文殊堂で出会った二人の若衆　～『男色比翼鳥』巻１の１　その３～ - うきよのおはなし～江戸文学が崩し字と共に楽しく読めるブログ～

「うきよのおはなし（はてな）」一周年記念企画、『男色比翼鳥』巻１の１読み直しの続きだよ！

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※この記事では、国立国会図書館デジタルコレクションの画像を適宜改変して使用しております。
男色比翼鳥 6巻. [1] - 国立国会図書館デジタルコレクション
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【前回のくずし字クイズの答え】

幸（さいわい）此国きれとの文殊（もんじゆ）こそ分て
衆道（しゆどう）を守せ給ふ御仏（ミほとけ）なれば

【原文】

年月（ねんげつ）と送（をく）る、口惜しき事なり。
しかし、某（それがし）に等しく心中（しんぢう）有らん兄分（あにぶん）無きこそ、是非（ぜひ）も無し。
兎角（とかく）叶わぬ事、仏神（ぶつじん）祈（いのる）にハしかじと、幸（さいわい）此の国、切戸（きれと）の文殊（もんじゆ）こそ、分けて衆道（しゆどう）を守らせ給ふ御仏（ミほとけ）なれば、今宵（こよひ）、通夜（つや）して祈（いの）らん。」
と、文殊堂へ急ぎぬ。
爰（ここ）に、松枝緑之助（まつえだみどりのすけ）ハ、
「此の三ヶ年、親（おや）の敵（かたき）安ン左ヱ門（あんざゑもん）を、方々と尋（たづ）ぬれど、怪我にも似（に）たる人も無く、せめての事に切戸の文殊は霊験（れいげん）尊（たつと）く、現當（げんとう）二世の御誓ひ、今宵（こよひ）、参詣（さんけい）し、敵（かたき）の在り処（ありか）を祈らん。」
と、是も此の御堂（ミどう）に籠（こも）りけるに、音羽之丞、緑之助（みどりのすけ）に近付（ちかづき）、
「其の方様も、今宵（こよひ）、通夜（つや）なさる哉（かな）。
先刻より見候ふに、何とやらん物思日（おもひ）の御姿（おすがた）。
殊に御若衆の身にして見れば、お連（つれ）も無し。
如何成（いかなる）御願（ごぐわん）と、某（それがし）も少しの願（ねが）ひに、今宵（こよひ）通夜（つや）致しゝ。」
と、打ち解けたる云葉（ことば）に

【さっくり現代語訳】

月日を送るのは、残念なことである。

しかし、私と心が通じ合う兄分がいないから、どうしようもない。

とにかく、叶わないことは神仏に祈るしかない。

幸いにもこの国には切戸（きれと）の文殊（もんじゅ）様がいらっしゃる。

文殊様は、特に衆道［「若衆道」の略。男色のこと］の守護仏でいらっしゃるから、今夜は夜通しお祈りしよう。」

と、文殊堂に急いで行きました。

一方、松枝緑之助（まつえだみどりのすけ）という若衆も、

「この三年の間、親の敵（かたき）の安左衛門（あんざえもん）をあちらこちらと捜しまわったが、似た人すら見かけることもなかった。

切戸の文殊様は霊験あらたかで、現世と来世に渡ってご利益がある。

今晩、参詣して、せめて敵の居場所だけでもお教えくださるよう、お祈りしよう。」

と思い立ち、文殊堂に籠りました。

同じく文殊堂に籠っていた音羽之丞は、緑之助に、

「あなた様も、今晩は夜通しお祈りなさるのですか？

先ほどから拝見していますと、何やら物思いをなさっているようですが？

お若衆の身でありながら、お連れ様もいらっしゃらないようですし？

どのようなお願いをなさっているのか、気になっておりました。

私も少しばかりの願いがありまして、今晩は夜通し籠っているのです。」

と、フレンドリーな感じで話しかけました。

【解説】

新たな若衆の登場です。

「松枝緑之助」という名前、面白いですね。

「松の枝」の色が「緑」だからと言うシャレですね。

だとしたら、「唐崎音羽之丞」という名前も何か意味があるのかなと考えましたところ、なるほど、「唐崎」と「音羽」は「松」を連想させる言葉なんですよ！

「唐崎の松」［滋賀県］、「音羽の松」［静岡県］という有名な松があるのでございますよ。

そう、「松枝緑之助」に繋がるというわけです♪

切戸の文殊は、智恩寺（ちおんじ）のことで、今でもあります♪

ではなぜ、文殊様が男色の守護仏なのでしょうか？

文殊は正式には文殊師利菩薩（もんじゅしりぼさつ）と言います。

文殊シリ菩薩。

シリ＝尻。

男色はお尻を使うものなので、、、

というわけです（笑）

お下劣なダジャレのようですが、冗談じゃなくて、ホントにそういう理由から文殊様は男色の仏様と、この当時は言われていたのですよ！