※下に現代語訳と解説がちゃんとあります。
井原西鶴『西鶴諸国はなし』貞享二(1685)年刊
西鶴諸国はなし : 大下馬. 巻5 - 国立国会図書館デジタルコレクション
※この記事では、国立国会図書館デジタルコレクションの画像を適宜改変して使用しております。
【翻刻】
中にも弓《ゆみ》の上手《しやうず》あつて。かり
またをひつくハへ。ねらひすましてはなちけれバ。彼《かの》
姥《うば》が細首《ほそくび》をおとしけるに。そのまゝ火を吹《ふき》出し。天に
あがりぬ。夜《よ》あけてよく/\見れバ。此 里《さと》の名立《なたち》姥也。
是を見て。ひとりもふびんといふ人なし。それよりも
よな/\出て。往《ゆき》来の人の。心玉《こゝろたま》をうしなハしける。かな
らず此 火《ひ》に。かたをこされて。三年といきのびし者《もの》ハ
なし。今五 里《り》三里の。野《の》に出けるが。一里を飛《とび》くる事
目ふる間《ま》もなし。ちかく寄《よる》時に。油《あぶら》さしといふと。たち
まちに消《きえ》る事おかし
【現代語表記】
中にも弓《ゆみ》の上手《じょうず》あって、雁股《かりまた》を引《ひ》っ銜《くわ》え、狙い澄まして放ちければ、彼《か》の姥《うば》が細首《ほそくび》を落としけるに、そのまま火《ひ》を吹きだし、天に上がりぬ。
夜《よ》明けて能《よ》く能く見れば、此の里の名立《なだち》姥也。
是を見て、一人も不憫《ふびん》と言う人無し。
それよりも夜《よ》な夜な出て、往《ゆ》き来の人の心玉《こころだま》を失わしける。
必ず此の火《ひ》に肩を越されて、三年と生き延びし者《もの》は無し。
今、五里《ごり》三里の野に出けるが、一里を飛び来る事、目振る間《ま》も無し。
近く寄る時に、「油差《あぶらさし》」と言うと、忽《たちま》ちに消《き》える事、可笑《おか》し。
【現代語訳】
そんな中にも弓の名人がいて、雁股《かりまた》をひっさげて、狙いすまして放ち、ヤマンバの細首を射落としました。
ヤマンバの首は口から火を吹きだして、そのまま天に上って行きました。
夜が明けてよくよく見てみると、ヤマンバではなく、この村の悪名高い老女でした。
これを見て、気の毒に思う者は一人もいませんでした。
それからも毎晩のように老女の首が現れて、往来の人の魂を失わせるのでした。
この火を吹く老女の首に追い越されて、三年以上生き延びた者はいません。
今、老女の首は、枚岡村の三里から五里の範囲の平地に出没しますが、一里[約4キロ]を飛んでくる早さは、瞬きする間もありません。
ただ、近くに寄ってきた時に「油差《あぶらさし》」と言うと、すぐさま消えてしまうのは、面白い事です。
【挿絵】
長刀《なぎなた》と刀を持った神主と、火を吹く老女の首。
【解説】
老女は、弓の名人の神主が射った雁股で首を落とされますが、首は死なずに火を吹いて、一般的には姥が火と呼ばれる妖怪になってしまいました。
雁股は、先が二股に別れた刃がついている矢です。
ちょっとかわいそうですが、十一人もの男を死に追いやった女性ですから、誰も気の毒だと思わないのも、致し方ないというか。
妖怪となって人々を苦しめるようになったのは、自分を虐《しいた》げた村人たちへの恨みでしょうねえ。
人間も長生きすると妖怪化するということでしょうか。
老女の首に追い越されたら三年以内に死ぬなんて恐ろしすぎますよねえ。
それを回避する方法が老女の首に向かって「油差」と言う事なのですが、なぜ「油差」と言うと老女の首が消えるのかが、このお話の研究ではずっと謎だとされています。
でも、普通に考えたら、謎でも何でもないんですよ。
油差は、油皿に油をそそぐための容器です。
タイトルにもある油壺[油を入れておく壺]と油差は同様の容器で、盗んだ油はそのまま手では持てないので、油差とかに入れなければなりません。
つまり、後ろめたい油盗みの事を指摘されて、老女は恥ずかしさのあまり消えてしまうのでしょう。
ただそれだけの単純なオチですヾ(๑╹◡╹)ノ"
盗み食いをしている三つ目に「皿と箸はあるか?」って言ったら、気まずくて逃げ出したくなるのと同じで、油を盗んだ老女に「油差はあるか?」とか言ったら、そりゃあバツが悪くて消えますよね。
恐ろしい老女の、わずかに残った人間味を感じさせる、西鶴の演出でしょう。
たとえは悪いけど、その通りだねヾ(๑╹◡╹)ノ"
でも、これだけはハッキリさせて欲しいんだ、僕がするのは盗み食いじゃなくて、拾い食いだから!
◆インフォメーション
現代語訳はありませんが、詳しい注が付いているので、古文を勉強されたい方には最適な一冊です。大学のテキストにも使用されています。
※北見花芽の中の人も少しだけ担当しています。
このお話の小説版も収録されています。
※北見花芽の中の人も別の話を担当しています。
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