［１１］もう少し采女の語りにお付き合いください　～『男色義理物語』～ - うきよのおはなし～江戸文学が崩し字と共に楽しく読めるブログ～

　【前回のあらすじ】

　采女は頼母への思いを、内蔵之助にウダウダと語り聞かせるのでした。

　【初めての方へ】

　原典の画像だけでなく、スクロールすると、ちゃんと活字の原文（可能な限り漢字に直し、送り仮名と振り仮名を補足しています）と現代語訳と解説がありますよヾ(๑╹◡╹)ﾉ"

　【スマホでご覧の方へ】

　諸事情により、ＰＣ版と同じデザインになっています。なるべくスマホでも読みやすいようにはしているのですが、もし、字が小さいと感じた場合は、スマホを横にして拡大すると読みやすいと思います。

　別館も更新しています、見てね！ヾ(๑╹◡╹)ﾉ"
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霞亭文庫 · 男色義理物語 · 東京大学学術資産等アーカイブズ共用サーバ
男色義理物語 : 4巻 - 国立国会図書館デジタルコレクション
※赤字の書入れ等は筆者。

【原文】【現代語訳】

（今、治）まれる御代《みよ》に、如何《いか》に我身の遣《や》る方《かた》無く、切《せつ》に悲しきとて、宿意《しゆくい》無き人を抱いて、淵《ふち》に臨《のぞ》む事や有る。
（今の平和に治）まっている世の中で、いかに私自身に思いを晴らす方法がなく、とても悲しいからといって、何の恨みもない人を抱いて、深い淵の前に立つわけにはいきません［私が思いを寄せることによって、あの人（頼母）を危険な目に遭《あ》わすわけにはいきません］。

　由《よし》有りとても、道に有らず。
　理由があったとしても、道に外れる正しくない行為です。

　仮令《たとひ》其の家の掟《おきて》を背《そむ》くも。君臣《くんしん》の礼に背けり。
　しかも、この家の掟《おきて》に背くことは、主従関係に背くことにもなります。
［平和な世の中であっても、主君のために命を懸けるべきであって、色恋沙汰で命を落とすようなことがあてはならないということ］

　我ハ斯《か》く、今日明日《けふあす》知らぬ風情《ふせい》なれバ、千々《ちゞ》の社《やしろ》の神も照覧《しやうらん》有れ。
　私はこのように今日とも明日ともしれぬ命なので、どうぞあらゆる社《やしろ》の神様も、包み隠すことのない私の全てをご覧ください。

　露の身を厭《いと》ふにハ有らず。
　この命をはかなく惜しんでいるわけではありません。

　縦《よし》や此の事、上へ漏《も》れ聞こえて、身を車裂《くるまざ》きとやらんに引き裂かれんも、おどろ／゛＼しき狼《おゝかミ》や野食《のゑ》に変はるゝとも、胸中《きやうちう》の涼しからん事は、蛍火《けいくわ》〈恵果〉達广大師《だるまだいし》にも劣るまじけれども、
　たとえ私があの人（頼母）に思いを寄せていることが、上に漏れ聞こえ、車裂きの刑に処せられ、この身が引き裂かれ、恐ろしい野生の狼などのエサにされたとしても、心の中は涼やかでいるのは確かで、この境地は恵果大師《けいかだいし》［空海の師］や達磨大師《だるまだいし》にも劣りはしないでしょう。

　彼《か》の木の道の工《たくみ》の打つ墨つ縄の、一筋に思ひ初めし人の上、悪《あ》しからん事を思ひ病ミ［思ひ止み？　思ひ悩み？］ぬるに、然《さ》りとても端無《はしたな》き人の諫《いさ》めにハ有らずや」
　あの大工［飛騨《ひだ》の匠《たくみ》］が打つ墨縄のように、一筋に思い始めたあの人（頼母）に、罪が及びはしないかと思い悩んでいるのに、あなた様（内蔵之助）の追求は、あまりにも情け容赦《ようしゃ》が無いではございませんか」
［「云《か》に云《かく》に　物は思はじ　飛騨人《ひだひと》の　打つ墨縄の　ただ一道《ひとみち》に」『万葉集』をふまえるか］

　と言葉に花を咲かせて、富楼那《ふるな》［釈迦の弟子］の弁舌《べんぜつ》を以《もつ》て語り解《ほど》き侍れバ、
　と、采女は言葉巧みに、スラスラとよどみなく、思いのままに語りました。

　内蔵之助《くらのすけ》もいと白《しら》けたる皃《かを》付きにて打ち聞ゝ、漸《やゝ》有つて、
　内蔵之助も、とても興ざめした顔つきで聞き、しばらくしてから、

「さてもさがなき御心当て、中々《なか／＼》愚かなる身の及ぶ所に有らざりけれど、
「それにしても、あなた様（采女）のスバラシイ御心中には驚くばかりで、愚かな私などは足元にも及びませんが、

　御身此の儘《まゝ》に虚《むな》しく絶へ入り給ふとも、世の中の波《なミ》〈習《なら》ひ〉として、悪事ハ必ず千里を駆くると（申す事侍れバ、やわか斯《か》ゝる事と人知らで有らんや。）
　あなた様（采女）がこのまま虚《むな》しくお亡くなりになったとしても、『悪い評判は、千里も離れているような場所にまで、必ず瞬《またた》く間に知れ渡る』と、世間ではよく（言いまして、あなた様（采女）の浮気心は必ず人に知られることになるでしょう。）

　【解説】

　本当はずっとしゃべりたくて仕方なかったのでしょう、采女は頼母に対する思いを一気にまくしたてます。

　采女と男色の契りを交わしている内蔵之助は、たまったもんじゃないのでしょう、ドッチラケのご様子です。

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　【次回予告を兼ねた　くずし字クイズ】

　内蔵之助さん、呆れて帰ってしまったようです。

　正解は一番最後ヾ(๑╹◡╹)ﾉ"

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　ねえねえ、恵果大師のことがさあ、オリジナルの『藻屑物語』では「恵果《けいか》」って字でちゃんと書かれてるのに、なんで『男色義理物語』では「蛍火《けいか》」って字に変えられてるの？

　うん、これは『男色義理物語』の作者のシャレだね。

「蛍火」ってのは、蛍の光の事だよ。

　関係ないけど、三つ目の頭も光ってるな。

　男色はよく蛍にたとえられるんだ。

　どういうこと？ヾ(๑╹◡╹)ﾉ"

　男色も蛍もお尻を使うからだよヾ(๑╹◡╹)ﾉ"

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