玉水物語 2巻 | 京都大学貴重資料デジタルアーカイブ
※この記事では、京都大学貴重資料デジタルアーカイブの画像を、適宜改変して使用しています。
【原文】
[長歌] 束の間も 去り難かりし 我が住み家 君を逢い見て
其の後は 静心《しづこころ》無く 憧《あくが》れて 上《うわ》の空にも
迷いつゝ 儚《はかな》き物を 数ならぬ 憂き身成りける
物故《ものゆえ》に 漫《すゞろ》に身をバ 筑紫《つくし》[※「尽くし」とかけた]船
漕《こ》ぎ渡れども
晴れやらで 浪に漂ふ 細[笹]蟹《さゝがに》[※蜘蛛《くも》の古名]の 糸筋よりも
微《かすか》かにて 過ぎにし月日 数《かぞ》ふれば たゞ夢とのミ
成りにけり 我が身一つハ 如何《いかに》にせん 君さへ長き
恨みをば 負ひなん事の 由《よし》無さよ 朝夕君を
見る事も 身の類《たぐひ》ぞと 慰めて 夢現《ゆめうつゝ》とも
分き難く 明かし暮らしつ 面影を 何時《いつ》の世迄も
変ハらじと 思ひ明石《あかし》[※「明かし」とかけた]の 浦に出て 潮干《しおひ》の貝も
拾ふかな 蜑[海女][海人]《あま》の炊[焚]《た》く藻の 夕煙《ゆふけぶ》り 棚引く方も
懐かしや 島伝ひにて 海松布《みるめ》[※和歌では「見る目」とかけられることが多い]刈る 蜑の子供に
あらねども 乾く間も無き 袖の上に 訪《と》ひ来る風も
干しかねて 靡《なび》く気色[景色]《けしき》を 余所《よそ》に見て 思ひ知られぬ
身の程も 遂に甲斐無き 心地して たゞ一筆を
遊《すさ》み置く 玉章[玉梓]《たまづさ》バかり 身に添へて 長き思ひの
記[印]《しるし》ぞと 常ハ訪[弔]《とぶら》ふ 心有らん 後の世迄の
架け橋と 成りても君を 守りてん かゝる憂き身を
人知れず 訪《とぶら》ハじとハ 小野ゝ山 また立つ否《いな》や
色に出でゝ また例《ためし》無き 類《たぐひ》をも 思ひ出でよの
心にて ただ書き遊《すさ》む 水茎[※「手紙の文」のこと。続く「山川」「谷水」を導いている]の 岩根を出る
山川の 谷水よりも 所狭《ところせ》き 袂《たもと》の露を 君ハ知らじな
[短歌1] 色に出て 言はぬ思いの 哀れをも 此の言葉に 思ひ知らなん
[短歌2] 濁り無き世に 君を守らん
斯様《かよう》に歌を書き、奥に二首の歌を付けて、
【予習の答え】
つかの間も さりかたかりし 我すみ家
【さっくり現代語訳】
「[玉水の長歌]このままずっと、住み慣れた土地を離れるつもりなど、全くありませんでした。
しかし、姫君を一目見てから、気持ちがザワザワして、すっかりハートが奪われて上の空になり、他のことが何も考えられなくなりました。
このまま生きていたって、どーってことないケダモノの身なので、はるか筑紫(つくし)[※現在の九州地方]まで行く船を漕ぐように、ひたすら姫君のためにこの身を尽くすことにしたのです。
しかし、それでも、私の心は晴れやらず、波にプカプカ浮かぶ蜘蛛(くも)の糸よりも、弱々しい心持ちになるのでした。
姫君に仕えて、指折り数えて過ごした月日は、まるで夢のようでした。
しかし、このケダモノの身はどうしようもありません。
私は思いを遂げる事ができないのを、長い間勝手に無念に思い続けたのですが、それは姫君には何の責任もないことです。
「朝晩、姫君を見る事が出来るだけでも、身に余る光栄だ」と自分自身を慰めるしかありませんでした。
夢だか現実だかわからないフワフワした気持ちで、「姫君のお姿はいつまでも美しいままに違いない」と思いながら夜を明かし、月日を過ごしました。
気分転換に、潮干狩りをして貝でも拾おうかと、明石[※現在の兵庫県明石市]の浦に出かけてみると、漁師が藻塩を焼いていました。
夕暮れの空に煙が漂う方角は、私がかつて住んでいた辺りではないかと懐かしく思います。
ずぶ濡れになりながら島伝いに海藻を取る漁師の子供のように、涙で乾く間もないほど濡れている私の袖の上を風が通り過ぎますが、乾かすことができません。
袖が風になびく様子も目に入らず、自分が身の程知らずだと思い知り、やはりこのまま過ごしても意味がないと思い、この手紙を思いにまかせて書いています。
どうか、この手紙だけでもお側に置いて、私が長い間姫君を慕っていたことを、記憶の片隅にでも留めていてください。
姫君がピンチの時はいつでも助けに参るつもりでいます。
姫君が無事にあの世に行けるように、私は三途の川にかかる橋となってでも、ずっと姫君を守ります。
こんなケダモノの私を姫君がこっそり小野山[※音無(おとなし)の滝で有名な京都の山]辺りまで捜しに来ることもないでしょう。
私もまた姫君に会いに行こうかと心が揺らぐ時がありますが、すぐに思いとどまります。
せめて「そういえば、私に恋したキツネが女房に化けたという、変なことがあったなあ」と、たまには思い出していただけたらと、ただ思うままにこの手紙に書き連ねました。
岩の根元からわき出た、谷を流れる山の川の水よりも狭い、着物の袂(たもと)を流れる私の涙を、姫君は知らないでしょうね。
[短歌1]面と向かっては言えなかった恋心の哀れさを、姫君はこの手紙の言葉で知ってくれるでしょう。
[短歌2]素晴らしいこの世に生きている限り、私はずっと姫君を守り続けます。」
玉水はこのように長歌を書き、最後に二首の短歌を付けて、
【解説】
長歌の部分、途中で切るるとワケワカメになるので、三ページ分一挙掲載です!
長歌は五七五七五七を何回も続けて、最後は五七五七七で締める歌の形式です。
短歌は五七五七七です。
この玉水の歌、特に最後の辺りは誤字や脱字や誤写があるようで、直訳するとイミフな箇所が多々見られますが、例の如く想像力を膨らませて、何とか意味の通じるように訳しました。
しかし、二首目の短歌は上の方の句が完全に欠落しているので、さすがに私の想像力でもカバーできませんでしたので、あしからず。
歌には玉水の姫君への秘めた思いが延々と詠まれています。
はい、同じような内容の繰り返しで、結構、ねちっこいですよね(笑)
次回で最終回です。
箱の謎も分かります。
次回の予習
最後のページです。。。
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薄い本、描き描き♪
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