それでは、もう一つだけ、ご質問にお答えしましょう。
id:kaze_no_katami さん
今はもう「老女の首」は出ないのでしょうか?😱
とりあえず、河内国枚岡の姥が火について書かれている資料を年代順に見て行きましょうか。
【目次】
- 【①『河内鑑名所記』(三田浄久作、延宝七[一六七九]年刊)巻五 】
- 【②『西鶴諸国はなし』(井原西鶴作、貞享二[一六八五]年刊)巻五の六「身を捨てて油壺」]
- 【③『和漢三才図会』(寺島良安編、正徳二[一七一二]年成立)巻七十五】
- 【④『和漢三才図会』(寺島良安編、正徳二[一七一二]年成立)巻五十八】
- 【⑤『諸国里人談』(菊岡米山作、寛保三 [一七四三]年刊)巻三】
- 【⑥『画図百鬼夜行』(鳥山石燕作、安永五[一七七六]年刊)】
【①『河内鑑名所記』(三田浄久作、延宝七[一六七九]年刊)巻五 】
『河内鑑名所記』(三田浄久作、延宝七[一六七九]年刊)巻五
※参考: 河内鑑名所記. 巻1-6 / 三田浄久 [著]
【原文】
〇姥が火、此の因縁を尋ぬるに、夜る/\平岡の明神の灯明の油を盗み侍る姥有りしに、明神の冥罰《めうばつ》にや当たるらし、彼《か》の姥亡くなりて後、山の腰を飛びありく光り物出で来て、折々人の目を驚《おどろ》かしけるに、彼の火炎《くわゑん》の体は、死しける姥が首よりして吹き出だせる火のごとく見え侍る故、彼の姥が妄執《もうしう》の火にやとて、則《すなわ》ち世俗《せぞく》に姥が火とこそ伝えけれ。
高安恩知《たかやすおんぢ》迄も飛び行き雨気《あまけ》などにハ今も出ると也。
【現代語訳】
姥《うば》が火の由来を調べると、毎夜、枚岡明神の灯明の油を盗む姥[老女]がいました。
明神の天罰が下ったのか、その姥が亡くなってから、山の麓《ふもと》あたりを飛び回る火の玉[光り物]が出て来くるようになって、時折、人々を驚かせるようになりました。
その火の玉の本体は、死んだ老婆の首が火を噴き出したように見えるので、例の老女の怨念《おんねん》の火だとして、姥が火と言われ伝えられています。
河内国《かわちのくに》高安郡《たかやすぐん》恩智村《おんぢむら》[大阪府八尾市]までも飛んで行き、雨が降りそうな時などには、今も出るそうです。
この記事が書かれた延宝七[一六七九]年時点では、姥が火は出ていたみたいですヾ(๑╹◡╹)ノ"
【②『西鶴諸国はなし』(井原西鶴作、貞享二[一六八五]年刊)巻五の六「身を捨てて油壺」]
その次が『西鶴諸国はなし』(井原西鶴作、貞享二[一六八五]年刊)巻五の六「身を捨てて油壺」です。
おそらく、西鶴は『河内鑑名所記』も参照したんでしょうが、姥の首が矢で落とされるとか、「油差」と言うと消えるとかは、西鶴の創作でしょう。
貞享二[一六八五]年の時点でも、姥が火の噂はあったと思われます。
【③『和漢三才図会』(寺島良安編、正徳二[一七一二]年成立)巻七十五】
『和漢三才図会』(寺島良安編、正徳二[一七一二]年成立)巻七十五
※この記事では、国立国会図書館デジタルコレクションの画像を適宜改変して使用しております。
和漢三才図会 : 105巻首1巻尾1巻. [57] - 国立国会図書館デジタルコレクション
【原文】
姥《うば》が火
雨の夜、尺 許《ばか》りの火の珠《たま》、徐《しづ》かに近郷を飛行す。
之《これ》に逢へば恐怖して、死に至る者少なからず。
俗に伝へて曰《いわ》く、昔、一人の姥有り。
平岡の社の神灯油を盗み、毎《つね》に私用を為《な》す者、死して後、燐火《おにび》と成りて爾《しか》りと。
