えと、『男色比翼鳥』の途中ですが、同じ作品を読み続けてちょっと周りが見えなくなって来たので、気分転換に今日は横道にそれます(笑)
トビーさん( id:kapibara5168 )が、
「『東海道中膝栗毛』とか『江戸生艶気樺焼』みたいなおバカ男子の話が読みたいです♪」
とリクエストしてくださいました。
※他の方のリクエストにも何とかお応えしようとしていますので、しばしお待ちを!
『東海道中膝栗毛』と同じ十返舎一九作の『方言修行 金草鞋(むだしゅぎょう かねのわらじ)』という作品を以前、取り上げました。
以前取り上げたのは、関西の大道芸の「ちょろけん」が登場する史料的にも貴重なページです。
はい、もう一度、同じ所を取り上げてお茶を濁そうというわけです!(笑)
読み直しと言うか、再掲に近いです(笑)
前に読まれた方も、どうか、初めて読んだことにしてください!(笑)
『金草鞋』は、奥州[現在の東北地方]の狂歌師、鼻毛延高(はなげのびたか)と千久羅坊(ちくらぼう)を主人公とした道中記です。
当時は『東海道中膝栗毛』と同じくらい人気があった作品みたいですよ♪
なのに、何故か今ではスッカリ忘れ去られてしまった作品です。
ちなみに、登場人物の、「はなげのびたか」という名前の元になっている言葉は「鼻毛を伸ばす」で、「女に夢中になる」という意味です(笑)
「ちくら」は「ニセ」という意味で、「ニセ坊主」ってことですね(笑)
ね、おバカ男子っぽいでしょ?
『方言修行 金草鞋(むだしゅぎょう かねのわらじ)』三編(文化10[1813]年、喜多川月麿画)
※この記事では、国立国会図書館デジタルコレクションの画像を適宜改変して使用しております。
金草鞋. 3編 - 国立国会図書館デジタルコレクション
※画像はクリックすると拡大します。
【原文】
誓願寺
四条通寺町《しでうどをりてらまち》へ出で、誓願寺《せいぐわんじ》へ参詣する。
この御寺にも境内に噺《はなし》、物真似《ものまね》、揚弓《やうきう》、見世物《みせもの》など常に有りて、賑やかなる御寺なり。
狂 仮名書きの 本寺なればや 誰《た》が目にも さすが都と 読める尊さ
延高《のびたか》
「成程《あるほど》、はあ、京の着倒れたア、良く言ひ申した。
どの人《ふと》も/\衣装さあ良《ゑ》いのを着飾つて出やり申すが、銭さあ、沢山《よんこ》ハ使ひ申さぬ。
茶屋へでも寄り召さつた所《とこ》を見なさろ。
二三人ばかしも供さあ連れ申した人《ふと》が、茶のう一人《ふとり》で四五杯づゝも汲ん飲んで、茶代さあたつた五文か三文置き申すは、それから見ちやア、儂共《わしども》ハ、ちくと茶屋さあへ腰をかけ申しても、ついに茶代のう、突ん出したことが御座らない。
飲ミ逃げにし申す。
見《め》つかって、寄越せと言ひ召さると、そこで一文も突ん出し申すハ。」
千久羅《ちくら》
「京でハ下駄の歯が減るとつて、雨さあ降り出すと、革の靴を履いて歩き申すと言ふ事だが、それから見ちやア、儂の知恵は賢《ゑず》いもんだア。
下駄の歯の減らない様《やう》にと、赤金《あかゞね》を下駄の歯へ打ち付けて履き申すと、さつぱり減る気遣ひが御座らぬ。
その代はり、滑つて一足《ひとあし》も歩くことは出来申さぬ。」
「これハ奇妙頂礼、ぐるり[奇妙頂礼寺から?]秋葉様へ参ろうかい。」
「ちゃんちき/\。すっちゃん/\。」
「アレ見さんせ。踊りおるわいな。」
「此方《こち》や、嫌々《いや/\》、怖いわいのう。
たゞ踊り居れば良いに、銭を呉れいと言ふさかい、それで儂や怖いわいのふ。」
「この勘定高い所にも、あんな戯《じや》らけた事をして遊んで歩く人《ふと》が在る。」
【さっくり現代語訳 & 解説】
誓願寺
延高と千久羅坊は、四条通寺町[京都]に出て、誓願寺にお参りしました。
このお寺の境内では、落語・モノマネ・的当て・見世物などがいつも開催されいて賑やかです。
▲誓願寺は、落語の祖とも言われる安楽庵策伝《あんらくあんさくでん》が住職だった寺だったので、芸能が盛んだったのもうなずけます。
狂歌
「誓願寺は、仮名書きの本山だけあって、読みやすい仮名のように、誰が見ても「さすが都の寺だ」と一目で分かる立派さなのは、ありがたいことです。」
