玉水物語 2巻 | 京都大学貴重資料デジタルアーカイブ
※この記事では、京都大学貴重資料デジタルアーカイブの画像を、適宜改変して使用しています。
【原文】
の心の内」と口々に申しけれバ、
「何事にかあらん。心の中こそゆかしけれ。恋とやらんか。また人に恨むる心などか。怪しくこそ」とて、
「五月雨《さミだれ》の 程ハ雲井の 郭公《ほととぎす》 誰《た》が思ひ寝《ね》[「音《ね》」ともかかっている]の 色を知るらん」
玉水やがて、「心から 雲井を出でて 郭公《ほととぎす》 何時《いつ》を限りと 音《ね》をや鳴くらん」
月冴え、「覚束《おぼつか》な 山の端《は》出《いず》る 月よりも 猶《なほ》鳴き渡る 鳥の一声《ひとこゑ》」など言ひ交ハし、夜も更けぬれバ、内へ入らせ給ひ
ぬ。され共《ども》、玉水は「月の残り多く侍《はべ》る」とて、残り居て、越し方、行く末、打ち案じ、「扨《さて》も我ハ、何時《いつ》を限りに、何と成るべき身の果てぞ」と漫《すゞ》ろに涙漏れ出でて、袖も絞る斗《ばか》りに成りにけれバ、
哥「思ひきや 稲荷の山を 余所《よそ》に見て 雲井遥《ハる》かの 月を見るとハ」
又「心から 雲井を出でて 望月《もちづき》の 袂《たもと》に影を 差す由《よし》もかく」
又「心から 恋の涙を 塞《せ》き留《と》めて 身の浮き沈む 事ぞ由《よし》無き」
いと久敷《ひさしく》帰らねバ、月冴へ心許《こころもと》なくて立ち帰るに、斯《か》く遊《すさ》むを聞きて、怪しく覚ゆれバ、
「余所にても 哀れをぞ聞く 誰故《たれゆへ》に 恋の涙に 身を沈むらん」と訪《とむら》へバ、姫君聞ゝ給ひ、
「大方の 哀れハ誰も 知らずやと 身ニハ習ハぬ 恋路成りとも
【予習の答え】
玉水やかて
心から雲ゐを出て郭公いつを限りとねをや鳴らん
【ヤキモチ焼くより現代語訳】
玉水はすかさず、
「その鳴き声にはホトトギスの深い思いが込められているのでしょう」
と詠んで、すぐに「私の心の中にも深い思いが」とゴニョゴニョと口ごもりました。
姫君は、
「どういうことでしょ? 玉水の心の中を知りたいですわ。
誰かに恋とか言うものをしているのかしら?
それとも、誰かに思われているのかしら? 気になりますわ。」
とおっしゃって、
①「五月雨(さみだれ)[梅雨]が邪魔をして、雲の中から出られないホトトギスは、
『私が愛しいお方を思いながら寝ていることは、誰もご存知ないでしょうね』
と嘆いて鳴いているのでしょうか?」
[「五月雨」「ホトトギス」「雲」の組み合わせは、足利義輝の辞世の句「五月雨は 露か涙か 不如帰(ほととぎす) 我が名をあげよ 雲の上まで」をふまえているか]
とお詠みになりました。
玉水はすぐに
②「ホトトギスは、『早く雲の中から出て、その方のためにいつまでも声を上げて鳴いていたい』と心から思っていることでしょう」
とお返ししました。
月冴えは、
③「ぼんやりと山の端から月が上ってきましたが、ますます鳥[ホトトギス]の鳴く声は響き渡っていますね」
と詠み、何度か歌を交わして、夜も更けたので、姫君は中にお入りになりました。
しかし、玉水は「まだ月が沈むまで時間があるので[まだ月を見ていたいので]」と言って、その場に残り、
「それにしても、私の身は、いつどうなってしまうのだろうか」
と、これまでの事、これからの事を考えると、無性《むしょう》に涙があふれてきて、絞(しぼ)れるくらいビショビショに袖を濡らすのでした。そして、次のような歌を詠みました。
④「まさか稲荷山[キツネが神として祭られている、稲荷神社の総本社である、伏見稲荷の神体山]をないがしろにして、雲よりもはるか上で輝く月[姫君のことを「月」にたとえている]に夢中になるとは思いもしませんでした」
⑤「早く雲の中から出て、満月[姫君]に照らされる日が来るのを、心から願ってはいるのですが」
⑥「心から恋するあまりに、とめどなくあふれる涙を溜《た》めて、その中で私は体を意味もなくプカプカと浮き沈みさせるしかないのですね」
玉水がなかなか帰ってこないので、月冴えは心配して戻ってみると、このような歌を詠んでいるのが聞こえてきたので、不思議に思い、
⑦「あなたの嘆きをつい立ち聞きしてしまいした。誰を思って涙の海に身を沈めているのでしょうか?[誰を思って泣いているのでしょうか?]」
と尋ねました。姫君もお聞きになって、
⑧「あなたの嘆きは全て分かっていますわよ。たとえ私には経験の無い恋の悩みであっても。
【解説】
「五月雨の程は雲井の郭公誰が思い寝[音]の色を知るらん」までがセンター試験で出題された箇所です。
それにしても歌の解釈が難しすぎます!
研究者によって解釈はマチマチになると思います。
思いっきりざっくり解釈すると、たぶん次のようなことを、歌を通して言っているんでしょう!
姫君①「ねえ、玉水、あんた誰か好きな人でもいるんでしょ?教えてよ!」
玉水②「いえいえ、誰でも恋ぐらいはするものだという、一般論でございます」
月冴え③「あらあら、玉水さん、顔が赤いですけど、どうなさったんですの?」
玉水④「まさか人間の姫君に夢中になるとは」⑤「ああ、本当は姫君とチョメりたいっ!」⑥「もう、今は泣くしかないですわ!」
月冴え⑦「玉水さんは一体どなたに恋して泣いているのですの?」
姫君⑧「玉水が恋に悩んでるのはお見通しですわよ!」
姫君は玉水の恋の相手が自分だとは夢にも思ってないでしょうね。
確かにこのあたりだけを見たら、百合っぽい感じはしますね。
次回の予習
「やしなひはゝ(養母)」というのは例の女主人のことですね。
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