玉水物語 2巻 | 京都大学貴重資料デジタルアーカイブ
※この記事では、京都大学貴重資料デジタルアーカイブの画像を、適宜改変して使用しています。
【原文】
扨《さて》、御内参りに紛れに車に乗る由にて、何方《いづち》ともなく失せにけり。
殿にハ「内に御供なり」と思す。
内にハ「心地悪しと常に言ひしかば、里に留まりぬらん」と人々は思ふ。
姫君も歎かしく「如何《いか》に成りつるぞ」と心許のふ思し召し、二・三日過ぎて、何方へも無し由聞こへければ、親の方、爰《ここ》かしこ尋ねさせ給へども、行方も知らず。
五日・十日の程は「さり共、聞ゝ出《いで》ん。余所《よそ》よりや帰り来ん」と待ち給へども、見えねば、「何処《いづく》に失せぬるぞ。人の隠したるか」と覚し給ひければ、御悦《およろこ》びに御心の内の御歎きぞ増させける。
諸卿の女房達、打ち託《かこ》ち歎き合ひけり。
何事につけても、「此の人の有らましかバ」と思しける。
宰相殿は中納言にぞ成り給ひける。
玉水の事常に名高くいミじき事もあれば、「如何に成りぬる事ぞ」と歎き給ふ。
姫君ハ此の箱の中 床《ゆか》しく思さるれども、御門[帝]の御座《おハ》します事絶へず、暇無くて明かし暮らし給ふに、有る時、官の廰[庁]《てう》へ御幸《みゆき》有り。
良き暇とて覚しめし、忍びて開けて御覧ずれバ、始めより終ハりの事を書き付けたり。
「こハ如何に成る事ぞ」と御胸《おむね》内騒《うちさハ》ぎ、恐ろしくも哀れにも覚し
【予習の答え】
扨御内参りのまきれに車にのるよしにていつち
ともなくうせにけり
【さっくり現代語訳】
さて、玉水は姫君の参内《さんだい》のどさくさに紛れて、牛車に乗るように見せかけて、どこへともなく消え失せてしまいました。
当然、高柳様のお屋敷では、
「玉水さんは姫君と一緒に宮中に行かれたのだろう」
と思っていました。
宮中では、
「玉水さんはずっと体調が悪いとおっしゃってたので、まだ高柳様のお屋敷にいらっしゃるのでしょう」
と、みんな思っていました。
姫君も玉水の姿が見えないのでお嘆きになり、
「どうなさったのでしょう?」
と不安にお思いになりました。
二・三日が過ぎて、玉水がお屋敷にも宮中にもいないことが分かったので、玉水の養母の家など、あちらこちら捜したのですが、行方不明でした。
五日から十日の間あたりは、
「そうは言っても、居場所はそのうち分かるでしょう。どこかからふらっと帰ってくるでしょう」
と姫君はまだ余裕を持って待っていましたが、いつまでたっても玉水は姿を見せないので、
「どこに行ってしまったのでしょう?
誰かに誘拐でもされてしまったのでしょうか?」
とお思いになり、参内が叶ったことはお喜びになっているものの、お心の中の嘆きは増すばかりなのでした。
他の女房達も、あらゆるシチュエーションで、
「玉水さんがいらっしゃったらすぐに解決するのに」
と口々に玉水の不在を嘆き合うのでした。
高柳の宰相《さいしょう》様は中納言におなりになりました。
高柳様も玉水の名声がとても高いことをご存じなので、
「どうなってしまったのだ」
とお嘆きになるのでした。
姫君は例の箱の中が気になってしかたないのですが、帝がずっと一緒にいらっしゃるので、箱を開けるチャンスがないまま、月日が過ぎていくのでした。
ある時、帝が太政官《だじょうかん》の役所にお出かけになるご用事がありました。
姫君は、
「ナウ・ゲッタ・チャンス!」
とお思いになり、こっそり「ニン!」と箱を開けて中の手紙をご覧になりました。
そこには、キツネの玉水が姫君に一目惚れして女房に化けた、一部始終が全て書き付けられていました。
姫君は、
「マ、マ、マジかよ。。。」
と心の中がザワザワなさって、恐ろしくお思いになりながらも、玉水の事が哀れにもお思いに
【解説】
細かいことですが、本文中に「御内参り」などとあるので、「参内」と訳していますが、意味合い的には「入内《じゅだい》」の方が良いかもですね。
要は姫君は帝の妻になったわけです。
まあ、帝に妻が何人いるか知りませんが、高柳様も中納言に昇進して、めでたしめでたしというわけです。
宰相[参議の別名]は、太政官の役職で、上から、太政大臣・左大臣・右大臣・大納言・中納言・参議[宰相]というランクがあり、高柳様は一階級昇進ということですかね。
天皇の妻には、上から、皇后・中宮・女御《にょうご》・更衣《こうい》[※ちなみに光源氏の母親は桐壺更衣]ってランクがあったみたいですが、姫君だと女御あたりですかね。
スマホとかも無くて連絡網も発達していない時代ですから、玉水がいなくなったことが判明するまで、やはり数日はかかってしまうのですね。
この手の神隠しも、日常茶飯事だったのかもしれません。
さて、姫君はついに箱の中の手紙を読んで、玉水の正体を知ってしまいました。
物語の終焉《しゅうえん》まであとわずかです。
次回の予習
玉水の手紙にはまだ続きがあるようです。
三つ目コーナー
何、描いてるの?
薄い本。
◆インフォメーション
井原西鶴の大著、『男色大鑑』の一般向けの現代語訳が発売されました♪
北見花芽の中の人もちょっと書いてるので、興味のある方も無い方も、下のアマゾンリンクから、お買い求めくださると狂喜乱舞します♪
※ 書店で買っても、北見花芽の中の人には直接お金が入らないので何卒。
- 作者: 染谷智幸,畑中千晶,佐藤智子,杉本紀子,濵口順一,浜田泰彦,早川由美,松村美奈,あんどうれい,大竹直子,九州男児,こふで,紗久楽さわ
- 出版社/メーカー: 文学通信
- 発売日: 2018/12/10
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
『男色を描く』も合わせてお読みいただけるとより楽しめると思いますよ♪
※ こちらも北見花芽の中の人がちょっと書いていますので。
◆北見花芽のほしい物リストです♪ ご支援よろしくお願いします♪
◆北見花芽 こと きひみハマめ のホームページ♪
◆はてなIDをお持ちでない方も、拍手で応援していただけたら嬉しいです♪
(コメントもできます)
◆ランキング参加してます♪ ポチしてね♪
◆よろしければ はてなブックマーク もお願いします♪ バズりたいです!w