▲延高と千久羅坊は狂歌師という設定なので、狂歌が挿入されます。
狂歌とは、くだけた内容の短歌です。
はい、短歌は、五・七・五・七・七で詠む歌です。
ちなみに、俳句は、五・七・五ですね♪
「真名[まな、漢字]」が男文字と言われたのに対し、「仮名[ひらがな]」は女文字と言われていたので、「仮名書きの本寺」は、誓願寺が「女人往生の寺」と言われていることを指していると思われます。
当時の公文書で使われていた真名書き[漢字]より仮名書きの文章の方が、当然、女性や子供でも読みやすいものでした。
誓願寺は、仮名書きの文学を残した清少納言・和泉式部ゆかりの寺でもあります。
延高《のびたか》
「「京の着倒れ」とはよく言ったもんだ。
みんな良い服を着て出かけるけど、金はあまり使わない。
お供を二、三人連れているような金持ちでさえ、茶屋に寄って一人で四、五杯も飲むくせに、代金は五文か三文しか置いて行かない。
だが、ワシらは茶屋へ寄っても代金を払ったことがない。
飲み逃げするというわけだ。
見つかって「お代を払え」と言われたなら、そこでやっと一文だけ突き出すがな。」
▲「京の着倒れ」は「大坂の食い倒れ」に対して使われるみたいです。
延高は、京の人よりもケチだと自慢するわけですが、食い逃げは犯罪ですから!(笑)
千久羅《ちくら》
「京では下駄の歯が減ると言って、雨が降り出すと革の靴を履いて歩くというのだが、ワシの方がずっと良い知恵を持っておる。
銅を下駄の歯に打ち付けて履くと、全く下駄の歯が減る心配がないではないか。
その代わり、滑って一歩も歩けないがな。」
▲延高に続いて京の人のケチより自分の方が上手だと自慢するのですが、結構、おバカさんです(笑)
延高
「これは、なんて奇妙頂礼[ヘンテコ]な芸[寺?]だ。
このままぐるっと一周して、一緒に秋葉様までお参りに行こうか。」
▲「奇妙頂礼」は、仏教用語の「帰命頂礼」をもじった言葉です。
どちらも、「きみょうちょうらい」と読みます。
一九の造語なのでしょうか、『奇妙頂礼胎錫杖』という作品も書いています。
また、『東海道中膝栗毛』でも「奇妙頂礼」という言葉が使われています。
延高はちょろけんを気に入ったのでしょうか、一緒に踊っちゃってます。
陽気というかこれまたおバカというか(笑)
「秋葉様」自体は各所にあるのですが、大本の秋葉山のことを指すとしたら、静岡の浜松なので、京都からだいぶ遠い所までのお参りになりますね(笑)
それにしても、なんで「秋葉様」が出てきたんでしょ?
「飽き《あき》るまで踊ろう」ってことですかね?(笑)
ちょろけん
「チャンチキ、チャンチキ。スッチャン、スッチャン。」
▲原文では「ちょろけん」という名称は出ていませんが、ちょろけんのセリフというか、ちょろけんが鳴らす鉦《かね、しょう》の音が書かれています。
子供
「あれを見てごらん、変なのが踊ってるよ。」
▲右側の指を差す女の子と思われる子供のセリフでしょう。
幼児
「こっちに来ちゃイヤ~っ!
怖いよ~っ!
ただ踊ってるだけならいいけど、「お金をちょうだい」って言うから、僕は怖いんだよお!」
▲男の子に背負われている幼児のセリフと思われます。
こんな幼児までお金を使いたがらないという、京の人のケチっぷりへの皮肉ですかね(笑)
※この辺りの文字がかすれている部分は、改題本『諸国道中 金の草鞋』を参照しました。
諸国道中金の草鞋. 3 - 国立国会図書館デジタルコレクション
千久羅
「こんなカネにケチケチしてる土地でも、あんなふざけたことをして、遊んで歩く人がいるんだなあ。」
▲ちょろけんさん、必死で金儲けしてるのに、ふざけて遊んで歩いてるなんて言われてます(笑)
京都の人もちょろけんも、思いっきりディスられてますね(笑)
結構、おもしろそうな作品なんですけど、いかんせん、文字が小さい上にクセがあるから、読みにくいったらありゃしません!
よく、当時の人はこんなのスラスラと読めたもんだなと。
他のページも追い追い読んでみたいと思いますので、トビーさん、今日の所は、この辺で勘弁してください(笑)
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