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[2]両国も大賑わい ~『金草鞋』初編後編上巻~

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 鼻毛延高と千久羅坊の二人は、馬喰町の宿屋を出発し、両国にやってきました。

 

 

 

 


※この記事では国立国会図書館デジタルコレクションの画像を適宜改変して使用しています。
金草鞋 1編 - 国立国会図書館デジタルコレクション

諸国道中金の草鞋 1 - 国立国会図書館デジタルコレクション
※損傷個所は可能な限り修正しています。
※赤字の書き入れは筆者。


【原文】

 馬喰町筋を肴店《さかなだな》へ曲がり、両国の広小路に出れば、此処《こゝ》にも芝居、軽業《かるわざ》、物真似、様/゛\の見世物有りて、常に人足絶へず、繁昌の所なり。
 二人ハ群集《ぐんじゆ》を押し分け/\、両国橋の中程に立ち止まりて、

狂「やうやつと 真ん中程ゝ 思つたに やつぱり端《はし》だ、長い橋《はし》だァ」

延高
「此の両国さあでハ、でかい事、花火のう飛ぼす所《とこ》だと聞ゝ申したが、見へ申さない」
案内
「とんだ事を。
 昼日中《ひるひなか》、花火が何有る物か。
 そして、花火ハ夏の涼み時分の事さ」
千久羅
「アノ、向かふの川中さあで、大勢がありヤァ、何《あに》をするのだァ。
 喧《かしや》しい事《こん》だァ、もし」
案内「あれハ川垢離《せんごり》を取るのさ」
「ハア面白い物《もん》だァ。
 俺《うら》が村の池さあにも、鮒《ふな》や泥鰌《どじやう》はでかく居申すが、あんな物ハ居申さない。
 儂《わし》引つ捕まへて行つて、俺《うら》が背戸《せど》の池さあへ追つ放《ぱな》して置きてへもんで御座らァ」

猪牙船《ちよきぶね》
「コウ、船公《せんこう》、もつと急いでくんねへ。
 俺《おら》が得手吉《ゑてきち》[「イチモツ」と訳したが、この場面では「女」を指す言葉としても通じる]めが待ち退屈してゐるだろう。
 どふした事か、俺《おら》ァ何処《どけ》へ行つても持てるにヤァ、困り果てる。
 色男と言ふ者も煩《うる》せえもんだ。
 ホイ、これハしたり。
 吸殻を落つことした」
船頭
「ヲツト旦那、打つ棄《ち》やって置きなせへまし。
 御前《おめへ》さんの涎《よだれ》が煙管《きせる》の羅宇《らう》を伝わつてゐヤすから、其れが落つこちたら消へヤせう」

「橋の上を良《い》ゝ太右衛門《たへもん》が通る。
 此処《こゝ》へ落つこちねへか。
 もし水を飲んだら、俺《おい》らが心太《ところてん》を突き出す様《やう》に、口から水を突き出して遣ろうが、どふだ/\」

 


【現代語訳】

 馬喰町筋を肴店《さかなだな》へ曲がり、両国の広小路に出れば、ここにも芝居、軽業《かるわざ》、物真似など、様々な見世物があって、常に人足が絶えず、繁昌している所です。

 二人ハ群衆を押し分けて進み、両国橋の中程に立ち止まりて、狂歌を詠みました。

狂歌
「やっとのことで両国橋の真ん中ぐらいまで来たと思ったら、まだ端《はし》だ、長い橋《はし》だなあ」

延高 [橋の上にいるはずだが、どれがこの三人かは判別できない]
「この両国では、でっかい花火を打ち上げると聞いたのだが、どこにも見えませんぞ」
案内人
「とんでもない事を言う。
 真っ昼間に花火を打ち上げるもんか。
 そもそも、花火は夏の夕涼みの時分に打ち上げるのさ」
千久羅
「あの向こうの川の中に、たくさんの人がいるが、あれは何をしているんだ」
案内人
「あれは川垢離《せんごり》[川に入って清めること。両国橋の東詰には大山参りをする人の垢離場があった]をしているのさ」
千久羅
「はあ、面白いもんだなあ。
 オラの村の池にも、でっかいフナやドジョウはいるが、あんなものはいない。
 オラがひっ捕らえて、オラの家の裏の池へ放しておきたいもですなあ」

猪牙船《ちょきぶね》の客 [中央下]
「おい、船頭、もっと急いでくれ。
 オラのイチモツが待ちくたびれてるだろうが。
 どういうわけか、オラはどこへ行ってもモテるから、困っちまう。
 色男というのも、わずらわしいもんだ。
 ありゃ、やっちまった。
 タバコの吸い殻を落っことした」
猪牙船の船頭
「おっと旦那、そのままほかっておきなせえ。
 お前さんのヨダレがキセルのラウキセルの火皿と吸口をつなぐ竹菅]を伝ってやすから、それが落っこちたら消えるでしょう」

[船の船頭か客のセリフだが、どの人物のセリフかは不明]
「橋の上を良い女が通ってる。
 ここに落っこちてこねえかなあ。
 もし落っこちたら、トコロテンを突き出すように、オイラが腹を押して、口から水を突き出してやるが、どうだ」

 


【解説】

「得手吉」や「太右衛門」といった隠語が使われているのが面白いですね。

 延高と千久羅坊は。またくだらなことを言っていますが、スルーしましょう。
 案内人も呆れてますので。(笑)

 猪牙船の客は女に会いに向かっているようで、色男でモテて困ると言いながら、早くイチモツを使いたくて仕方ないみたいです。
 工口いことを考えて、火が消せるくらいヨダレが出てるくらいですし。

 良い女が落っこちてきたら、好きなようにしたい人もいるようですが、あの高さから落っこちたら、水を飲むどころか、命が危ういと思われ。

 左下には「大阪下り」云々と書かれた、見世物小屋の幟《のぼり》が見えます。


【江戸切絵図】

 肴店《さかなだな》の場所が分からなかったのですが、だいたいこういうルートで両国橋に行ったようです。


〔江戸切絵図〕 日本橋北神田浜町絵図 - 国立国会図書館デジタルコレクション


 二人が泊まっている宿屋の場所は馬喰町二丁目です。
kihiminhamame.hatenablog.com



 追記【江戸名所図会】

 両国橋の花火を描いた図ですが、


江戸名所図会 7巻 [2] - 国立国会図書館デジタルコレクション


 ちゃんと川垢離をする人々も描かれています。



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 花火が見たいなあヾ(๑╹◡╹)ノ"

 ほいヾ(๑╹◡╹)ノ"


 それは花火じゃなくて鼻ビーム!ヾ(๑╹◡╹)ノ"

 


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