今回と次回(予定)はこのブログの初期に取り上げた『曽呂里物語(曽呂利物語)』の二編を読み直したいと思います。
初期の頃は今に比べるとかなり雑に読んでしまったので、心残りだったんですヾ(๑╹◡╹)ノ"
まず、今回は巻四の一「声良き者を龍宮より欲しがる事」です。
『曽呂里物語』は、ここに載せれる画像が無かったので、オリジナルをご覧になりたい方は、下のリンク先でご確認くださいね。www.wul.waseda.ac.jp
『曽呂里物語』は怪談集で、寛文三(一六六三)年に出版されました。曽呂里(曽呂利)って人が語った話を集めた作品です。
曽呂里は、豊臣秀吉に御伽衆《おとぎしゅう》として仕えた、曽呂利新左衛門《そろりしんざえもん》のことです。要するに秀吉に面白い話を聞かせた人です。
もちろん、『曽呂里物語』は本当に曽呂里がした話を集めたわけではなく、あくまでもそういう設定で書かれた作品なのであしからずヾ(๑╹◡╹)ノ"
【翻刻】
曽呂里物語《そろりものかたり》巻第《くハんのだい》四
一 聲よきものを龍宮《りうぐう》よりほしかる叓
尾張《おハり》の国あつ田のミやに。つねにうたひをすきてよる
ひる共なくうたふもの有けり。すこし海上《かいしやう》に地をつ
きいたし爰に一つの亭《ちん》をつくりかの一 曲《きよく》なををこたらす
ある夜ふけすぐるまてうたひ侍りけるか。海上二町ほと
おきより大をんじやうをいだし。いや/\とほめたりけり。此
こゑかのものゝ耳にとまりいとたえかたかりけるが。其ままゝいた
ハりつきぬ。ほとへて心ミたれすてにまつごにをよハんとす。
ときに一門けんぞくあつまりなげきかなしむ。かゝりける所に
おきのかたよりにハかにしんどうして身の毛よだちけるが。
たけ一丈もあるらんとおほしきおとこの。まなこハ日月のことく
ひかりかゝやき。おもての色 朱《しゆ》をさしたるがことく。左右の
まゆハうるしにてにりたることくして。まことにおもてをむかふる
にたましゐをうしなふほとなるか。彼のざしきにむづとゐな
をり。何とやうじやうする共明日のくれほとに。かならすむか
ひに来るへしといひてけすかことくにうせにけり。とかういふ
へきかたもなく。さあらハ明日ハ番を置けとて弓やなぐゐを
もつてをの/\とのゐして待かけたり。又あくるねのこくとおほ
しきころ。海上めいどうしてひかりみちてくだんのものきた
れる。前かどハうちもとゝめ射《い》もころさんとひしめきしもの
共。心ばうぜんとして足もなへてにハかにかのけしきにてさま
よふうちに。其まゝ彼病人をいだきて。海中に入ぬ。此上ハちか
らをよハぬことなれハ。なきあととふらひなげきゐたるざし
きへ。又あくるいぬの時ばかりに。かのおとこをすん/\に引さきて
ほしくハかへさんとてざしきになげいたす。いかなる事とも
わきまへかねて
【原文】※漢字や送り仮名を補足した表記
曽呂里物語《そろりものがたり》巻第《くハんのだい》四
「一 聲良き者を龍宮《りうぐう》より欲しがる叓」
尾張《おハり》の国熱田の宮に、常に謡《うたひ》を好きて夜昼共無く謡《うた》ふ者有りけり。
少し海上《かいじやう》に地を突き出《い》だし、爰《ここ》に一つの亭《ちん》を作り、彼《か》の一 曲《きよく》尚《なを》怠《おこた》らず。
或《あ》る夜更け過ぐるまで謡ひ侍《はべ》りけるが、海上二町程沖より大音声《だいおんじやう》を出だし、「いや/\」と褒《ほ》めたりけり。
此《こ》の声、彼の者の耳に留《と》まり、いと耐《た》え難《がた》かりけるが、其《そ》のまゝ労《いたハ》り就《つ》きぬ。
程 経《へ》て心乱れ、既《すで》に末期《まつご》に及バんとす。
時に一門 眷属《けんぞく》集まり、嘆《なげ》き悲しむ。
斯《か》ゝりける所に、沖の方より俄《にハ》かに震動《しんどう》して身の毛 弥立《よだ》ちけるが、丈《たけ》一丈もあるらんと思《おぼ》しき男の、眼《まなこ》ハ日月の如《ごと》く光り輝き、面《おもて》の色、朱《しゆ》を差したるが如く、左右の眉《まゆ》ハ漆《うるし》にて塗りたる如くして、真《まこと》に面《おもて》を向かふるに、魂を失ふ程なるが、彼の座敷にむづと居直り、「何と養生《やうじやう》する共、明日の暮《く》れ程に必ず迎ひに来るべし」と言ひて、消すが如くに失《う》せにけり。
兎角《とかう》言ふべき方も無く、「さあらバ、明日は番を置け」とて、弓 胡簶《やなぐゐ》を持つて、各々《をの/\》宿直《とのゐ》して待ち懸《か》けたり。
又明くる日の子《ね》の刻《こく》と思しき頃、海上 鳴動《めいどう》して、光満ちて件《くだん》の者来たれる。
