妖怪雪濃段 2巻 - 国立国会図書館デジタルコレクション
※この記事では、国会図書館デジタルコレクションの画像を適宜加工して使用しています。
【原文】
見越大坊主、すご/\帰らんとする折節、宿の亭主三つ眼《まなこ》帰り、宿を貸しける故、喜ぶ。
「恐らく、我に怖《お》じる物ハ無い。
しかし、坂田金平《さかたのきんぴら》にハ、愚僧《ぐそう》も草臥《くたび》れ申した」
「この上ハ、互いに心を合はせ、坂田が魂を奪ひ申さん。
あれ/\、東に当たって、赤く鋭《するど》なる雲気《うんき》立ちしハ、武勇優れし者、此の山へ徘徊《はいくわい》すると覚へたり」
「いざ、貴僧の化け様《やう》の秘密、承ハらん」
女房、雪女。
【現代語訳】
雪女に宿泊を断られ、すごすごと帰ろうとした、ちょうどその時、家の亭主の三つ眼《まなこ》が帰って来て、宿を貸してくれたので、見越大坊主は喜びました。
見越大坊主
「おそらく、ワシには怖い物などない。
だが、坂田金平《さかたのきんぴら》だけには、ワシもヨレヨレにされてしもうた」
三つ眼
「こうなったからには、お互いに心を合わせて、坂田金平の魂を奪おうではないか。
おやおや、東の方で赤く鋭い雲気《うんき》が立ち上っているのは、武術に優れ勇気がある者[坂田金平]が、この山でうろちょろしているからだと思われる。
さあ、見越大坊主殿の人を驚かす奥義《おうぎ》を、披露していただこう」
三つ眼の女房、雪女。
【解説】
坂田金平《さかたのきんぴら》は、金太郎こと坂田金時《さかたのきんとき》の息子で、この時代はメジャーなキャラクターでした。
父の金時とともに、化け物の天敵とされていました。
ちなみに、「きんぴらごぼう」という名は、この坂田金平から付けられました。
見越大坊主と三つ眼が共闘して、金平をやっつける事になったようですが、はたして。
どうやら、この信濃の山に金平は来ているようですし。
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