［４］そうげん火～『新御伽婢子』より～ - うきよのおはなし～江戸文学が崩し字と共に楽しく読めるブログ～

　壬生寺の近くの野原に出る宗玄火は、神明の油を盗むなどの悪業のために、地獄の火に焼かれている、壬生寺の僧であった宗玄の姿だという事ですが、これに異を唱える人がいたようでしてヾ(๑╹◡╹)ﾉ"

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　今回で終わりなので、１～３のリンクを貼っておきます。

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『新御伽婢子《しんおとぎぼうこ》』巻三「野叢火」［天和三（一六八三）年刊、西村市郎右衛門作］
※東京大学駒場図書館所蔵。赤字の書入れ等は筆者。
国書データベース

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【原文】

　或る人の言ふ、
「宗玄と言ふ全體《ぜんたい》、有る物にて無し。
　叢原《さうげん》《くさハら》火と言ふ物也」
　と、字訓《じくん》を付けられし。
　一分《いちぶん》の才覚かと思はれて信用し難し。

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【現代語訳】

　ところで、ある人は、

「宗玄なんて人はそもそも存在していないんだ。

　本当は「宗玄火」ではなく、「叢原火」というものなんだ」

　と、「そうげん」は、「宗玄」という人物名ではなく、「草むら、野原」を意味する「叢原」［「草原」とほぼ同意］だということを説明しました。

　が、これは、ちょっとした思い付きで言ってることに思われて、信用できません。

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　【解説】

　挿絵は、宗玄火を見て驚く男の様子が描かれています。

　その後に、小さめの字で、追記のような形で文章が書かれています。

　要は、ある人は、

「草が生い茂る野原を飛んでいたから「叢原火」と呼ばれていた怪火を、誰かが「そうげん」という響きから、「宗玄」という人物を捏造《ねつぞう》して、面白おかしく話をでっちあげたんだ」

　と言いたいようです。

　が、作者はあっさり否定しています。

　まあ、そもそも、そうげん火の話も、ある人が語ったことも、全て作者の西村市郎右衛門の自作自演の創作だったりして（笑）

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　そういえば、ふと思い出したのですが、このお話、井原西鶴の「身を捨てて油壺」［『西鶴諸国はなし』貞享二（1685）年刊］によく似ていますよね。

※「身を捨てて油壺」に関しては過去記事参照↓↓↓↓↓。

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　西鶴の方が後発で、一応、伝承が元にされており、僧が老婆になっているものの、寺社の灯明の油を盗んだ者が亡くなって怪火になったという、大筋はよく似ています。

　当時、西村と西鶴はライバル関係で、お互いに意識し合っていた形跡があるので、ひょっとしたら、西鶴はこのお話を対抗して「身を捨てて油壺」を書いたのかもしれません。

※西村と西鶴の関係に関して、詳しくは過去記事参照↓↓↓↓↓。

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　まあ、二つを比較してみると、圧倒的に西鶴の方が構成力や文章力に勝れていて面白いですけどね（笑）

　しかしながら、西鶴と比べると、文学的評価が低い西村本ですが、この『新御伽婢子』や『御伽比丘尼』などは内容が面白いので、それなりに人気はあったと思われ、後の作品への影響も見られます。

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　ところで、この追記的な部分、作者は「一分の才覚かと思はれて信用し難し」って、ある人の説を否定してるんですけど、この部分、どうも引っかかるんですよ。