桜川慈悲成作・歌川豊国画『変化物春遊(ばけものはるあそび)』(寛政五[1793]年刊)を、ちょこちょこ読んでいます♪
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国立国会図書館デジタルコレクション - 変化物春遊 : 2巻
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【翻刻】
わしづか八へい次と◆いへるろうにんありし◆
がそのこまいよおび◆ゆること三四たび◆
にしてよるねづ◆八へい次あまり◆
にじればけものに◆やるなんとておどし◆
いかにもくらきよ◆おもてのとをあけ◆
しやうべんやりて◆いたりけるにその◆
ことゝさまおまへ◆のざとふころし◆
たまいしよは◆こよいのやうに◆
くらかりし◆といへばはつ◆
へいじきもを◆つぶしそのこと◆
なにとてしり◆たるやときけば◆
くらやみに◆さもやせ◆
たるめくら◆たちてわが◆
おしへしと◆なん申ける
【補足表記】
わしづか八へい次[鷲塚八平次?]と言へる浪人有りしが、
その子、毎夜 怯《おび》ゆること三・四 度《たび》にして、夜寝ず。
八へい次、
「あまり躙《にじ》れば、獣[化物?]にやるなん」[?]
とて脅し、如何《いか》にも暗き夜《よ》、表の戸を開け、小便やりて居たりけるに、
その子、
「父様《とゝさま》、お前の座頭[盲人の最も低い位。または単に盲人のことを言う]殺し給いし夜《よ》は今宵の様《やう》に暗かりし」
と言えば、八へい次肝を潰し、
「そのこと何とて知りたるや」
と聞けば、
「暗闇にさも痩《や》せたる盲《めくら》立ちて、我が教へし」
となん申しける。
【ざっくり現代語訳】
わしづか八へい次という浪人がいました。
八へい次の子供は、近頃、毎晩、何度も怯えて寝ることができませんでした。
あるとても暗い夜に、八へい次は、
「そんなに怯えてばっかりいたら、お前を獣にでもあげちまうぞ!」
と冗談めかして脅かしながら、玄関の戸を開けて、子供にオシッコをさせていました。
すると、子供は、
「父様が盲人を殺しなさったのは、今日のように暗い夜だったのですね。」
と言うのです。
八へい次はビックリして、
「そのことをどうして知っているのだ!」
と聞くと、子供は、
「暗闇にとても痩せた盲人が立っていて、私にそのことを教えてくれたのです。」
と言ったのでした。
【解説】
現代の怪談でも似たような話ありますよね!
ただ、子供が盲人の生まれ変わりとかではないので、その分、怖さは和らいでいる気がします。
ここに登場するのは、妖怪というより幽霊ですが、この時代は幽霊も化け物の一種と考えられていたようで、鳥山石燕の『画図百鬼夜行』にも幽霊は描かれています。
ちなみに、「座頭殺し」はこの時代によく見られる題材です。
「座頭」は高利貸しを営んでいるものが多く、お金を持っていたので殺されてしまったんでしょうね。
芝居の『恋女房染分手綱[こいにょうぼうそめわけたづな]』に鷲塚八平次《わしづかやへいじ》という悪役が登場するのですが、関係はあるのでしょうか?
ちなみに『恋女房染分手綱』の鷲塚八平次は写楽の絵にもあります♪
東洲斎写楽画「谷村虎蔵の鷲塚八平次」
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国立国会図書館デジタルコレクション - 写楽
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