前廉《まえかど》ハ「討ちも止《とゞ》め、射《い》も殺さん」と犇《ひし》めきし者共、心 茫然《ばうぜん》として足も萎《な》へて、俄かに彼の気色《けしき》にて彷徨《さまよ》ふ内に、其のまゝ彼の病人を抱《いだ》きて、海中に入りぬ。
此の上ハ力及ばぬ事なれバ、亡《な》き跡《あと》弔《とぶら》ひ、嘆き居たる座敷へ、又明くる戌《いぬ》の時ばかりに、彼の男を寸々《すん/゛\》に引き裂《さ》きて、「欲しくバ返さん」とて座敷に投げ出だす。
如何《いか》なる事とも弁《わきま》へ兼《か》ねて。
【現代語訳】
『曽呂里物語』巻四の一
「ええ歌声の男が龍宮から欲しがられる話」
尾張国《おわりのくに》[愛知県名古屋市]の熱田神宮のあたりに、謡曲《ようきょく》[能の脚本に節を付けて歌うこと]が好きで、夜も昼も関係なく、いつも歌っている男がいました。
海に向かって歌えばうるさくないので、少し海面にテラスを突き出した小屋を建て、いっそう謡曲を歌うことに励みました。
ある日、夜更け過ぎまで歌っていましたが、100メートルほど沖の海面から、とてつもなく大きな声で、「いやいや、素晴らしい!」と男を褒めるのが聞こえました。
この声がずっと男の耳に残り、とても我慢できないほどなり、そのまま病の床に臥《ふ》せてしまいました。
それから男は精神状態もおかしくなり、このまま最期の時を迎えるしかないと思われました。
男の一族は集まり、嘆き悲しんでいた時、海の沖の方が突然震動したので、皆、恐れおののきました。
すると、身長3メートルはあるかと思われる大男が現れました。
大男の目は太陽や月のように光り輝き、顔の色は朱色の顔料を塗ったようで、左右の眉毛は漆を塗ったようでした。
面と向かって見るだけで、魂を失ってしまうかと思うほど恐ろしい姿の大男は、皆が集まっている座敷にどっかりと腰を下ろして、「どれだけ守り固めても、明日の暮れぐらいに、必ずこの男を迎えに来るからな」と言って、まるで消えたようにいなくなりました。
どうもこうも言っておられないので、「それならば、明日は番を置いて守ろう」と、弓と胡簶《やなぐい》[腰に付けて矢を入れる道具]を持って、皆、泊まって大男を待ち構えました。
翌日の深夜0時頃、海面が大きな音を立てて揺れ、満ち溢れた光とともに例の大男が現れました。
さっきまで「矢を射って確実に殺してやろう」と騒ぎ立てていた者たちは、あまりの恐ろしさに気力を無くしてボーっとし、足もガクブルで動かなくなってしまいました。
すると、大男はあっという間に、あっさりと家の中に入って来て、そのまま病人の男を抱きかかえて海の中に入っていきました。
これ以上はとても人間の力が及ぶことではないので、男が亡くなったこととして葬儀を行い、皆が嘆いている座敷に、翌日の午後8時頃、また大男が現れました。
大男は謡曲好きの男をズタズタに引き裂いて、「こいつを返して欲しいなら、返してやろう!」と言って座敷に投げ出しました。
なんのこっちゃ、さっぱり分かりません。。。
【挿絵】(模写)
※挿絵には、
「こゑよき者ハりうぐうよりほしがるてヲたゝきほむる所」
(声良き者は龍宮より欲しがる。手を叩き褒むる所)
と書かれています。
※勝手に色を付けてみましたヾ(๑╹◡╹)ノ"
【解説】
今は熱田神宮のあたりは埋め立てられていますが、江戸時代は海がすぐ近くまであったようです。
本文では言及されてていませんが、タイトルにあるように大男は龍宮からの使者です。
結局、なんで謡曲好きの男は殺されてしまったのかは書かれていませんが、とにくかく理不尽ですね。
龍宮に連れて行ってはものの、弱っていてロクに歌えなかったからなのか、竜王や乙姫の前で緊張して上手く歌えなかったのか?
どちらにしても、趣味にのめりこみすぎてはいけないという教訓話なのでしょうかね?
まあ、よくわかんないのが、逆にリアリティーがあって怖かったりしますヾ(๑╹◡╹)ノ"
関係ないですけど、龍宮の使いつながりで、『リュウグウノツカイ君』もご覧いただけたらヾ(๑╹◡╹)ノ"myougirl.hatenablog.com
こちらの本の付録のCD-ROMに、『曽呂里物語』を含む、江戸時代の怪異小説の挿絵解説が収録されています。
北見花芽の中の人も書いていますヾ(๑╹◡╹)ノ"
三つ目コーナー
僕の歌も聴いてよ、ボエ~♪ホゲ~♪
うん、君は誰にも連れていかれないから安心しなヾ(๑╹◡╹)ノ"
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