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姫君・玉水・月冴え歌合戦 ~『玉水物語』その7~

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玉水物語 2巻 | 京都大学貴重資料デジタルアーカイブ
※この記事では、京都大学貴重資料デジタルアーカイブの画像を、適宜改変して使用しています。

【原文】

の心の内」と口々に申しけれバ、
「何事にかあらん。心の中こそゆかしけれ。恋とやらんか。また人に恨むる心などか。怪しくこそ」とて、
「五月雨《さミだれ》の 程ハ雲井の 郭公《ほととぎす》 誰《た》が思ひ寝《ね》[「音《ね》」ともかかっている]の 色を知るらん」
 玉水やがて、「心から 雲井を出でて 郭公《ほととぎす》 何時《いつ》を限りと 音《ね》をや鳴くらん」
 月冴え、「覚束《おぼつか》な 山の端《は》出《いず》る 月よりも 猶《なほ》鳴き渡る 鳥の一声《ひとこゑ》」など言ひ交ハし、夜も更けぬれバ、内へ入らせ給ひ
ぬ。され共《ども》、玉水は「月の残り多く侍《はべ》る」とて、残り居て、越し方、行く末、打ち案じ、「扨《さて》も我ハ、何時《いつ》を限りに、何と成るべき身の果てぞ」と漫《すゞ》ろに涙漏れ出でて、袖も絞る斗《ばか》りに成りにけれバ、
哥「思ひきや 稲荷の山を 余所《よそ》に見て 雲井遥《ハる》かの 月を見るとハ」
又「心から 雲井を出でて 望月《もちづき》の 袂《たもと》に影を 差す由《よし》もかく」
又「心から 恋の涙を 塞《せ》き留《と》めて 身の浮き沈む 事ぞ由《よし》無き」

 いと久敷《ひさしく》帰らねバ、月冴へ心許《こころもと》なくて立ち帰るに、斯《か》く遊《すさ》むを聞きて、怪しく覚ゆれバ、
「余所にても 哀れをぞ聞く 誰故《たれゆへ》に 恋の涙に 身を沈むらん」と訪《とむら》へバ、姫君聞ゝ給ひ、
「大方の 哀れハ誰も 知らずやと 身ニハ習ハぬ 恋路成りとも


【予習の答え】

玉水やかて
 心から雲ゐを出て郭公いつを限りとねをや鳴らん

【ヤキモチ焼くより現代語訳】

 玉水はすかさず、
「その鳴き声にはホトトギスの深い思いが込められているのでしょう」
 と詠んで、すぐに「私の心の中にも深い思いが」とゴニョゴニョ口ごもりました。
 姫君は、
「どういうことでしょ? 玉水心の中を知りたいですわ。
 誰かとか言うものをしているのかしら?
 それとも、誰か思われているのかしら? 気になりますわ。」
 とおっしゃって、
五月雨(さみだれ[梅雨]が邪魔をして、雲の中から出られないホトトギスは、
愛しいお方思いながら寝ていることは、ご存知ないでしょうね』
 と嘆いて鳴いているのでしょうか?」

「五月雨」ホトトギス」「雲」の組み合わせは足利義輝の辞世の句「五月雨は 露か涙か 不如帰(ほととぎす) 我が名をあげよ の上まで」をふまえているか]
 とお詠みになりました。
 玉水はすぐに
ホトトギスは、『早く雲の中から出て、その方のためにいつまでもを上げて鳴いていたい』と心から思っていることでしょう」
 とお返ししました。
 月冴えは、
「ぼんやりと山の端からが上ってきましたが、ますますホトトギス鳴く声響き渡っていますね」

 と詠み、何度かを交わして、も更けたので、姫君は中にお入りになりました。
 しかし、玉水は「まだが沈むまで時間があるので[まだ月を見ていたいので]」と言って、その場に残り、
「それにしても、私の身は、いつどうなってしまうのだろうか」
 と、これまでの事これからの事を考えると、無性《むしょう》にがあふれてきて、絞(しぼ)れるくらいビショビショを濡らすのでした。そして、次のようなを詠みました。
「まさか稲荷山[キツネが神として祭られている、稲荷神社の総本社である、伏見稲荷の神体山]をないがしろにして、よりもはるか上で輝く[姫君のことを「月」にたとえている]夢中になるとは思いもしませんでした」
「早く雲の中から出て、満月[姫君]に照らされる日が来るのを、心から願ってはいるのですが」
「心からするあまりに、とめどなくあふれるを溜《た》めて、その中でを意味もなくプカプカ浮き沈みさせるしかないのですね」
 玉水がなかなか帰ってこないので、月冴えは心配して戻ってみると、このようなを詠んでいるのが聞こえてきたので、不思議に思い、
「あなたの嘆きをつい立ち聞きしてしまいした。を思って涙の海を沈めているのでしょうか?[誰を思って泣いているのでしょうか?]
 と尋ねました。姫君もお聞きになって、
あなた嘆きは全て分かっていますわよ。たとえには経験の無い恋の悩みであっても。

【解説】

「五月雨の程は雲井の郭公誰が思い寝[音]の色を知るらん」までがセンター試験出題された箇所です。
それにしても歌の解釈難しすぎます!
研究者によって解釈マチマチになると思います。
思いっきりざっくり解釈すると、たぶん次のようなことを、を通して言っているんでしょう!

姫君①「ねえ、玉水、あんた誰か好きな人でもいるんでしょ?教えてよ!」
玉水②「いえいえ、でもぐらいはするものだという、一般論でございます」
月冴え③「あらあら、玉水さん顔が赤いですけど、どうなさったんですの?」
玉水④「まさか人間の姫君夢中になるとは」「ああ、本当は姫君チョメりたいっ!」「もう、今は泣くしかないですわ!」
月冴え⑦玉水さんは一体どなたして泣いているのですの?」
姫君⑧玉水に悩んでるのはお見通しですわよ!」

姫君玉水恋の相手自分だとはにも思ってないでしょうね。
確かにこのあたりだけを見たら、百合っぽい感じはしますね。

次回の予習

「やしなひはゝ(養母)」というのは例の女主人のことですね。

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