今回は、以前取り上げた『曽呂里物語』巻四の四「万の物年を経ては必ず化くる事」をちゃんと読み直していきます。
前回同様、『曽呂里物語』は、ここに載せれる画像が無かったので、オリジナルをご覧になりたい方は、下のリンク先でご確認くださいね。
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【翻刻】
四 萬の物年をへてハかならずばくる事
伊豫《いよ》の国いづしといふ所に山寺あり。郷里をへたつること
三里なり。かの寺さう/\のはじめ。にゐといふなにかし本
ぐハんとして年月をゝくりけるが。いつの頃よりか此寺に
ばけもの有て。住寺《ぢうじ》の僧をとりて行かたしらす。其後た
ひ/\住寺有けれ共いづれもいくほとなくとりをハりぬ。
今ハぬしなき寺になりしかハ。いかにもやふれてきりふ
たんの香をたき。とぼそおちてハ月じやうぢうのともし火
をかゝくるともいひつへし。かゝる所に関東よりあしかゞの
僧とてのぼり。にゐがもとに来り。かの寺の住寺をのぞミける
にゐかいひけるハ。此寺ハしか/\のしさい有て中々一時もかん
にんなるまじ。寺ハさいハひ無住《むぢう》の事なれハやすきほとの
事なれともといふ。されハこそのそミて参り候間ぜひ共
かの寺に行なんといふ。にゐさらにうけす成けれハ。をしてかの
ちに行てミれハまことに年久しく人のすまさりけれハ。
あれはてたるていけにもへんげのものも住らんとておほゆ。
かくて夜に入しハしあれハ門より物申さんといふ。扨ハにゐが
もとよりつかひをこしけるかと思ひたれハ。内よりいつく共
なくとれとこたふ。ゑんよう坊ハ御うちに御さ候か。こんかの
こねん。けんやのはとう。そんけいが三ぞく。ごんさんのきうぼ
くにて候御見まひ申すとて参りたり。ゑんよう坊出あひ
やう/\にもてなして後に御存のことく久しくなまさかな
たえてなかりつる所に。ふしぎなるもの一人いてきたり侍る。
御もてなしにをひてハふそくあらしといふ。客人もまこと
にめつらしき事有まひり候事。何よりもつての御もてな
しにてこそ候へ。夜とゝもに酒もりをいたし候ハんとけうに
入ぬ。
【原文】※漢字や送り仮名を補足した表記
「四 萬《よろず》の物、年を経《へ》てハ、必ず化くる事」
伊豫《いよ》の国 出石《いづ》と言ふ所に山寺有り。
郷里《きやうり》を隔《へだ》つる事、三里なり。
彼《か》の山寺、草創《さう/\》の始め、新居《にゐ》と言ふ何某《なにがし》、本願として年月を送りけるが、何時《いつ》の頃よりか、此の寺に化け物有りて、住寺《ぢうじ》の僧を捕りて行《ゆ》き方《がた》知らず。
其の後、度/゛\住寺有りけれども、何《いづ》れも幾程《いくほど》も無く捕り終ハりぬ。
今ハ主無き寺になりしかバば、「如何《いか》にも破れて、霧、不断《ふだん》の香を焚《た》き、枢《とぼそ》落ちてハ月常住の灯《ともしび》を掲《かゝ》ぐる」[『平家物語』巻12「大原御幸」より]とも言ひつべし。
斯《か》かる所に関東より足利《あしかゞ》の僧とて上《のぼ》り、新居が許《もと》に来たり、彼の寺の住寺を望ミけるに、新居が言ひけるハ、
「此の寺は然々《しか/゛\》の子細《しさい》有りて、中々 一時《いつとき》も堪忍《かんにん》なるまじ。
寺ハ幸《さいわ》ひ無住《むぢう》の事なれバ、易《やす》き程の事なれども。」
と言う。
「然《さ》ればこそ望ミて参り候間《さうらふあいだ》、是非共《ぜひとも》彼の寺に行きなん。」
と言ふ。
新居、更に受けず成りけれバ、押して彼の地に行きて見れバ、真《まこと》に年久しく人の住まざりけれバ、荒れ果てたる体《てい》、「実《げ》にも変化の物も住むらん」とて覚《おぼ》ゆ。
斯くて夜に入り、暫《しバ》し有れば、門より「物申さん」と言ふ。
「扨《さて》ハ新居が許《もと》より使ひ遣《おこ》しけるか」と思ひたれバ、内より何処《いづく》共無く、「どれ」と答ふ。
「ゑんよう坊ハ御内《おうち》に御座候《ござさうらふ》か。
こんかのかねん、けんやのばとう、そんけいが三ぞく、ごんざんのきうぼく にて候。
御見舞申す。」
とて参りたり。
ゑんよう坊出で会ひ、様々《やう/\》に持て成して後に、
「御存じの如《ごと》く、久しく生魚絶えて無かりつる所に、不思議なる者一人出で来たり侍《はべ》る。
御持て成しにおいてハ不足有らじ。」
と言ふ。
「客人も真に珍しき事有り。
