の限《かぎ》りと見えて、便《たよ》り少なく、現《うつゝ》の如くなれバ、
と、人々は噂しました。
その頃、吉三郎は、この女(お七)を思うあまり病に伏せり、前後不覚の様子で、もう命も危うく、長くは生きられないように見え、夢とも現実ともハッキリしない状態でした。
人/゛\の心得《こころへ》にて、
「此の事を知らせなバ、よもや命も有るべきか。
それ故、人々は配慮して、
「お七が亡くなったことを知らせたら、おそらく吉三郎殿の命も失われてしまうだろう。
常《つね》/゛\申せし言葉《ことば》の末《すへ》、身の取《と》り置《を》き迄《まで》して㝡期《さいご》の程を待《ま》ち居《い》しに、
いつもおっしゃっている言葉の端々からも察せられるように、身の回りの整理までして最後の時が来るのを、吉三郎殿は覚悟して待っておられます。
思へバ人の命《いのち》や」
と、首尾《しゆび》よしなに申し做《な》して、
それなのに、先にお七が亡くなるとは、人の命とは思うようにならないものです」
と、うまく口裏を合わせて、
「今日明日《けふあす》の内《うち》にハ、其の人、爰《ここ》に在《ましま》して、思ふまゝなる御見《ごげん》」
など言ひけるにぞ、
「今日か明日のうちに、その人(お七)はここにいらっしゃって、思うがままにお会いできますよ」
などと言いました。
一入《ひとしほ》心を取り直し、与へる薬を外に為《な》して、
「君よ恋し、其の人まだか」
と、漫《そゞ》ろ事言ふ程こそ有れ。
すると、吉三郎は、ひときわ気を持ち直して、与えた薬をポイして
「君(お七)よ恋し、その人(お七)はまだか」
と、とりとめもないことを、言うまでになりました。
「知らずや、今日は早や三十五日」
と、吉三郎には隠して、其の女、吊《とぶら》ひける。
そして、人々は、
「吉三郎殿は知らないでしょうが、今日はもう三十五日」
と、吉三郎に隠して、その女を弔いました。
其れより四十九日の餠盛《もちも》りなど、お七 親類《しんるい》御寺に参りて、
それから四十九日の餅盛りなどをするために、お七の親類がお寺(吉祥寺)に参って、
「せめて其の恋人を見せ給へ」
と歎《なげ》きぬ。
「せめてその恋人(吉三郎)の姿をお見せください」
と嘆きました。
様子《やうす》を語りて、
「又も哀《あハ》れを見給ふなれバ、よし/\其の通りに」
と、道理を責《せ》めけれバ、
寺の者は吉三郎の様子を語り、
「吉三郎殿に知らせたら、吉三郎殿が命を失って、また、悲しい思いをされることになるので、どうかこのままそっと」
と、しっかり筋を通して説明をしたので、
「石流《さすが》人たる人なれバ、此の事聞きながら、よもや永《なが》らへ給ふまじ。
「さすが人として立派な方なので、お七が亡くなったことを聞いたら、おそらく生きてはおられないでしょう。
深《ふか》く包ミて、病氣も恙無《つゝがな》き身、折節《おりふし》、お七が申し残《のこ》せし事共をも語り慰《なぐさ》めて、
深く包み隠して、病気がよくなられた時、お七が言い残したことなどを語って慰めましょう。
我が子の形見《かたミ》に其れなりとも、思ひ晴らしに」
と、卒塔婆《そとば》書《か》き立てゝ、
それでは、我が子(お七)の形見として、それなりに思いを晴らすために」
と、お七の親は、卒塔婆を書いて立てました。
手向《たむ》けの水も泪《なミだ》に乾かぬ石《いし》こそ、亡き人の姿《すがた》かと、
手向けの水を掛けると、流した涙も掛かって、乾かず濡れたままの墓石を見ると、人は亡くなるとこんな姿になってしまうのかと、悲しみを誘います。
跡《あと》に残りし親《おや》の身、無常《むじやう》の習《なら》ひとて、是《これ》、逆《さか》さまの世や。
無常が世の常《つね》と言いますが、これは、子に先立たれ、親の身があとに残される、逆さまサマンサの世です。 【解説】
お七が火事騒ぎを起こして処刑された頃、そんなこととは露知らず、吉三郎は恋の病で伏せっていたのでした。
前回の『男色義理物語』の采女と言い、この頃の若衆は恋の病に伏せってしまいがちなのですね。
この状態だと、お七の死を伝えたら、吉三郎は、弱って死ぬか、自ら命を絶つと思われたのでしょう、周囲の者は吉三郎にお七の死をひた隠しにするのでした。
ふと気になったのは、西鶴さん、お七が処刑されてからは、お七の親のセリフ以外ではお七の名を出さず、「この女」やら「その女」呼ばわりしていますね。
やっぱり罪人の名は極力出したくなかったのでしょうか。
次のページに謎の挿絵があります。
【挿絵】
物思いに更けるお七の姿が描かれていますが、完全に該当するシーンは本文にはありません。
放火や処刑のシーンを描くのは憚《はばか》られるから、この章の一行目の「其れとハ言はずに、明暮《あけくれ》女心の墓《はか》なや」をイメージでもした画像にしたのでしょうか。
次はいよいよ最終章です。
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