※下に現代語訳と解説があります。
武家義理物語 6巻. [1] - 国立国会図書館デジタルコレクション
※この記事では国立国会図書館デジタルコレクションの画像を適宜加工して使用しております。
【原文】
更《さら》に身の事を歎《なげ》かず、
「自《みずか》ら此の姿《すがた》にて、十兵衛殿に見《まミ》ゆる事は、思ひもよらず。
まして、此の形《かたち》を堪忍《かんにん》すべき者《もの》有れバとて、外《ほか》に男《をとこ》を持《も》つべき心底《しんてい》に非《あら》ず。
妹《いもと》ハ我等《われら》が昔に風俗《ふうぞく》も変ハらず、万《よろず》に賢く、心ざしもしほらしく生《う》まれ付きぬれば、何國《いずく》に行《ゆ》きても二親《ふたをや》の御名《おな》は下さじ。
是《これ》を十兵衛殿へ送らせ給へ。
我等《われら》は兼《かね》て出家《しゅつけ》の願《ねが》ひ、諸佛《しよぶつ》を掛けて偽《いつワ》り無し」
と、手馴《てな》れし唐《から》の鏡《かゞみ》を打ち砕きて、浮世《うきよ》を捨《す》てる誓文《せいもん》を立《た》てしを聞《き》ゝて、父《ちゝ》も母《はゝ》も感涙《かんるい》袖《そで》に余りて、暫《しばら》く思案《しあん》せしが、
「角《かく》言ひ出して、帰《かへ》らぬ事ぞ。」
と、妹《いもと》に何《なに》の子細《しさい》も無く、亀山《かめやま》に送る縁付《ゑんづ》きの事を申し渡《わた》せバ、
「何とも合点《がつてん》参らず。
姉君《あねぎミ》より先立《さきだ》ちて、道《みち》の違《ちが》へる所也。
姉《あね》の御身片付きて後《のち》ハ兎《と》も角《かく》も」
と、申し上げける。
「尤《もっと》も至極《しごく》、其れハ世間《せけん》の順義《じゆんぎ》ながら、姉《あね》は常々《つね/゛\》 出家《しゅつけ》の心ざし深《ふか》く、思ひ込めし故、兎角《とかく》ハ望《のぞ》みに任せ、近々《ちか/゛\》に南都《なんと》の法花寺《ほつけじ》に遣ハしける。
其の方は龜山《かめやま》に送る也。
女に生まれても、其《そ》の身《み》の仕合《しや》わせ有り。
明智十兵衛《あけちじゆうべえ》と言へる人ハ、まず武芸《ぶげい》に優れて、殊更《ことさら》理《り》に暗からねバ、諸事《しよじ》に埒明《らちあ》けにして、一生《いつしやう》連れ添《そ》ふ夫妻《ふさい》の楽《たの》しミ深《ふか》く、しかも次第《しだい》に出世《しゆつせ》の侍《さぶらひ》なれば、我々《われ/\》老後《らうご》の頼りとも成りぬべき人ぞ」
と、様々《さま/゛\》言ひ聞《き》かせけるに、女心に嬉《うれ》しく、親達《をやたち》の仰《あふ》せに任せ、吉祥日《きつしやうにち》を選び、相應《そうをふ》よりハ美々敷《びゞしく》仕《し》立て、龜山《かめやま》に送られける。
【現代語訳】
姉娘は、自分の身の上の事を全く嘆かず、
「私自身、この醜い姿で、十兵衛殿にお目にかかる事は、考えてもいません。
ましてや、この醜い姿を我慢できる者がいるかもしれないなどとも思えず、ほかの男と結ばれる気持ちもありません。
妹は昔の私の姿と変わりなく、全てにおいて賢く、心の持ち方も慎み深く生まれ付いているので、どこの国に行っても、両親の評判を下げることはないでしょう。
妹を十兵衛殿の元へお送りくだされ。
私は以前から出家をすることを願っていました。
このことは、あらゆる仏に誓って嘘偽りはありません。」
と、使い慣れた中国の鏡を叩き割って、俗世間を捨てる誓いを立てました。
これを聞いて、父も母も感激して袖でも拭ききれないほど涙を流し、しばらく考えなおしましたが、
「一度このように言い出したからには、もう後には戻れない。」
と、妹娘に詳しい事は何も言わず、亀山の十兵衛の元に送る縁談のことを告げました。
妹娘は、
「どうしても納得ができません。
姉君より先に嫁入りすることは、世間一般の道理から外れた事になります。
姉君が嫁入りされた後ならば、受け入れる事はできるのですが。」
と言いましたが、
「確かにその通りです。
姉が妹より先に嫁入りするのが世間一般での正しい順番ですが、姉は常々出家する気持ちが大きく、深く心に決めていたので、ここはとにかく姉の望み通りにして、近々、奈良の法花寺に姉を行かせることになりました。
あなたは亀山に行かせます。
女に生まれながらも、女としての幸せはあります。
明智十兵衛という人は、まず武術に優れ、特に的確な判断が下せ、あらゆることを手際よくこなすので、一生連れ添う夫婦となったら、楽しいことが多いでしょう。
しかも、これからだんだん出世していく武士なので、我々の老後に必ず頼りともなる人なのです。」
と両親が色々と言い聞かせると、妹娘は女心がときめいて嬉しくなり、両親の言いつけに従い、日柄が良い時を選んで、身分相応よりも立派に仕立て、亀山に送られたのでした。
【解説】
醜くなった姉娘の代わりに妹娘を十兵衛[明智光秀]に送る件、自分の醜い姿をはかなんで出家を希望していた姉娘は二つ返事で承諾します。
妹娘は思いがけない話で不審を抱きながらも、姉娘の出家の意志と十兵衛の素晴らしさを聞かされ、最終的には前向きに承諾します。
はてさて、このままこの物語はすんなり終わるのでしょうか?
ちなみに、十兵衛は姉娘の代わりに妹娘が来ることは知りません。。。
次回、「妹がくる」お楽しみに!ヾ(๑╹◡╹)ノ"
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