今回でラストですが、その前にこれまでのリンクをまとめて貼っておきます。
『木曽街道続膝栗毛三編下巻』(十返舎一九作、文化九[一八一二]年刊)
続膝栗毛 3編 木曽街道膝栗毛 下 - 国立国会図書館デジタルコレクション
※この記事では国立国会図書館デジタルコレクションの画像を適宜改変して使用しています。
【原文】
亭主「合点《がてん》じや/\」
ト、頷《うなづ》き合ふてのひそ/\話。
弥次良、北八ハ、まだ寝入りもやらず、是を聞きて、可笑《おか》しさ堪《こた》へられず、じつと堪《こら》へて居たりしが、次第に夜ハ更《ふ》け行《ゆ》けど、破れ戸の隙間《すきま》漏《も》る風の冷やゝかなるに、寐付かれずして、夜の明けるを待ち兼ねけるが、程無く寺/゛\の鐘の響きも明け方近く、早や表にハ助郷《すけごう》の馬の嘶《いなゝ》く声、
馬「ヒイン/\/\」
人足《にんそく》の歌「止《よ》せバ、ナア、良かつたに、ナアン、アヘ、長持や重《おウも》い、ナアン、アヘ、ヨウ、そふだぞ/\」
ト、此の内、宿の夫婦共に起き出で、囲炉裏を焚《た》き付け、飯拵《めしごしら》へして、二人を起こし、膳を据へけるに、宵《よい》の程ハひもじかりし故《ゆへ》、目を眠《ねぶ》りて、少しづゝハ食ひたりしが、今朝ハ如何《いか》にしても胸悪く、食ふたる真似《まね》して、そこ/\に支度《したく》し、「立ち出づる」とて、
弥次「是ハ大きにお世話になりやした。
ハテ、何か忘れたよふだ」
ト、言ひつゝ立ち出でて、弥次良ハ此の宿の表の片陰《かたがけ》に立ち止まり、小便しながら聞き居るとも知らず、宿の女房、
「モシ、佛壇《ぶつだん》の金、忘れて往《い》んだか見さんせ」
亭主「合点じや、定めし忘れよつたじやあろ」
ト、仏壇を開けて見て、
「イヤア、何時《いつ》の間にやら、持て往《い》によつた。
ハテ、忘れよるはづじやが、
イヤ/\、金ハ持て往《い》によつたが、外《ほか》に忘れた物が有るわい」
女房「何を忘れて往《い》んだぞい」
亭主「旅籠銭《はたごせん》払ふ事を忘れて往《い》によつた」
ト、話を聞ゝて、弥次良、腹筋《はらすじ》を撚《よ》りながら、
弥次「ハヽヽヽヽ、こいつばかりハ当たりで有つた。
宿賃《やどちん》を 忘れて来《き》しハ 名物《めいぶつ》の 冥加至極《めうがしごく》の 仕合《しあ》ハせ/\」
【現代語訳】
亭主「分かった、分かった」
と、うなずきあって、宿屋夫婦は、ひそひそ話をしています。
弥次郎兵衛と北八は、まだ眠りに入ってはおらず、この話を聞いて、おかしくてたまらなくて、笑い声を出さないように、じっと耐えるのでした。
次第に夜は更けて行くのですが、破れ戸の隙間から入ってくる風が冷たいので、弥次郎兵衛と北八は、眠ることができず、夜が明けるのを待ちわびました。
そのうち、寺々の鐘の響きで、明け方が近いのを知り、早くも表には助郷《すけごう》[宿場での人馬が不足した時に、人馬を提供する村]の馬が、いななく声が聞こえました。
馬「ひひ~ん、ひひ~ん」
人足《にんそく》(労働者)の歌「よせば、ナア、良かったのに、ナアン、アエ、長持ゃ重《おんも》い、ナアン、アエ、ヨウ、そうだぞ、そうだぞ」[「舌切り雀」を歌った小唄(「さいさい節」の系統)か?]
と、この間に、宿屋の夫婦は起き出して、囲炉裏に火をつけ、食事の用意をして、二人を起こし、お膳を据えました。
昨晩は腹が減っていたので、目をつむりながら、少しずつは食べたのですが、今朝はどうしても気分が悪く、食べたふりをし、さっさと支度をして、出発することにしました。
弥次「これは、大変お世話になりました。
はて、何か忘れたようだが」
と言いながら、旅立ちました。
弥次郎兵衛は、この宿の表の物陰に立ち止まり、小便をしながら夫婦の会話を聞きました。
夫婦は、弥次郎兵衛が聞いているとは思ってもいません。
女房「もし、仏壇の金、忘れて行ったか見なさんせ」
亭主「分かった、きっと忘れて行ったじゃろ」
と、仏壇を開けて見ました。
亭主「いやあ、いつの間にやら、持って行きよった。
はて、ミョウガを食べたから、忘れよるはずじゃったのだが。
いやいや、金は持って行ったが、ほかに忘れた物があるわい」
女房「何を忘れて行ったのかね」
亭主「旅籠銭《はたごせん》(宿代)を払うのを忘れて行きよった」
という宿屋夫婦の話を聞いて、弥次郎兵衛は、腹の皮がよじれるほど笑いました。
弥次「ははははは、宿はハズレだったが、このイタズラだけはアタリであった(宿選びは失敗したが、イタズラは成功した)。
宿代を払うのを忘れてきたのは、ここの名物のミョウガのおかげで、冥加至極《みょうがしごく》の幸せでございます(非常に有りがたき幸せでございます)[「茗荷(ミョウガ)」と「冥加」を掛けた]」
【解説】
弥次の「ハテ、何か忘れたようだ」発言は、宿屋夫婦に弥次が金の事を忘れたと思い込ませ、宿代の事を完全に頭から忘れ去らせるという、見事なミスリードになっていますね。
宿屋夫婦は、自分たちで物忘れ効果のあるミョウガを食べさせたので、宿代を忘れられても文句は言えませんヾ(๑╹◡╹)ノ"
結局、ミョウガの効果はなかったのか、いやいや、よく考えたら、弥次喜多はご飯はつついたものの、料理はほとんど食べなかったみたいですよねヾ(๑╹◡╹)ノ"
果たして、ミョウガには本当に物忘れの効果があるのか、無粋な詮索はやめておいて、それは永遠の謎と言うことで(笑)
はて、ぼくも、なんか忘れたみたいだけど??? ヾ(๑╹◡╹)ノ"
おい、服を着るのを忘れてるよ!ヾ(๑╹◡╹)ノ"
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