参り候事、何より以《もつ》ての御持て成しにて候《さうら》へ。
夜と共に酒盛りを致し候《さうら》ハん。」
と興《けう》に入りぬ。
【現代語訳】
巻四の四「どんな物でも、長い年月が経《た》つと、必ず化け物になるという話」
伊予国《いよのくに》の出石《いずし》[愛媛県大洲市]という所に、山寺がありました。
村里からは約12キロ離れていました。
その山寺は新居《にい》氏という豪族の菩提寺《ぼだいじ》として創建され、長い年月が経《た》ったのですが、いつのころだか、この寺に化け物が現れ、住職の僧を捕まえて、住職の僧が行方不明になってしまいました。
それから何度も住職の僧が派遣されましたが、すぐに化け物に捕らえられて、いなくなってしまいました。
今はもう誰も住んでいない寺になってしまい、
「見事に寺の建物は壊れており、絶やさずに焚《た》いている仏前のお香の煙のように霧が立ち込め、扉が壊れているので、月の光が寺の中にずっと入ったままで、まるで常夜灯《じょうやとう》のようになっています」(『平家物語』の一節より)
と言った感じです。
こんな所に、足利《あしかが》学校[栃木県足利市]で学んだという僧が関東からやってきて、新居氏のもとを訪れました。
そして、この山寺の住職になることを希望しました。
新居氏が、
「この寺は、カクカクシカジカな理由があって、少しの間も我慢できるはずもなく、とてもとても、住むことなどできないだろう。
あなたにとっては都合のいいことに、この寺には今は誰も住んでいないから、住職にするのは簡単なのだが。。。」
と答えると、関東の僧は、
「それを承知の上で、望んでやって来たのです。
ぜひとも、その寺に行かせてください!」
と願いました。
新居氏はやはり、危険な目に遭《あ》う可能性が高いので、承諾できずに渋ったのですが、関東の僧は強引に山寺に行ってしまいました。
山寺を見てみると、確かに人が長い間住んでいなかったので、荒れ果てていました。
この有様を見て関東の僧は、「確かに化け物も住んでいそうだ」と思いました。
そうして関東の僧は山寺の中に入り、夜になってしばらくすると、門の方から「ごめんくさい」と言う声が聞こえました。
「さては、新居氏の所からお使いがいらっしゃったのかな?」と関東の僧が思った時、寺の中のどこからともなく、「は~い、どなた~?」という返事が聞こえました。
すると何者かは、
「えんよう坊はいらっしゃいますか?
こんかのかねん、けんやのばとう、そんけいが三ぞく、ごんざんのきゅうぼく でございます。
ごあいさつにやって参りました。」
と答えて入ってきました。
えんよう坊は出迎え、色々とお・も・て・な・しをしました。
それから、
「御存じのように、長い間生魚(というか生きた人間)が手に入らなくなっていましたが、今日はおかしな者[関東の僧のこと]が一人やって来ております。
あなた方へのお・も・て・な・しに持って来いではありませんか。」
と言いました。
そして、えんよう坊は関東の僧に向かい、
「客人[関東の僧のこと]よ、今からたいへん素晴らしい事が始まります。
あなたがやって来たことが、何よりのお・も・て・な・しになるのです。
さあ、夜とともに酒盛りをいたしましょう♪」
と言って、ご機嫌な様子です。
※えんよう坊は、化け物仲間をお・も・て・な・しするために、関東の僧を酒の肴《さかな》として食おうとしている。
【挿絵】(模写)
※挿絵には、
「いよの国いづしといふ所ニての事」
(伊予の国出石と言う所にての事)
と書かれています。
【解説】
このお話はちょっと長いので今回は前半部分です。
はたして、関東の僧はこのまま化け物に食べられてしまうのでしょうか?
みなさんは、化け物の正体が分かりましたか?
超難解なので、私は分かりませんでした(笑)ヾ(๑╹◡╹)ノ"
当時の読者は分かったのかしらん?
一応、挿絵がヒントになっていますのでヾ(๑╹◡╹)ノ"
※こちらの本の付録のCD-ROMに、『曽呂里物語』を含む、江戸時代の怪異小説の挿絵解説が収録されています。
北見花芽の中の人も書いていますヾ(๑╹◡╹)ノ"
三つ目コーナー
ねえ、ねえ、僕の正体、知ってる?
ハゲタカ? 電球? ヤカン?ヾ(๑╹◡╹)ノ"
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