△按《あん》ずるに、偶《たま》に姥が火に逢ふ者有りて、語りて曰く、彼の火飛ぶこと高さ丈余り、急に面前に来る。
驚きて覆《うつぶ》し倒《たを》れ、潜《ひそ》かに之を見れば、火、枕頭《まくらもと》に有り。
実は即《すなわ》ち鳥也。大きさ雌鶏《めんどり》の如し。
火、口より出づ。毎に嘴《くちばし》を叩く音あり。
遠く望《み》れば、則ち円《まる》く、其の速《はや》きことも亦《ま》た、飛鳥《とぶとり》の如し。
而《し》かも数百年来不時に出ること有りて、普《あまね》く謂《い》い伝ふる也。
然るに貞享の頃 以来《このかた》、絶えて出ずと。
抑《そも/\》何の鳥にして、而かも長命、亦た限り有りて死せるか。
唯《ただ》此の火のみならず、処処《ところどころ》に等類多し。
又五十八巻火の部に弁ず。
【現代語訳】
「姥《うば》が火」
雨夜に一尺[約30センチ]ぐらいの火の玉が、静かに近隣を飛び回ります。
この火の玉に出逢って、恐怖のあまり死んでしまう人も少なくありません。
世間で言い伝えられているのは、昔、一人の姥[老女]がいました。
姥は枚岡《ひらおか》神社の御灯明の油を盗み、いつも自分のために使っていました。
その姥が死後、火の玉[鬼火]になったとのことです。
△たまたま、姥が火に出逢った人がいて、その人が語ったことによりますと、
「姥が火は一丈[約三メートル]あまりの高さを飛んでいて、急に目の前に来ます。
驚いてうつ伏せに倒れて、こっそり見ると、姥が火は頭の辺りにいました。
その正体は鳥でした。大きさはメスのニワトリぐらいでした。
火は口から出ていました。常にクチバシを叩く音がしました。
遠く離れると丸く見え、飛行スピードはとても速かった。」
ということです。
なにしろ、姥が火は、数百年の間、不意に現れ続けたので、広く言い伝えられているのです。
ところが、貞享の頃から出なくなったそうです。
そもそも、何の鳥かはわかりませんが、とても長生きをしたのでしょう。
しかし、命には限りがあるので、死んでしまって出なくなったのでしょうか。
ただ、この姥が火だけではなく、各所でこの手の火の玉が現れる事は多いです。
このことは、巻五十八の火の部で述べているので、ご参照ください。
ここで重要な記述が出ましたヾ(๑╹◡╹)ノ"
姥が火は、貞享の頃から出なくなったというのですヾ(๑╹◡╹)ノ"
貞享と言うと、西鶴の「身を捨てて油壺」が書かれた時期です。
みんなが姥が火に向かって「油差」って言いまくったから、出なくなっちゃったんかなあ?ヾ(๑╹◡╹)ノ"
せっかくなんで、巻五十八の記述もちょっとだけ見ておきますね。
【④『和漢三才図会』(寺島良安編、正徳二[一七一二]年成立)巻五十八】
『和漢三才図会』(寺島良安編、正徳二[一七一二]年成立)巻五十八
和漢三才図会 : 105巻首1巻尾1巻. [39] - 国立国会図書館デジタルコレクション
【原文】
比叡山西の麓《ふもと》、毎夏月、闇夜 燐火《おにび》多く南北に飛ぶ。
人以て愛執の火と為す。
疑《うたご》ふらくは、此れ鵁鶄《ごゐさぎ》の火ならん。
七条 朱雀《すざく》の道元が火、河州平岡の媼《うば》が火等、古今人口に有り。
相伝ふ、是も亦《ま》た鳥也と。
然れども、未だ何の鳥と云ふことを知らざる也。
【現代語訳】
比叡山の西の麓《ふもと》に、毎年夏の時期の闇夜、鬼火がたくさん南北に飛びます。
人々は「愛欲の執着が生んだ火」だと言っています。
恐らくこれはゴイサギが作り出す火でしょう。
七条 朱雀《すざく》の道元が火、河内国枚岡の姥が火など、今も昔も人の噂になっています。
伝えるところによりますと、これらの火の正体も鳥だそうです。
