※下に現代語訳と解説があります。
武家義理物語 6巻. [1] - 国立国会図書館デジタルコレクション
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【原文】
十兵衛、今に妻《つま》の無き事を見及び、息女《そくじよ》持《も》ちたる人、乞聟《こひむこ》の望ミ、彼是《かれこれ》内證《ないしやう》を言ひ入れけるに、妻は近江《あふミ》の國《くに》沢山《さハやま》、何がしに美《び》なる娘《むすめ》の兄弟《きやうだい》有りて、何《いず》れか花紅葉《はなもミぢ》、色《いろ》比べの優れて、姉の見良げなれば、十一の年より言ひ交して、身躰《しんだい》極《きハ》まりて是《これ》を迎へる約束。
其《そ》れよりハ七年《ななとせ》余りも過《す》ぎぬれば、世の哀《あハ》れ、人の情《なさ》けも知るべき程《ほど》也。
近々《ちか/゛\》呼び迎へんと妻女《さいぢよ》の親《をや》の元へ状通《じやうつう》致せしに、世にハ移《うつ》り替《かハ》れる歎《なげ》き有り。
兄弟《きやうだい》の娘、一度《いちど》に疱瘡《はうそう》の山を上げしに、美《び》なる姿《すがた》の姉娘《あねむすめ》、皃《かほ》卑《いや》し気に、然《さ》りとハ昔と替《か》ハりぬ。
妹娘《いもとむすめ》ハ、已前《いゼん》に少しも替ハらず、面影《をもかげ》美しく育ちぬ。
「十兵衛に約束《やくそく》せし姉《あね》が形《かたち》の各別《かくべつ》になれば、是《これ》を人中に送りて、醜《ミにく》き形《かたち》を恥《は》ぢさせ、我《われ》が娘《むすめ》と沙汰《さた》せらるゝも由無し」
と、夫婦《ふうふ》内談《ないだん》して、
「未《いま》だ妹《いもと》ハ何方《いづかた》へも契約《けいやく》無けれバ、何となく是《これ》を遣ハし申すべし」
と、此の事を語《かた》れば、
【現代語訳】
十兵衛にはまだ妻がいないことを見知った人が、娘がいて婿《むこ》を探している夫婦に、あれこれと内々に、十兵衛を婿にどうかと持ち掛けました。
すると、十兵衛の妻として、近江国《おうみのくに》沢山[佐和山][滋賀県彦根市]のある夫婦の、美しい姉妹が候補にあがりました。
どちらが桜か紅葉かと、比べてもどちらが優れているか迷うほどの美しい姉妹でしたが、姉娘の方が十兵衛の好みだったので、姉娘が十一歳の時に、それなりの時期が来たら十兵衛の嫁に迎える約束をしました。
それから七年余り過ぎ、姉娘も世の哀れや人の情けも分かるぐらいの年頃になりました。
十兵衛はそろそろ嫁に迎えようと、姉娘の親の所に書状を送りました。
しかし、世の中は移り変わるにつれて、嘆くことが起こるものです。
姉妹は同時に天然痘にかかり回復したのですが、美しかった姉娘は、顔に跡が残って醜くなり、なんとまあ昔とは変わり果てた姿になってしまいました。
妹娘は、天然痘の跡も残らず、前と少しも変わりなく、昔の面影を残したまま美しく育ちました。
「十兵衛殿に約束した姉娘の姿がひどく変わってしまったので、姉娘をこのまま世間に出すと、醜い顔で恥をさらすことになってしまい、それが私の娘だと噂になるのは何としても避けたい」
と夫婦は内々に話し合い、
「まだ妹娘は誰とも夫婦になる約束をしていないので、しれっと妹娘を十兵衛殿のもとに遣わしてしまいましょう」
と決め、まず姉娘にこのことを言いました。
【解説】
原文では、「姉」「妹」という言葉は使われているのに、「姉妹」という言葉は使われず、「娘の兄弟」「兄弟の娘」と言っているのが面白いですね。
諸説あるようですが、明智光秀の妻 煕子《ひろこ》は美濃[岐阜県]の妻木氏の娘とされています。
何故かここでは近江国沢山[佐和山]の何がしの娘とされていますが、佐和山城は光秀を討った豊臣方の石田三成の居城だったので、そのあたりが関連しているのでしょうか?
天然痘は今では根絶した伝染病ですが、重症だと顔にひどい跡が残り、あばたと言われました。
「あばたもえくぼ」ということわざはここから来ています。
ねえ、ねえ、北見花芽は僕と一つ目、どちらにするか決めた?
ねえ、ねえ、北見花芽は僕と三つ目、どちらにするか決めた?
どちらにも決めねえよ!
十兵衛[明智光秀]の妻となるはずだった姉娘が醜くなってしまったので、美しいままの妹娘を十兵衛の元に送ろうと決めた娘の両親ですが、はてさてどうなることやら、次回に続く!
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