いよいよ本筋に入ります。




『好色五人女』巻四「恋草からげし八百屋物語」[貞享三(1686)年刊、井原西鶴作]
好色五人女 5巻 [4] - 国立国会図書館デジタルコレクション
【原文】【現代語訳】
早や押し詰めて廿八日の夜半《やはん》に、わや/\と火宅《くハたく》の門《かど》ハ、車長持《くるまながもち》引く音、葛籠《づゝら》、掛硯《かけすゞり》、肩に掛《か》けて逃ぐるも有《あ》り。
早くも一年の終わりが押し迫った、十二月二十八日の夜中に、火災が発生しました。
大騒ぎの焼けた家の門前では、車長持を引く音が響き、葛籠《つづら》や掛硯《かけすずり》[携帯できる硯箱]を肩に掛けて逃げる者もいました。
穴蔵《あなぐら》の蓋《ふた》取り敢《あ》へず、軽物《かるもの》を投げ込《こ》みしに、時《とき》の間《ま》の煙《けぶり》となつて、
少しでも損害を減らそうと、穴蔵の蓋を開けるやいなや、絹布《けんぷ》を投げ込んだ者もいたのですが、あっという間に燃えて煙となってしまいました。
焼野《やけのゝ》ゝ雉子《きゞす》、子《こ》を思ふが如く、妻《つま》を哀れミ、老母《らうぼ》を悲しミ、
巣がある野を焼かれてしまったキジが子を思うように、妻を亡くした者は哀れみ、老母を亡くした者は悲しむのでした。
夫々《それ/゛\》の知る辺《べ》の方《かた》へ立《た》ち退きしハ、更《さら》に悲《かな》しさ限り無かりき。
それぞれ知り合いを頼って避難することになり、ますます悲しさがこの上もなく募《つの》ります。
爰《こゝ》に本郷《ほんごう》の邊《ほとり》に、八百屋八兵衛とて賣人《ばいにん》、昔ハ俗姓《ぞくしやう》賤《いや》しからず。
さて、本郷の辺りに、八百屋八兵衛と言う、元々は家柄が悪くない商人がいました。
此の人、一人の娘《むすめ》有り。
名《な》はお七と言へり。
この人には娘が一人いて、名はお七と言いました。
年《とし》も十六、花《はな》ハ上野《うへの》の盛《さか》り、月ハ隅田川《すミだがハ》の影清く、斯《か》ゝる美女《びぢよ》の有るべき物か。
年は十六歳で、花に例えるなら上野の満開の桜、月に例えるなら隅田川に映る清らかな月影、この世に存在するとは思えないくらいの美女でした。
都鳥《ミやこどり》其《そ》の業平《なりひら》に、時代《じだい》違ひにて見せぬ事の口惜《くちを》し。
「都鳥」の歌を詠んだ在原業平《ありわらのなりひら》に、生きる時代が違うがために、お七の姿を見せられないのが残念です。
是《これ》に心を掛《か》けざるハ無し。
お七に心を寄せない者はいませんでした。
此の人、火元《ひもと》近付けバ、母親《はゝおや》に付き添《そ》ひ、年頃《としごろ》頼《たの》ミを掛けし旦那寺《だんなでら》、駒込《こまごミ》の吉祥寺《きちじやうじ》と言へるに行きて、當座《たうざ》の難《なん》を凌《しの》ぎける。
お七の家にも火の手が迫ってきたので、母親に付き添って、長年信仰している檀那寺である、駒込の吉祥寺に行って、当面の間、避難生活をすることになりました。
此の人/゛\に限らず、数多《あまた》御寺《ミてら》に掛け入り、長老様《ちやうらうさま》の寝間《ねま》にも赤子《あかご》泣《な》く声《こゑ》、仏前《ぶつぜん》に女の二布物《ふたのゝもの》を取り散らし、或ひハ主人《しゆじん》を踏み越へ、親《おや》を枕《まくら》とし、訳《わけ》も無く臥《ふ》し転《まろ》びて、
お七と母親に限らず、多くの人がこのお寺に駆け込んだので、住職様の寝室にも赤子の泣く声が聞こえ、仏前には女の腰巻が散乱し、ある者は主人を踏み越え、ある者は親を枕にして、ごちゃごちゃと入り混じって寝転ぶのでした。
明《あ》くれバ鐃鉢《にようはち》、鉦《どら》を手水盥《てうづだらい》にし、御茶湯天目《おちやとうてんもく》も仮の飯椀《めしわん》となり、
夜が明けると、鐃鉢《にょうはち》[仏具の打楽器の一種]や銅鑼《どら》を洗面器にして、仏前にお茶を供えるための天目茶碗も、飯碗《めしわん》の代わりになります。
此の中《うち》の事なれば、釈迦《しやか》も見許し給ふべし。
とはいえ、こういう非常時の事なので、お釈迦様も見逃してくださるでしょう。
お七ハ母《はゝ》の親《おや》大事に掛け、
「坊主《ぼうず》にも油断《ゆだん》のならぬ世《よ》の中《なか》」
と、萬《よろづ》に氣《き》を付《つ》け侍る。
お七は母親が大切に目を掛け、
「坊主でも油断できない世の中」
と、男が言い寄ってこないように、あらゆる事に気を配っていました。
【解説】 前回の年の瀬の慌ただしくも平和な日常から一転して、そんな年の瀬に起こった大火事に話が移ります。
ちなみに、この十二月二十八日の火事は、天和二年の大火のことだと思われ、江戸幕府の公式史料『徳川実紀』には、次のように記載されていますので、参考まで。
○廿八日月次例のごとし。諸老臣御側の輩に時服給ふ。
この日駒込大圓寺より出火し。本郷までやけひろごり。筋違淺草の兩門。谷材木の倉廩やけて。南は日本橋にとゞまる。
又一筋は下谷より本所に及び。夜に入てやみぬ。
増火消命ぜらるゝもの二十四人。
徳川実紀 第四編 - 国立国会図書館デジタルコレクション
この火事で本郷から吉祥寺に避難してきたのが、本作の主人公、八百屋八兵衛の娘、お七です。
「火事と喧嘩は江戸の華」と言われるように、江戸の町では頻繁に火災が起こりました。
この頃のお寺は、こうした火災での避難所としての役割も果たしていたんですね。
大円寺から出た火は南の方に燃え広がったようですが、吉祥寺は大円寺より北だったので被害は及ばなかったのでしょう。
「折節の夜嵐《よあらし》を凌《しの》ぎ兼ねしに」以降は、今回訳すと中途半端になってしまうので、次回に回します。
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