『義公黄門仁徳録《ぎこうこうもんじんとくろく》』[江戸中後期成立か。呑産通人(呑産道人)作]巻二十七「下総国八幡宮藪を八幡知らずと申す事」
※国文学研究資料館所蔵 (CC BY-SA)
新日本古典籍総合データベース
【原文】
當時天下の愊將軍、水戸 従三位《じゆさんみ》、前《さき》の中納言 光圀《みつくに》、是へ来たるに、社壇に一人眼を閉じ、我へ対して無礼な奴。
さあ、先《ま》づ直《す》ぐに性名を名乗り、是なる死骸の有様も定めて存じつらん。
一/\此の黄門に語り聞かすべし。
異義に及ハゞ、一刀の下《もと》に命を立たん。
返答致せ」
と仰セ有り、御柄に手を掛け給へバ、彼の翁、ちつとも動ゼづ、経文を読ミ終《しま》、暫《しばら》く有つて目を開き、
「黄門、然《さ》のミ強氣を出し給ふな。
元より汝が来ることハ疾《と》く知りたり。
此所《ここ》ハ元、天にも地にも無く、中宙《ちうう》ニ無く、世界にも無くして、是を空〻寂〻《くうくうじやくじゃく》の世界と言ふて、「如来一切《によらいいつさい》、自在神力《じざいじんりき》、如我昔諸願《によがしゃくしよぐわん》、今者以満足《こんじやいまんぞく》」とて、「我不愛身命《がふあいしんみやう》、天下太平《てんかたいへい》」を祈るの所なり。
依つて、此の所を無將道《むゼうどう》と言ふ。
生有る者として、爰《ここ》へ来る者難し。
只、此の所へ来たらんと思ハゞ、妙法の功力《くりき》を頼むより外無し。
呼嗚《あふ》、汝《なんじ》は是、天下の賢人なり。
我ハまさしく天帝へ善悪を訴ふる者なり。
此所を住家として日/\に天へ登る事ハ八百六十三度。
此の上にも、我を疑ハゞ、仮令《たとへ》黄門たりとも、目に物を見せん。
早く此の所を立ち去るべし」
と言ゝながら、
【現代語訳】
今の天下の副将軍、水戸 従三位《じゅさんみ》、前《さき》の中納言 光圀《みつくに》がここへ来たというのに、社殿で一人眼を閉じているとは、ワシに対して無礼な奴だ。
さあ、まずすぐに姓名を名乗るのだ。
ここにある死骸の境遇もきっと知っているだろう。
一つ一つこの黄門に語り聞かせるのだ」
とおっしゃい、刀の柄《つか》に手をおかけになりました。
例の老人は、少しも動じず、お経を読み終わり、しばらくしてから目を開き、
「黄門よ、そんなに気性を荒くなさるな。
最初からお前がここに来ることは、とっくに知っておった。
ここは元々、天でも地でもなく、中有《ちゅうう》[死んでから次の生を受けるまでの間]でもなく、世界[人や生物が住む全ての時間(過去・現在・未来)と空間(東西南北上下)]でもない。
ここは空空寂寂《くうくうじゃくじゃく》の世界[実体がなく思慮分別を超えた世界]と言って、「如来一切《によらいいっさい》、自在神力《じざいじんりき》[如来(仏)の全ての自由自在な神力を、私(釈迦)はこの経で説く]、如我昔所願《にょがしゃくしょがん》、今者已満足《こんじゃいまんぞく》[人々を私(釈迦)と同じ境地に至らしめるという昔の願いは、今はもう満足に叶った]」と法華経の一節にあるように、「我不愛身命《がふあいしんみょう》、天下太平《てんかたいへい》」を祈る[命を惜しまず、平和を祈る]場所である。
よって、この場所を「無上道《むじょうどう》」[最高の悟り]と言う。
生きている者で、この場所に来ることは難しい。
ただ、この場所に来たいと思うなら、法華経の功徳《くどく》の力に頼るしかない。
ああ、お前は天下の賢人[徳のある人]であるから、ここに来れた。
ワシはまさしく天帝[最高神]に、人々の善悪を報告する者である。
ここを住み家として、毎日のように天に上る事、八百六十三回。
これ以上ワシを怪しいと思うのなら、たとえ黄門であろうとも、ワシの力をはっきりと思い知らせてやろう。
早くこの場所を立ち去るのだ」
と言いながら、
【解説】
老人の言ってることは、法華経のフレーズの細切れなどで、正直、なんのこっちゃよく分かりませんが、要するに、八幡知らずは人間の来るような場所ではなく、老人は天帝の使者ということのようです。
人間の善悪を天帝に報告するのは三尸《さんし》[人間の体に住んでいる上尸・中尸・下尸の三匹の虫]がよく知られていますが、上尸の姿が老人に近いでしょうか。
右から、上尸・中尸・下尸(『太上除三尸九虫保生経』)。
※wikipediaより。
八幡神社で法華経を唱える老人、江戸時代が神仏習合の世の中だったということがよくわかる一節ですね。
あ、次回で最終回です!
僕は天帝の使いじゃないけど、天丼を買ってくるお使いは頼まれたよヾ(๑╹◡╹)ノ"
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