［１３］采女の歌にもうしばらくお付き合いください　～『男色義理物語』～ - うきよのおはなし～江戸文学が崩し字と共に楽しく読めるブログ～

　【巻一のあらすじ】

　三好采女は同僚の深見頼母（主君の唐橋侍従の寵愛を受けている）に恋して、志賀内蔵之助（采女の男色相手）は激オコぷんぷん丸なのです。

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霞亭文庫 · 男色義理物語 · 東京大学学術資産等アーカイブズ共用サーバ
男色義理物語 : 4巻 - 国立国会図書館デジタルコレクション
※赤字の書入れ等は筆者。

【原文】【現代語訳】

『男色義理物語』巻之二
『男色義理物語』巻二

「哥に寄する恋」
「歌に思いを寄せる恋」

　内蔵之助《くらのすけ》帰り、後《あと》に誰語り慰《なぐさ》む友も無く、
　内蔵之助が帰り、あとには語って慰《なぐさ》めてくれる友など誰もいません。

　春の嵐《あらし》に有らねども、打ち返し／＼寝《い》ねがてになるまでに、閨《ねや》漏る月を見て、
「春の新田を打ち返し（＝耕し）ながら、恋しいあの人のことを思います」という歌ではないけれど、頼母の事を思いながら、寝ることができないくらい、まぶしく寝室に差し込む月の光を、打ち返し（＝何度も）見て、

「惜しからぬ　命よ徒《あだ》に　永《なが》らへて　月の見るらん　影も恥づかし」
「命など惜しくないのに、無駄に生きながらえている私の姿を、月が光で照らして見ているかと思うと、恥ずかしくて」
　と、采女は詠みました。
［「何処方《いづかた》の　雲路に我も　迷ひなむ　月の見るらむ　事も恥づかし」『源氏物語』「須磨」を踏まえているか］

　逢いぬと夢に見けるに、風の妻戸《つまど》を訪るゝに、見果てざりければ、
　やっと寝る事が出来て、夢で頼母に会えたのですが、風が妻戸に当たる音で目が覚めて、最後まで夢を見ることができませんでした。
　なので、

「花だにも　散りがてにこそ　誘ふらめ　見果てぬ夢を　破る春風」
「花でさえも美しいうちに散るために、春風を誘って散ろうとするのに、私ときたら、散ることもできずに、無駄に生きながらえているばかりか、あの人（＝頼母）に会った夢が、春風のせいで最後まで見ることができなかったことに、ムカついていてしまっています」
　と、采女は詠みました。

　【解説】

「春の嵐《あらし》」は、『雨夜物語』では「春の朝《あした》」、『藻屑物語』では、「春の新田《あらた》」になっています。

『拾遺和歌集』の
「梓弓《あづさゆみ》　春の新田《あらた》を　打ち返し　思ひ止《や》みにし　人ぞ恋ひしき」
　を踏まえていると思われるので、「春の新田《あらた》」が正しいでしょう。

「春の朝《あした》」は「あらた」の「ら」を「し」と誤ったと思われます。
「春の嵐《あらし》」は「あらた」の「た」を「し」と誤ったと思われます。

　ちなみに、「春の新田《あらた》」（「春の嵐《あらし》」）は「有らねども」と韻を踏んでますね。

　

「逢いぬと夢に見けるに～破る春風」の部分は、『藻屑物語』では同様の文章なのですが、『雨夜物語』では、

　など読める其の方様に、小鼓の音の月に輝きて聞こゆ。
「あはや、その人の手跡なり」
　と思ふにも寒きまで憧《あくが》れて
「手に触るも　哀れ調べを　得てしがな　恋の乱れの　束ね緒にせん」

　と別の文章が書かれています。
　しかし、ほぼ同じ文章が『藻屑物語』と『男色義理物語』（巻1）では、この前の別の箇所ですでに書かれているので、何らかの事情で入れ違っちゃったんでしょうね。