ただ、これらは、まだ何の鳥か分かりません。
比叡山の火の正体がゴイサギで、姥が火の正体は何の鳥かは分からないと言っているのを覚えておいてくださいね。
【⑤『諸国里人談』(菊岡米山作、寛保三 [一七四三]年刊)巻三】
『諸国里人談』(菊岡米山作、寛保三 [一七四三]年刊)巻三
諸國里人談 5巻. [3] - 国立国会図書館デジタルコレクション
【原文】
〇姥火《うばび》
河内国 平岡《ひらおか》に、雨夜に一尺ばかりの火の玉、近郷《きんがう》に飛行す。
相伝ふ、昔一人の姥《うば》あり。
平岡社の神灯《しんとう》の油を夜毎に盗《ぬす》む。
死《し》ゝて後、燐火《おにび》となると云々。
先《さい》つ頃、姥火《うばび》に逢ふ者あり。
かの火飛び来て、面前《めんぜん》に落つる。
俯《うつぶ》して倒《たを》れて、潜《ひそか》に見れば、鶏《にハとり》のごとくの鳥也。
嘴《はし》を叩く音あり。
忽《たちま》ちに去ル。
遠く見れば、円《まどか》なる火なり。
これ全く鵁鶄《ごひさぎ》なりと云う。
【現代語訳】
「姥火《うばび》」
河内国枚岡では、雨夜に一尺ぐらいの火の玉が、近隣を飛び回ります。
伝えるところによりますと、昔、一人の姥[老女]がいました。
姥は枚岡神社の御灯明の油を毎晩盗みました。
その姥が死後、火の玉[鬼火]になったと言います。
近頃、姥火に出逢った者がいます。
姥火が飛んできて、その者の目の前に落ちました。
その者はうつ伏せに倒れて、こっそり見ると、姥火はニワトリのような鳥でした。
クチバシを叩く音もして、すぐに飛び去りました。
しかし、遠く離れて見ると、丸い火の玉だったそうです。
聞くところによると、これは間違いなく、ゴイサギの仕業だということです。
『和漢三才図会』の記述をパク、いやほぼそのまま引用しているだけなので、この記事が書かれた寛保三 [一七四三]年時点に姥が火が出ているというわけではありませんヾ(๑╹◡╹)ノ"
しかも、『和漢三才図会』で比叡山の火の正体をゴイサギと言っているのを読み間違えて、姥が火の正体をゴイサギだとしてしまっています。
【⑥『画図百鬼夜行』(鳥山石燕作、安永五[一七七六]年刊)】
『画図百鬼夜行』(鳥山石燕作、安永五[一七七六]年刊)
※wikipediaの画像を表示しています。
最後はこのブログ常連の鳥山石燕の妖怪画ですヾ(๑╹◡╹)ノ"
石燕は古い資料を参考にして妖怪画を描いていたようなので、姥が火も先に記した『和漢三才図会』などの古書の記述を参考に描いたのでしょうヾ(๑╹◡╹)ノ"
この本が書かれた安永五[一七七六]年時点に姥が火が出ていたわけでないと思われます。
あ、ここに書かれている文字、くずし字の勉強にちょうどいいですねヾ(๑╹◡╹)ノ"
【ヒント】
「〇姥①火 河内国②ありといふ」
この二文字の変体仮名[①は「可」のくずし][②は「尓」のくずし]さえ覚えてしまえば楽勝ですヾ(๑╹◡╹)ノ"
というわけで、姥が火は現在は出ないみたいなんで、みなさん、安心して枚岡神社あたりにお出かけくださいませヾ(๑╹◡╹)ノ"
【正解】
「〇姥が火 河内国にありといふ」
※前回までまだご覧でない方は、こちらからどうぞヾ(๑╹◡╹)ノ"
◆インフォメーション
現代語訳はありませんが、詳しい注が付いているので、古文を勉強されたい方には最適な一冊です。大学のテキストにも使用されています。
※北見花芽の中の人も少しだけ担当しています。
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