鬼娘と舟遊び　～『桃太郎一代記』その1７～ - うきよのおはなし～江戸文学が崩し字と共に楽しく読めるブログ～

【要約】

桃太郎は江戸から来た鬼娘と言う芸者を舟に呼んで遊びました。
鬼娘は三味線を弾いて歌い、客の鬼は「鬼ヶ島の芸者よりずっといい」と喜びます。

f:id:KihiminHamame:20191113151032j:plain

北尾政美（きたおまさよし）画『桃太郎一代記』天明元［一七八一］年刊
桃太郎一代記 5巻 - 国立国会図書館デジタルコレクション
※この記事では、国会図書館デジタルコレクションの画像を適宜加工して使用しています。

【翻刻】【補足表記】【現代語訳】

もゝ太良舟ゆさんにいて◆江戸からおにむすめと◆いふけいしやきたりしよし◆きゝてふねへつれゆく
桃太良、舟遊山《ふなゆさん》に出で、江戸から鬼娘と言ふ芸者来たりし由聞ゝて、舟へ連れ行く。
桃太郎は舟遊びに出かけました。江戸から鬼娘と言う芸者が鬼ヶ島に来ているの聞き、舟に呼びました。

おにむすめ三みセん
鬼娘三味線。
鬼娘は三味線を弾いて歌います。

いわすかたらぬわかこゝろミたれ◆しかミのミたるゝもつれないハ◆たゝうつりきのとうてもおとこハ◆あくしやうもの　ツゝテン／＼
「『言わず語らず我が心、乱れし髪の乱るゝも、つれないハたゞ移り気の、どうでも男ハ悪性者《あくしやうもの》、ツゝ、テン／＼』［長唄「京鹿子娘道成寺」の一節］」
鬼娘『［歌］言葉に出しては言いませんが、私の心が髪とともに乱れているのに、あなたが思いやりがない態度をするのは、男というのは誰でも浮気性などうしようもない者だからですわね。ツツ、テンテン［三味線の音］』

わつちハりやうこくてけいしや◆しうかうたいなんすに◆よつてよくおほへ◆やした
「わつちハ両国にて芸者衆が歌いなんすによつて良く覚えやした」
鬼娘「私は両国で芸者衆が歌っておられたのを聞いて、この歌をしっかり覚えたのでございます」

一はいのミかけやま◆とでたい
「『一拝（いっぱい）の御影山と出たい』［？］［解説参照］」
鬼娘『［歌］一杯飲んでから御影山にお参りに行きたいものだ』［？］

おらかわかいときセつ◆ぶんにおとしこしだと◆いつてこのうたをよ◆くうたつたをき◆いたがしかしおらをバ◆そとへおいたしてから◆じやによつておほへない
「おらが若い時、節分にお年越しだと言つて、この歌を良く歌つたを聞いたが、しかし、おらをバ外へ追い出してからじやによって、覚え無い」
鬼娘「私が若い時、節分も暦の境目なので「お年越し」だと言って、この歌をよく歌ったと聞きます。でも、「鬼は外～」って鬼の私を外に追い出してから歌ったらしいので、私は聞いた覚えがないのです」

やんや／＼◆たんばハみやこぢかくじやからしまのけいしやよりかくへつだ
「やんや／＼。丹波ハ都近くじやから、島の芸者より格別だ」
客の鬼「いいぞ、いいぞ、都に近い丹波出身の鬼娘さんは、鬼ヶ島の芸者よりずっと粋じゃ」

おそくなつた◆いそけ／＼
「遅くなった、急げ／＼」
船頭の鬼「遅くなってしまった、急げ、急げ！」

【解説】

　え？鬼が普通に江戸で芸者をしてるの？とお思いでしょうが、このお話の世界では、猿の娘が芸者をしているくらいですから、鬼の娘が芸者をしていても全くおかしくはありませんヾ(๑╹◡╹)ﾉ"

「一拝の御影山と出たい」って歌なのですが、前に爺のセリフでも出てきました。kihiminhamame.hatenablog.com

　当時、流行してた歌なのでしょうか？　おそらく、「一拝の御影山」と「一杯飲み掛け」を掛けた言葉遊びで、「一杯飲みたいなあ」ということを洒落て歌っているのでしょう。

　で、唐突に鬼の客が「丹波」という地名を言っているのですが、この歌で歌われている御影山は、丹波の国の一ノ宮である出雲神社の神体山なんです。
　つまり、「御影山」という地名が入った歌が歌われていた地域で生まれ育った鬼娘は、丹波の出身ということになります。
　赤井直正という武将のニックネームが「丹波の赤鬼」なのですが、何か関係するのでしょうか？

　ちなみに「鬼娘」というのは、元々、容姿が醜かったり、気性が荒い娘の事を言い、見世物小屋で死体を食う娘の名にも使われています。

　後ろを向いていて、鬼娘の顔は見えませんが、輪郭は確実に鬼ですね。
　桃太郎はそっぽを向いてつまらなそうです。

f:id:KihiminHamame:20191113211528j:plain

三つ目コーナー

うふ～ん、三つ目娘よ～ヾ(๑╹◡╹)ﾉ"

f:id:KihiminHamame:20191113211519j:plain

お前が女装しただけじゃねえか！ヾ(๑╹◡╹)ﾉ"

◆インフォメーション

井原西鶴の大著、『男色大鑑』の一般向けの現代語訳「歌舞伎若衆編」が発売されました♪

北見花芽の中の人もちょっと書いてるので、興味のある方も無い方も、下のアマゾンリンクから買ってくださると狂喜乱舞します♪
※　書店で買っても、北見花芽の中の人には直接お金が入らないので何卒。